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スーツケースガール  作者: ゆうすけ


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スーツケースの中は真っ暗で、息をするたびに自分の吐息が熱く戻ってくる。

手首と足首は太い結束バンドで縛られ、口にはガムテープ。膝を抱えたまま丸まっていると、まるで母の胎内に逆戻りしたみたいだと思った。でも、もう誰も私を守ってくれない。

「じゃあ、投げるぞ」

男の声がすぐ外で響く。

「可愛い子だったのにもったいないな」

「可愛けりゃ可愛いほど、沈むの見たくなるだろ」

笑い声。

そして、ぐい、と持ち上げられて——放り投げられた。

落下は一瞬だった。

衝撃。冷たさ。

スーツケースが海面に叩きつけられ、隙間から水が噴水みたいに吹き込んでくる。すぐに膝まで、腰まで、胸まで。

私は暴れた。意味もなく暴れた。スーツケースが揺れるたび、水がさらに勢いを増す。

息ができない。

もうダメだ。

そう思った時、指先が何か硬いものに触れた。

母がくれた小さな髪留め。

金属の細いピンがついたやつ。

いつも「危ないから外しなさい」って怒られてたやつ。

震える指でそれを抜く。

結束バンドを引っ張り、ピンを差し込み、ひねる。

一度目、滑った。

二度目、また滑った。

水が首まで来て、鼻先まで来て——

パキン。

手首が自由になった。

次は足。

そして口のテープを無理やり剥がす。皮膚が裂ける感触がしたけど、そんなのどうでもいい。

蓋の錠前は外側からしか開かないタイプ。

でも、私は小さい。

肩を脱臼させる覚悟で、体をねじり、頭から蓋に突っ込む。

一回、二回、三回——

ガコン。

蓋が少しだけ浮いた。

そこに指を差し込み、全身の力を込めて押し上げる。

海水が顔にかかる。目が開けられない。

でも、私は這い上がった。

スーツケースの外側にしがみつき、ようやく水面に顔を出した。

夜の海は静かすぎて怖かった。

星が無数に降っていて、私を見下ろしているみたいだった。

遠くに灯りが見える。 

あいつらの船だ。

まだ近くにいる。

私は髪を海に垂らし、ゆっくりと息を整えた。

冷たい。痛い。怖い。

でも、生きてる。

「……可愛い子だったのに、ね」

小さく呟いて、笑った。

涙と海水が混じって、しょっぱい。

次に会う時は、

私がお前たちをスーツケースに入れてあげる。

蓋を閉める前に、ちゃんと笑顔で見送ってあげるから。

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