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0話:光の王国、アグナ=レイム


エーテル。


それは文字通り、神のみ技であった。

アグナ=レイム王国の繁栄は、この眩いばかりの「光」によって成り立っている。

人々にとってのエーテルは、単なる燃料や資源ではない。それは空気を吸うのと同じように当然で、かつ不可欠な、至高の恩恵であった。


想像してみるがいい。

巨大な建材の石が、エーテルの浮力によって紙のように軽く宙を舞い、壮麗な大聖堂がまたたく間に築かれる様を。

死の淵を彷徨う重傷者が、エーテルの光を浴びるだけで瞬時に傷を塞ぎ、平然と立ち上がる奇跡を。

不毛の地であったはずの荒野が、この光を流し込むだけで黄金色の小麦畑へと姿を変え、季節を問わず民の腹を満たす豊穣を。


王都には夜という概念が存在しない。街灯は夜通し太陽のごとき輝きを放ち、貧しい者でさえ、冬の寒さに震えることも、暗闇に怯えることもなかった。

「神託の王家」が地脈から汲み上げるこの無限のエネルギーは、文字通りこの世から「絶望」を消し去ったかのように見えた。


――だが、そんな完璧で無限の力など、この世に存在するのだろうか。


第十六代王国の頃、他国へのエーテル輸出が始まって以来、この美しい光は静かに牙を剥き始める。

何の前触れもなく機械が火を噴き、光に触れた者が廃人のように崩れ落ちる――「エーテル事故」。

管理局はそれを老朽化ゆえの不運だと切り捨てたが、その頻度は年を追うごとに増していた。

まるで、この国を照らす光が強まれば強まるほど、その足元の影がより深く、濃く、濁っていくかのように。


この物語の主人公ミリア・アグナ=レイムは18代国王の娘。第19代目となるこの国の次期王女だった。

王女という高貴な身分でありながら、彼女は城に閉じこもることを嫌った。変装をしては監視の目を盗んで城下町へ繰り出し、街の子供たちと泥だらけになって遊ぶ。

そんな彼女に大人たちは眉をひそめたが、ミリアにとっては、エーテルの恩恵に浴して祈りを捧げるだけの静かな生活よりも、自分の足で街を駆け、風を感じることの方がずっと価値のあることに思えたのだ。


彼女の傍にはいつも、二人の少年がいた。

一人は、職人見習いのゼノ・ガレット

両親をエーテルの暴走で亡くし、偏屈な祖父に育てられた彼は、街の鼻つまみ者だった。だがミリアだけは、彼が作るエーテルに頼らない「理屈で動くカラクリ」を、エーテルよりもずっと素晴らしい魔法だと目を輝かせて称賛した。

もう一人は、カイル・ベイン

父を殉職で亡くし、病弱な母を支える優しい少年だ。かつていじめっ子に絡まれていた彼を、ミリアが迷わず殴りかかって助けたあの日から、三人の絆は始まった。

泣き虫だったカイルが、ミリアの無鉄砲さをハラハラしながら追いかけ、ゼノが毒づきながらそれを支える。それが彼らの日常だった。


ミリアは信じていた。自分たちの関係は、この国の平和と同じように永遠に続くのだと。

いつかゼノが世界一の職人になり、カイルが立派な騎士になり、自分がそれを王城から見守る未来を。

だが、王宮の奥深くから漂い始めた不穏な影が、彼女の無邪気な日常を侵食し始める。

ミリアは、まだ知らなかった。

彼女が愛したこの国の光が、どれほど残酷な犠牲の上に成り立っているのかを。


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