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あそこだな。

レイが三階に蠢くマナを見て辺りを見渡す。

二階は大きなオープンフロアになっていて奥には外から見えたテラス席があった。

このフロアも多くの人がおり、一階に比べるとどちらかというとより柄が悪いような雰囲気だった。

酒の匂いだけでなく、タバコの匂い、それに独特の甘い香りがありおそらく合法か違法かは不明だがドラッグの香りだ。

年齢も一階は若さが目立ったが、どちらかというともう少し成熟した様子。

酔いが入っていようが普通だと少し気圧されて一階に戻るであろう。少なくともレイのような一人で来ている若い男はいない。

レイは半分ほど飲んだエールを片手に階段の位置がよく見える丸テーブルにグラスを置き、もたれかかっているような少し姿勢を悪くした状態で陣をとった。


これだと酒に酔って二階にあがってきた風に見えるだろーー。


そうして周りを見ていると、やはり多くの人の中にも、紫のマナを薄くまとった人間が数名いることが確認できた。

そのほとんどは酒を煽り、大きな笑い声をあげている。

男は気が大きくなり、女は派手な笑い声をあげている。

幻覚系の魔術といっても、おそらく脳に感知するようなものだろうか。リミッターを外し、テンションをあげるような。

ただ、どこか目は虚ろで現実感がないような様子も見える。

おそらく体内のマナも消費されているはずで、解けた後の疲労感も大きそうだ。

依存性はおそらくない、ように思えるが、おそらく一晩のことを記憶を朧げにすること、また容易に連れ去ったり何かをさせるには十分だろう。

行方不明者が何名か出てるのはおそらくこの魔術で朧げになったまま連れ去られている。


その中、一人で笑顔で向かいのテーブルに立っている女がいる。

年はおそらく自分より少し上で、背は少し低いがくりっとした目がはっきりと目にはいる。

そして彼女もまたぼんやりとだが紫のマナをまとっていた。

レイは目線をあわすように彼女を見ると、ニコッと笑ってレイのテーブルに近づいてくる。


「お兄さん、一人?」


けっこうな量を飲んだのか、顔は紅潮しておりどこか目つきもぼんやりとしている。


「あぁ、ちょっと酔っちゃってさ」


「えー、そうなの?」


フフ、と笑いながらカワイイと溢しながら立っているレイを見る。


「お姉さんは一人?」


「ううん、友達と。だけどどこか抜けちゃったみたいでさ、今一人」


氷が少し溶けたロングカクテルを傾けながら、乾杯とレイのグラスを軽くつつく。

くいっと少し飲んだ後女はレイの顔をまじまじと見つめ笑う。


「綺麗な顔。猫みたいな目してるね」


「お姉さんこそ」


えー、と嬉しそうに笑い声をあげる。

レイはニコッと笑うと、肩を指差して羽織が少しはだけていることを指差す。


「ただ、そんな風になってると危ないよ。悪い人に狙われる」


「悪い人って誰?もしかして君?」


ふふっと笑いながら、テーブルを回り込みそっとレイに身体を密着させると途端に纏っていた紫色のマナが霧散する。

その瞬間くらっと倒れるように女がよろめいた。


「大丈夫?」


「え、うん。大丈夫。ちょっとフラっとしたんだけど、……って、あれいつの間に私こんなとこに…」


「お姉さん多分飲み過ぎだよ」


「そう、かな。…でもなんでだろう。急になんだかここが怖くなってきた」


レイの身体に触れたことでおそらくまとっていたマナが霧散し、魔術が解けたのだが女は自分の腕のさすりながらも、気づく様子はなく少し怯えた顔でレイを見る。


「ちなみに、一つ聞きたいんだけどここって三階ってどうやったらあがれるかわかる?」


「え、……三階?……確か、友達からもらったこのリストバンドがあれば入れるみたいだけど……君いる?」


「本当?ちょっと気になってたんだ」


女からバンドを受け取ると、レイはもう一度女と乾杯を交わしエールを一口飲んだ。


「お姉さん、ちょっと飲み過ぎみたいだからそろそろ帰った方がいいんじゃない?」


「うーん、ちょっとそうかも。ありがとう」


そう言ってレイはテーブル離れてもらったバンドを手に持ち三階へ続く階段へと向かった。

濃くなるマナに顔をしかめながら三階への階段をのぼると三階のフロアへ続く扉の前に屈強な男が一人。


「悪いがここから先は関係者以外は立ち入りは禁止だ」


レイより頭ひとつ分大きく、恰幅も大きい。おそらく見張り番だろう。

レイは先ほど女よりもらったバンドを見せると男は無表情でレイを見る。


「さっきこれ貰ったんだけど、入れない?」


「どこでもらった?」


「さっき仲良くなった子から三階行ってみたいって話したらもらったんだよ、無理?」


男はしばらく黙った後に、確認をしてくる。と言って中へ入っていった。

扉が少しあいた瞬間にもマナはより濃くなり、思わずレイは顔をしかめた。

自然に発生したマナであれば苦しくはないが、ここまで普段見ないものを視覚で見るとさすがに苦しい。

なんとなく身体にまとまわりつく空気も重たくなっているのもおそらく気のせいではなく、これが原因だろう。


『リュカ、ターゲットはいないけどおそらく三階が怪しい。リストバンドをゲットできたからこのまま入ってみる』

左髪に隠れた通信機を使って、レイはリュカにそう問いかけると小さな音声で「了解、気をつけて」と返事が返ってきた。


そしてしばらくして男が戻ってきた時扉があいた。


「いいぞ。入れ」


男が声をかけ、レイは扉の中へ入ると奥には壁。

左にはまた薄暗い通路があり、奥からは下とは違い静かすぎる音楽が流れテーブルとハイテーブル、そして奥にソファ席があるフロアが現れた。

フロア内は人は二階ほどではないが人がいる。そしてどれもが紫のマナをまとっており、酒をあおっていた。

どこか現実感がないような空間で異常な空気を感じる。

目は空いているのに焦点があっていない人。紫のマナがまるで水槽の中に落とされた墨のようにフロアに漂っている。

レイは辺りを見渡すと、ソファの方からはより濃いマナが滞っているのが見えた。

そこにいたのはリュカより見せられたターゲット。

間違いない、あの男だ。

そしてその正面には黒衣で覆われた男が座っていた。


影の住人(シェイド)……?まさかーーー


レイの頭の中によぎるのは、過去自分の村を襲った黒衣の集団。

細かいディティールまでは覚えてはいないが、それを連想させるには十分だった。


そしておかしなことにこの二人はマナでは覆われていない。おそらくこの二人が黒で間違いない。

その瞬間、黒衣の男がこちらを見る。

銀の髪に鋭い眼光からははっきりと自分を見ている。

その瞬間、レイの中に謎の既視感が襲う。


【なんだ…俺はこいつを見たことがある……?】


ただ、知らない。端正で一度見たら忘れないであろう顔の男にレイは強烈な違和感を覚えていた。

男ははっきりとこちらを見ている。そして次の瞬間、マナがより一層濃くなりレイの身体を覆おうとした。

だが、覆ったマナがレイを覆い尽くそうとした瞬間、

まるで忌避するかのように空間自体がパンっと弾け紫のマナが一斉に霧散した。

その瞬間、フロアのいた誰もが一瞬時が止まったかの動きが止まる。

空気が変わった。いや、レイによって幻覚の魔術が全て消え去ったのだった。


「……なるほど。魔を殺す器ってのは実在したのか」


いつの間にかレイの前に立っていた黒衣の男がそう呟いた。

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