出会い
僕(高校2年生男子)はある寂れた公園のベンチに座って空を見上げていた。
近頃は危ないからとか言って、いわゆる回る遊具は撤去されているという。
この公園もまさにそのあおりを受けたようだ。
もはや水道とベンチしかないではないか。
でも僕は別に遊具で遊びたいわけじゃない、ベンチに座りたいわけでもない、実際何かがしたくてここに来たわけではない。
そう、全くの暇だったのだ。
ワンカップを片手に持ってれば似合うんじゃないか、なんて考えながら空を見上げてた。
ふと視線を下してみた。
そこには1人の幼女が突っ立っている。
「…何?」
幼女ははっきりとした声で言う
「迷子になったの」。
一般的には迷子というのは泣き喚き、とにかく優しそうな人について行ってしまう、という認識がありそうなもんだが…。
「よっこいしょっと」
突然ベンチに座ってきた。
しかも密着状態。
幼女好きのおっきいお友達なら歓喜するところなのだろうが、残念、僕はむしろ子供が苦手だ。
「だから、何やってんだ?」
「初対面の女の子にそんな口のきき方は無いんじゃないの?
ほら、もっと丁寧に!!
さん、はい♪」
「質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ。ここで何してんだ?」
一瞬体をビクッとさせた幼女は、頬を膨らませ、少し黙っていた。
その間に僕はその幼女を観察する。
さっきから幼女と呼んでいるが、実際そうでもなさそうだ。
胸は少し膨らんでいるし、背もそこそこ。
だが顔は幼く、着ているワンピースもいかにも子供服だ。
小学生くらいか?
よし、今、君を少女に認定しよう。
「なあ、お前何年生?」
「3年生」
うん、やっぱそんな感じだよね。
「近所か?」
「ううん、結構遠いよ。
電車でもう40分くらい」
ふ~ん、私立なのかな?
いまどきの小学生も大変だ。
そしてその時、足元に一枚の紙を見つけた。
見覚えが無い、こいつが落としたのか?
僕が拾い上げようとすると少女が突然
「ダメッ!!」
と言ったが、少女の手は僕の手中のテストには触れられず空を切った。
「ふん、何々?」
まず目に入ったのは大きな赤い○。
…0点か、やるじゃねぇか。
だからさっきの俺の言葉に反応したのね。
どんな問題なんだとちょっと見てみると、
「These are the indicators of crisis, subject to data and statistics.…」
アレ、オカシイヨ、全然ワカラナイ。
左上のほうを見てみると
『○○高等学校3学年2学期末試験』
僕はつぶやいた
「スイマセン、先輩」
「ん?
ど~しちゃったの?
急にかしこまっちゃって?
ほら、もう一回私のこと呼んでみてよ!!」
ウ…ウゼェ、こいつめちゃくちゃウザイぞ。
自分が年上だとはっきりした途端偉ぶりやがる。
…アレ?
年上だとわかったから、偉ぶる。
そうか、僕は少なくとも大学生以上に見られてるわけね。
「…△△高校二年、荒木雄二」
「え?何?」
「俺の名前と学年だよ」
「ふ~んそっかぁ△△高校だったのかぁ。
私の友達も通ってるよ♪」
「あっそ」
も~つれないなぁ、とか言ってる間にも僕は考えた。
いくらなんでもこの見た目で高三はありか?
さっきのテストは姉のとか…
もし本当だったら…
「飛び級とか?」
ほんの小さな声で、最後の部分だけ声に出してしまった。
少女、もとい先輩はそれを聞き逃さなかった。
「そんなんじゃねーよ!!」
ゴスッ!! 鈍い音がした。
涙が出る、鼻が痛い。
「テメッ、何ふんだフォノヤロー!!」
うまくしゃべれない。
「ふんっ、失礼なこと言うからよ。
私はれっきとした十八歳よ。」
まだ鼻は痛い。
しかし僕は、この後別の個所をまた殴られることになる。
本当は心の中で言ったつもりだった。
でも、声に出てしまった。
「…そーは見えねえよ、ちびっ子」
ドグッ
小さな拳が僕の鳩尾にめり込む。
情けなくも幼女に殴られた僕は、走馬灯だっけ?
うん、なんか過去を思い出していた。
過去って行っても今日のことだけど。
ひとまず学校にて。
6時間目の授業はテスト返しだった。
国語総合古典………4点。
もっと記号ばっかりの問題にしてよ。
そういやアイツの0点笑っちゃったけど、あんま変わんねぇじゃん。
でも僕は全力で回答欄をすべて埋めて4点、アイツは真っ白で0点。
名前すら書いてなかった。
努力した痕跡がある分まだましか…。
あれ、じゃああいつの場合、
全力でやったらいい点が取れる可能性があるわけだ。
でも僕は全力で4点…うん、涙が出そうだ。
…でも俺は男の子だからね、泣かないよ、うん、泣かないってば。
ではそろそろ話を戻そう。
さすがの俺も鬱な気分になり、さっさと家に帰った。
かといってやることもないので、ひとまず散歩に。
…ほらそこ~、ジジくさいとか言うな~。
で、今に至る。
あそこで散歩に出てなければ。
あるいは4点を取っていなければ、
僕は鼻にストレートをくらわずに済んだのかもしれない。
ちなみに殴られてから地面に伏すまでの思考時間は、約0.3秒ほど。
今の時刻は午後4時ちょっと、2時間近くの時間が一気に凝縮した。
臨死体験ってすごいや。
ん?
何だあれ?
おおっ!!すごいね~、ほんとに視えるもんなんだね~………川。
あれ、向こう岸でおじいちゃんが呼んでいるよ。
でも僕のおじいちゃん生きてるよ?
じゃあ誰?
「…もしかして、おじいちゃんも殴られたの?」
また声に出てた。
また殴られた。
こんどこそ僕は、気絶した。
この後僕はまだまだあのチビ(周囲を警戒しつつ)に振り回されることになるが、それはまたの機会に。