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第2話 月夜の出会い

「やばいやばい!!また遅れちゃうよー!」


 寒さで顔が凍りつきそうな1月の22時前ごろ、栗色のセミロングの髪をなびかせ、17歳の少女橘 彩芽あやめは白い息を吐きながら児童養護施設への帰宅路を走っていた。


今日は週に2回参加している、ペットの里親を探す団体ボランティア活動をしていたが、清掃に時間がかかり帰宅が遅くなってしまった。

 


 いつもの橋へと差し掛かると、小さな毛玉を見つけた。


(なんだろ…あ、この子うさぎ?逃げ出しちゃったのかな?)


 よく見るとそれは、薄茶色の毛並みのうさぎだった。足が土で汚れすみで小さく丸まっている。山が近くにない街中で野生のうさぎを見ることはまずない。何処からか脱走をしてしまったのだろう。


「大丈夫だよ。お家を探してあげるから我慢してね。」


そう囁いて、カバンからフェイスタオルを取り出し、包み込むように抱き抱えようとした、その時



【ママ?ママ?ドコ??】


 か細い、小さな声がうさぎの方から聞こえた。小さいが、頭を包み込むようななんとも言えない不思議な声が届いてびっくりした。


「え!?うさぎがまさか喋ってないよね?なんなのこの声!」


 つい驚いて大きな声を出してしまうと、うさぎと目が合い、私は恐怖でその場で硬直してしまった。

 うさぎだと思っていた『ソレ』の瞳は、まるで赤黒い血のような色をしており禍々しく内側から光を放っている。そして、胸のあたりではまるで脈を打つように瞳と同じ色の『モノ』が動いていた。

 

【ママ…ママ…】


 『ソレ』は私に気がつくと怪しい青白いモヤを纏いながら、ゆっくりと近づいてきた。一歩近づく度口が横に裂け、瞳が大きくなっていく。私は得体の知れないものに怯え、体が震えその場から動けなくなってしまった。


(やばい!このままだと喰われる!!)


 本能で直感した、そのとき!


【ギャアアアアアア!!!】


 耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえたのと同時に、『ソレ』から赤黒い血が流れる。なぜか彩芽とは反対方向にとてつもない速さで逃げようとする。すると突然、誰もいないはずの右耳の側で


「ここでまて。逃すか。」


 心地よい、落ち着いた男性の声が聞こえたと同時に、月をバックに人らしき影が宙を舞った。すると

高速で逃げ惑う『ソレ』の脈打つ『モノ』に向かって刀のような物を突き刺した。すると『ソレ』から青白いモヤが消え、普通のうさぎの大きさまで小さくなって地面へと転がり落ちた。すると、からだから瞳と同じ赤黒い鎖らしき物が現れ、刀を突き刺した男性が両手に鎖をもつと


「さあ、ゆっくり休め。どうか安らかに。」


鎖を引き裂いた。


 すると、再び叫び声をあげながら、赤黒い瞳はグレーの澄み切った色に変わり、1羽の可愛らしいうさぎに姿を変え、空高くかけるように昇りながらゆっくりと消えていった。ふと視線を男性に戻すと、月明かりで全貌が露わになる。ミッドナイト色にシルバーの刺繍の入った、どこかの軍人のような服を着ており、背筋の整った姿は20歳前後の青年で、深黒の髪に天色の瞳であった。その姿は、いつか母が語ってくれた物語の登場人物の姿と似ていた。うさぎの姿が消えるまで、まるで黙祷をするかのように目を伏せ胸元の紋章に手のひらを添えている。その後ゆっくりと目を開けると、突然目に見えない速さで息がかかりそうなほど彩芽に近づき、じっと見つめてきた。その瞳は人とは思えないほど澄み切った色で、よく見ると内側から星くずが光を放っているように見えた。


(凄く綺麗…)


 うっとりと見つめていると、しばらくして青年は目を逸らし


「違うな。」


 そう一言呟くと背を向け離れようとしている。


「あ、まって!あなたは誰?あと、さっきのって…」


「あんたには用はない。さっきのは運が悪かったと思って忘れろ。」


 そう言うと家々の屋根まで飛び上がりながら音もなく姿を消してしまった。あまりにも突然の出来事であった為呆然としていたがはっと我に帰り


(いけない!気になることいっぱいあるけど、とりあえず帰らないと!!)


とっくに門限がすぎた中、慌てて帰るのであった。



 











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