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四人は教会の小部屋に集まり、無言のまま向き合っている。

洞窟での出来事ーー黒衣の男とマナの暴走、そしてゼオンの出現。

そして旧王家との関わりについて、調べることがとにかく多かった。


あの後すぐ町へ戻り、安全保障科へ事態の報告を済ませた。

その夜半から未明にかけて、山奥の祭壇には封鎖線が張られ、調査官たちが投入された。

同時刻、ヴァルター邸にも強制捜査が入り、通りは黄色い規制コードと特殊部隊の黒装備で埋め尽くされた。

朝刊各紙と通信網が一斉に『マナテック役員ヴァルター邸、違法薬物流通の疑い』と報じ、町は一夜で騒然となった。

ヴァルター邸からは大量の違法薬物に加え、顧客リストと多額の資金取引記録が押収され、関係者二十余名が相次いで拘束された。

彼らの中には地方議員や医療関係者、教会の助祭数名も含まれていたことが判明し、「薬物と教会の癒着」疑惑は急速に民衆の関心を集めた。


一方、山奥の祭壇については「セラフィダ教会が管理する宗教施設」との理由で教会側主導の調査へ移行されたものの――

封鎖線の奥に大量のマナ反応が検出されたこともあり、現場は未だ混乱の渦中にあった。


リュカが無駄のない手つきで記録デバイスを操作する。

エリスは聖水や聖具の検査報告を整理し、レイは証拠品となりそうなものを並べていた。


「ヴァルターと教会関係者二人──

上層部は“行方不明扱い”で処理する方針みたいや」


ジェフがデバイス越しに報告を受け、眉をひそめる。

公には事件を伏せる──教会への配慮が透けて見える判断だった。


「……隠蔽か」


レイは唇を噛んだ。

だが抗う術はなかった。


「……ヴァルターの私室からは、これやな」


ジェフが薄い笑みを浮かべながら分厚い封筒を机に置いた。

その中には取引記録と顧客リスト、そして見慣れない魔術式が記された契約書の写しもある。


「デバイスにいれてたら足をとられるかもせえへんってことで自室の金庫にあったみたいやわ。コピーしたやつもろてきた」

「違法薬物の売買記録ね……こんな露骨に残してあるなんて」

「まぁ、教会関係の後ろ盾もあったんやろ。せやけど、ここからじゃ教会の裏は全くとられへんわ」

「そうだね。僕達が見た姿もローブを着ている姿だけだから、あの人達が誰かを突き止めない限り動かないだろうね」


その時、エリスが顔を上げた。


「ねえ……祭壇にあった男神像、調べてみたの。

あれ、お父さんに聞いたらはるか昔に“マナ信仰”が二つに分かれた時のもう一柱らしいわ」


レイとリュカが顔を見合わせた。

マナ信仰──人々の生活に根ざす“魔力の源”への信仰。

だがかつて、それは二派に分裂したとされる。


「つまり、洞窟の祭壇は“もう一方”を祀ってた?」

「ええ。表の教会が祀る神とは別側面の存在。

それが今どう動いているかわからないけど、何かがあるとしたら──」


エリスは言葉を濁した。


「旧王家の紋章もあった。リセルの墓地と同じなら……」


リュカはデバイスを操作しながら言葉を続ける


「僕のいた大学の教授に連絡するよ。旧王家魔術と信仰史に詳しい人がいて、資料を送ってもらえるよう頼む」

「ああ、ありがとう」

「それにしてもゼオンって男、何者なんや?えらい実力者やったな……」


ジェフがレイを見て話す。


「俺も子供の頃に別れて以来、ずっと行方もわからなかったんだ。生きていたことに気づいたのも最近になってからだ」

「そうか……あそこで俺らを助けてくれたってことは完全に敵って訳やないんやろうけど、あっちのことも調べなあかんな」


ジェフの言葉にレイが頷く。


「ゼオンが今回の事件にも関わっていて、その中心にいることは間違いない。俺はゼオンを追うよ」

「レイ……」


エリスがレイを見てこぼす。


「何にせよ、旧王家とも何か関係があるかもしれないし、それも調べてみよう。

あと、ーーレイ、君はマナ信仰に関して何かつながってるものはない?」


リュカがレイの目を見てそう話す。


「マナ信仰について?……いや、時々教会には行くけどそんな敬虔なもんじゃないし、どうかしたか?」

「……うん、前にレイのマナ構造を調べたときに、エリスが女神様みたいだって言ったでしょ?」

「ああ」

「それから少し調べてみたんだ。古文書の抜粋に、選ばれし魂は女神の力を宿す器となる。って一文があった。今回のゼオンの身体に吸い込まれたマナを浄化したようなものもそれになるんじゃないか、ってちょっと思ってる」

「器……」


レイがぽつりとこぼす。


「そうね。レイの能力についても驚いているようだったわ。レイに関しても力もちゃんと調べれば対応できる力になるはずよ」

「そうだな……。だとすれば、俺の住んでいた村のことを何か調べたほうがいいのかもな」

「ミレナ村のこと?」


リュカが問う。


「ああ、マナが見えるってのもこの村の独特のものなんだろう?村にいた人達はみんなもういなくなってしまったし、聞ける人はいないし、俺もしばらく村のことは思い出さないようにしてたとこもあったからーー」


レイが少しうつむきながらも言葉を続ける。


「俺もあの時村が何で襲われたのかを調べるよ」


リュカが暗い顔をしてレイに謝る。


「レイ、……ごめん」

「いや、いいんだ。それに俺だけじゃなくてゼオンも生きてた。ゼオンなら何か知ってるかもしれない」

「……そうだね。明日リセルに戻ったらその辺りもまたまとめて今後の方針を決めよう」


四人が頷く。


「じゃあ、今日はこのあたりでまとめて、帰る準備をしよか」


ジェフがそう空気を変えるように声をあげると、テーブルに置かれた資料を片付け始める。

それに続くように三人も頷き、テーブルに並んだ証拠品を片付け始めた。


「明日はもう朝にリセルに向かうのでいいかな?」

「ああ、問題ない。エリスはどうする?」


レイが尋ねると、エリスが少し間を置いてから答える。


「……そうね。ネストリアで違法薬物の流通で、父が少し大変そうだから少し手伝っていくわ」

「そうか。了解。またこちらでももし何かわかったら教えてくれ」

「わかったわ」


エリスが頷き、部屋の片付けが粗方終わった頃、ジェフのデバイスが震える。

その内容を見てジェフが三人へ声をかけた。


「すまん、俺はちょっとヴァルター邸のことでネストリアの安全保障課にもっかい行ってくるわ」

「そう?遅くならないように気をつけてね」


リュカがそう言うと、ジェフは部屋を出るのだった。



ーーーーーー


日が沈んだ、誰もいない町の片隅で。

ジェフはデバイス越しに誰かと短く通信を交わしていた。

低い声は、わずかに緊張を帯びていた。


「……例の祭壇とおらんくなった司祭に関しては問題ない、もう動けんようになっとる。こっちには重要は残ってへんわ」


画面が消える。

ジェフは薄く息を吐き、笑みを浮かべた。


「さて……これからどう動くんや、旧王家の直系は」


静かな町にジェフの影が揺れて、そして消えた。

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