設定、その後について(ネタバレ満載)
このページでは登場人物の簡単な説明とその後のことや裏話的なことをまとめています。
ネタバレのオンパレードです。ご注意ください。
最終話はこの一つ前の話です。
なお、作中の疑問点がある場合、これを読むと解決する部分があるかと思います。また、その後についてはけっこうしっかり書いているので、本編の余韻のままで終わりたい方は読まない方が無難です。
【登場人物の設定、本編後のこと】
【トワ】
作中では十六歳。
アキトの許嫁でありながら突如ヨンドの魚の嫁になることを求められた少女。
本編後、島を出たトワは柏原家の城にしばらく滞在する。そこで高槻の妹、菊江と仲良くなり、高槻と菊江、そしてトワの三人で行動するようになる。菊江からは、高槻とトワがくっつけばいいのに、と思われるようになるが、当の本人達にはその気はない。
やがて三人で隣国との商売に積極的に関わるようになる。トワが乗る船は海賊にも会わないし天候にも恵まれるしで、確実に目的地に着くことが評判になったりもする。母親似で美人だから本気で好かれることも多いが、そういうときは冷たく接して距離をとる。好奇心は旺盛だが恋愛には不思議と興味がもてない。
そんな感じで島外で十年近く充実した生活を続けた後にコウヤと柏原家の城で遭遇する。コウヤと話し、トワはとうとう島に帰る決意をする。アキトが独身で今もトワを想っているはずだとコウヤから聞かされるものの、トワはアキトと結婚するつもりは毛頭なかった。ずっと連絡をとっていなかったのも理由の一つ。
だが、アキトに再会し、見つめ合った瞬間、もう二度とアキトから離れたくないとふいに気づく。トワの好きな島とは、つまるところはアキトと過ごした島のことで、アキトがそばにいる人生こそが幸せなのだと気づかされたのだ。
【アキト】
作中では十六歳。
当時の村長の一人息子でトワの許嫁だった。
本編後、島に留まったアキトは村長となったコウヤの手助けをする。アキトは自分が村長になることはないと本編では決めつけていたが、結局、暗黙の了解で次期村長とみなされている。本当はトワについて行きたい気持ちもあったし、それ以降もトワに会いに行きたい気持ちは常々あったが、トワに宣言した手前さみしさを押し殺している。
ちなみにコウヤは村長だから年一回は柏原家に挨拶に出向いているが、いつもトワには会えていない。ただ、高槻には会っていて、トワの話は持ち帰ってくるので、それを聞いて嫉妬したり、逆に自分もトワのように頑張るんだと奮起したりしている。
トワがいなくなったことでアキトに好意を示す女が幾人か現れるが、どれも断っているうちに、ついにはコウヤのように独身を貫くタイプなのだと思われるようになった。なお、トワのことを慕い続けていることを知っている者もいるが、さすがにもう諦めたと大半の者が思っている。アキト自身も自分の想いは成就することはないと達観していた。
だからトワが島に帰ってくると聞いたときも、アキトはトワに結婚してほしいと言うつもりはなかったし、トワはすぐにまた島を出ていくと思っていた。だが再会した瞬間にトワが見せた表情や態度から、トワの想いを察し、喜んでトワを抱きしめ、求婚する。
【コウヤ】
作中では三十歳。
アキトの叔父で当時の村長の弟。
トワにとっては父代わりであり兄のような存在でもある。
十四歳でトワに出会ったせいで人生を狂わされた感もあるが、トワの育ての親を自ら買って出るなど、トワと過ごした時間は充実したものであった。このまま、父、または兄のような気持ちでいられればいいのにと思っていたが、定めには逆いきれず苦しんだ。
本編では基本的にトワの居場所は視る力が使える場所、状況においては把握している。また、兄のヨウガの策略でトワやアキトが死にかけたことも知っている。だが、最悪、二人が死んでもいいとすら思っていた。それくらい現状に苦しんでいたということだが、死なせたくない思いもあり、ジレンマはあった。
本編後、村長になるつもりはなかったのだが、兄に懇願されて村長の座につく。以降、ヨンドの島から普通の島へと変わっていく過渡期を、自らが有する不思議な力を駆使して乗り切る。だがそのことはお婆やお爺、それにアキトですら知らない。
年一回、村長として柏原家を訪れる際には、トワに会いたい気持ちと会いたくない気持ちで心が揺れている。トワはいつも商売で不在にしており、正直ほっとしている。ただ、一度だけトワのことを港でみかける機会があって、二十歳前半となったトワはかなり美しく、不覚にも胸が高鳴る。だがそのまま声を掛けることなく島に帰る。
その後、アキトからトワへの想いや決意を直接聞く機会があり、過去の自分のように耐え続けているアキトのことを心から応援すると決意する。そのため、島の様子が落ち着いた頃を見計らって、村長の座をアキトに譲ることにする。最後の登城時にトワと会えるように高槻に取り計らってもらい、そのことを告げる。それがトワとの最後だった。
村長を辞したコウヤはトワと入れ違いで大陸へと渡る。柏原家の領地もすぐに出て、北へ北へと向かう。それからのコウヤの所在は不明である。
【トヨ】
トワの母。
トワを産んだことからも、トヨ自身も魂がきれいな方だった。村長の家系であるヨウガが恋焦がれた一因でもある。
本編後はある程度は穏やかに暮らせた。島に戻ってきたトワと再会したときにはそれなりに心の状態もよくなっていた。だが体の方の調子が悪くなっており、トワが島へ帰る決意をしたのもそのことをコウヤから伝え聞いたからだった。
【サイラ】
トワの父。
大陸人であるサイラだが、津波にさらわれ、波にもまれている最中、海に住まう幾多のヨンドの力を分け与えられている。その力が娘となるトワに強制的に働き、トワの魂が純化された。また、サイラがトヨに恋をしたのはヨンドの影響によるものである。ちなみに津波にさらわれたのも、行きついた先が島なのも、ヨンドのせい。ある意味作中で一番不運な人かもしれない。ちなみにこの島に流れ着いた外部の人間は記憶を全員失っており、サイラも同様である。記憶がないゆえに何もできず、不器用だと勘違いされていた。
大陸に渡ったトワがサイラの実家を見つけ、サイラの素性を知ることになるのは別の話。サイラは知識人で、島の男のような肉体派とは真逆だった。
なお、魚はサイラの願いによって動いていたが、人型となったときの外見はサイラの容姿とはまったく異なる。
【ヨウガ】
アキトの父。
本編では村長だった。
父である前村長と弟のコウヤは聖者との間に子を成さねばならない宿命を背負っていた。
衝動によって父が苦しむ姿は記憶していたが、理由を知ったのは自身が村長になる直前のことだった。
このときに父やお婆からは他にも様々な話を聞かされている。そしてこの島が不思議によって支配されていることを強く実感する。
だがヨウガはこれに抵抗することもなく村長としての責務を粛々と果たすことを決めた。それはトヨと添い遂げられなかった時点で人生にあきらめを抱いていたからでもあった。
本編後、トヨのそばで過ごすようになるが、もうトヨに手を出すことも想いをあらためて告げることもなかった。アキトが村長になる前に病にかかり、自ら海へと還る。来世での幸せを願って。
【シカリ】
本編ではお爺と表記されていた、聖なる双子の弟の方。
六十歳。
肉体的にも、能力的にも、知能的にも、姉よりも格上。生まれながらの特性もあるが、洞窟内でヨンドのヤドカリと遊び半分で力を鍛え合ってきたことで、さらに強くなっている。
実は双子を産んだ母親は当時の聖者の女で、父親は当時大陸から代官についてきていた柏原家の家臣の男。会った瞬間にこの男との子を孕まねばならないと女は悟るや、当時の村長に理由を説明し、男に薬を盛って強引に一度だけ事に及んだ結果だった。ちなみにその男はその日の記憶を失っているので自分の子が島にいることを知らないし、以降、島に足を踏み入れてもいない。
ちなみに本編中にはっきりとは記載していないが、シカリの住む洞窟内ではシカリの力が働いており外部から干渉できなくなっている。お婆や魚が洞窟内を視ることができなかった理由はここにある。だからアキトとシカリ、ヤドカリらの洞窟内での会話はお婆や村長の側へは伝わっていなかったし、たとえばアキトとトワが洞窟に匿われていたときや館の襲撃についての会話なども、まったく外に漏れていなかった。
また、お爺は島の人間すべてを視ているわけではないと本編で記述しているが、常時視ているわけでもない。視るという行為の間、目をつむり集中する必要があるためだ。
【トカリ】
本編ではお婆と表記されていた、聖なる双子の姉の方。
様々な面で弟に劣る自分を自覚していたが、持ち前の素直さと愛嬌で幼い頃は何も気にも留めず暮らしていた。だが弟が海へと還り、聖者としての務めを果たすようになり、現実が見えてくる。前聖者もいなくなりすべてを自分でせねばならない中、出来の悪い自分に苦悩し、恨みを亡き弟に転嫁して留飲を下げるようになる。ただ、当時はまだ十歳で、仕方ないことだったともいえる。逆にここからたったひとりで本編の状態にまで成長しただけすごい。弟であるお爺は、生きていたくせに、自分を助けるどころか会おうともしてくれなかったし。
子を作らされたコウガのことだが、実は少し惚れていた。島で唯一自分を理解してくれる男であり、惚れるのは自然なことだった。コウガの方もそのことを察していたから、逆にお婆に容易に手を出せなくなってしまっていた。
ところで、本編でトヨの家でヨウガが狼藉を働いている場面、なぜヨウガがトワとアキトの生死をきちんと把握していなかったのかというと、洞窟内ではお爺の力が働いていて、その後、ヨウガが館を出るまでに生死をトカリが『視て』確認する機会がなかったためである。つまり、ヨウガはアキトとトワが海に落ちたことまでしか伝えられていなかったというわけだ。そしてこの夜、大勢の村人の前でお婆が「魚がトワを嫁に望んでいる」旨告げた頃にはトヨとトワを連れて館に戻っている。だからお婆とコウヤはトワが生きていることを知った上で行動していた。
【ウカリ】
ヤドカリのヨンドとして現れた、聖なる双子のあとに生まれた弟。
母親は双子と同じだが父親は違う。ただし素性は不明。
ヨンドとしての能力は基本的に弱いが、願いの力があればそれなりに強くなるし、願いの数が多ければ多いほど強くなる(一般的なヨンドならば皆同じ特性をもつ)。
本編後、双子が亡くなり、願いを満たし終えた結果、ウカリの魂は摂理に従って海に溶けて消える。来世でまた双子と一緒に暮らしたいと思いながら。そしてヤドカリはただのヤドカリに戻る。
ちなみに誰もいなくなった洞窟や内部の小屋は、そののち、アキトの秘密基地のような場所となる。アキトはここでトワを想いつつ一人で釣りをしたりして過ごしている(浜はトヨやヨウガにとられてしまったしトワがいないから足が遠のいた)。
補足だが、ヤドカリはお爺のように目をつむることなく視ることができるが、かといって常時なんでも視ているわけではない。視る行為には力を使うからだ。
【高槻】
本編では二十代半ばとしか書いていないが足し算をすると二十四歳だとわかる。
柏原家の次男。
長男である兄よりも出来が良かったせいで実の母に疎まれ殺されかけた。それゆえ、以降は不出来なふりをして死ぬのを待つばかりのやる気のない人間となっていた。だが、本編後に気持ちが落ち着き、死にたいとは思わなくなる。また、ちょうど母が亡くなったことと、商売を始める気満々のトワや妹の影響を受けて、自らの才能を発揮しだす。商売をする分には兄も高槻を恐れる必要はなく、逆に領地にとっては都合がよく、兄弟関係もよくなる。
妹からはトワとくっつけばいいのにと何度かけしかけられている。商売仲間にも似たようなことは散々言われている。正直、トワに惹かれている気もしている。だが共に船に乗るたびになんとなくヨンドであった魚の気配を感じて一歩踏み出せない。魚に嫁がせて見殺しにしようとした負い目もある。また、年に一回は再会するコウヤがトワを好いているような気がしているのも理由。ちなみにコウヤが港でトワを見かけるように仕向けたのは高槻である。
トワが島に帰ってしまい、暇になるなーと思っていたら、トワはそれからも商売をしにちょくちょく大陸に来るので、結局腐れ縁が死ぬまで続く。
ちなみに魚との初対面で高槻が「天国」について語る場面があるが、これはキリスト教に関して書かれた本を読んでいたからである。魚は天国なんて知らないから訊ね返したというわけだ。
【菊江】
高槻の妹。
本編で名前だけ出てきたが登場はしていない。
この時代の女にしてはちょっと変わっている。活動派。それゆえ独身。
本編以降、城に滞在することになったトワのことを気に入り、友達になる。商売で隣国に出向いた際、貿易商の男と情熱的な恋をし、その地にとどまる決意をする。
トワとは高槻同様、商売を通して死ぬまで交流を続ける。
当初は、本編前にコウヤが城に滞在中、この妹と高槻とで恋仲になる話を考えていたがやめた。
【その他設定】
【島】
トワたちが暮らす島は日本の南方をイメージしている。東に大陸(九州をイメージ)、西に隣国(台湾や中国といったアジア圏の国)があるイメージ。沖縄よりも小さな島。時代は琉球前後のファンタジーな世界。
大陸と隣国間にはいくつか島があり、それらは中継地して重宝されている。だがトワの住む島はそのあたりの海流が荒れ気味で、基本、島外から近寄ることは難しかった。理由は当然、ヨンドによる干渉である。だが近年の技術発達に伴い、外からも船が入ってきやすくなると、隣国に支配されそうになってしまう。そこを大陸(というか柏原家)に救われて今に至るのだが、柏原家としてもこの島を隣国に支配されると困るので当然のことだった。
支配以前、独立していた頃は、島は完全なる自給自足で成り立っていた。島民は数百名程度で、海産物以外にも食べるものは十分獲れていた(ヨンドがこの島の人間を飢えさせるわけもない)。ただ、支配以降は税として海産物を納めるようになり、いくらか対価として大陸の金やし好品なども入ってくるようになり、生活様式も変わってきている。
ちなみに少ない島民では血が濃くなり過ぎないかと思われるだろうが、近海が荒れやすいことから、サイラのような漂流者がそれなりに定期的に入ってきており、今のところ問題にはなっていない。だが本編以降はヨンドの干渉がなくなってしまったので危ないかもしれない。
島には村は一つしかない。この島の人間にとって、村とは家族、島とは家と同義である。たとえば、村長とは家長を指す。トワは特にこの意識が強かった。
島では男は短髪、女は長髪で頭頂部に団子状に結えている。また、性別問わず肘よりも短い袖と膝上の着物と草履を着用している。
男は健康体であれば漁に出る。複数人で一艘の船に乗る。例えばアキトはタイラと乗っている。女は農作業や機織り、子育てなど。本編でのトワのように飯屋のような場所で働く女は少数だが、次期村長の嫁になるがゆえに、かつ働くことを希望したときはまだ十歳だったから、比較的楽な仕事を与えられた経緯がある。
【島の人間の名前】
姓はなく、名は両親のいずれかから一部をもらう。サイラとトヨの子はトワ、ヨウガとアキヲの子はアキト、といった具合に。作中の人物は必ず名前が一文字ないしは二文字同じである。もらう字は父からでも、母からでもいい。島の中でその名前でただ一人を特定できればいいのだ。
ちなみに作中で名前が出てきたカイランとソウヒは、それぞれトワとアカツキを襲ったカイジとチョウヒの父親である。どちらも屈強な家系。
【ヨンドの魚】
魚が始めに食べた魂は仏僧だった。この僧は多くの人を救いたいと願っており、それゆえに魚はばくばくと死人の魂を食っていった。その過程で幼い高槻とも出会っている。ただ、いくら食っても、この僧よりも崇高な願いを有する魂は入ってこなかったから、魚はヨンドとしては大量の魂をその身に蓄えていくことになる。ちなみに魂は食われた瞬間から自我は失う。つまり、人間であったころの記憶は失っている。
そろそろ満腹が近づいてきた頃に食べたのがサイラ。サイラも他の人間同様、たくさんの願いを抱えていた。アマエイを釣りたい、村に認められたい、トヨと末永く暮らしたい、といった具合に。だが一番の願いはまだ見ぬ我が子とともに過ごすことだった。サイラという人間がトヨと決定的に違うのは、配偶者よりも子を想う点である。
ちょうどこの頃、僧の魂は気づきつつあった。多くの魂を食してきたものの、自分の願いが強すぎて他の魂の願いをかなえてやれていないことに。ヨンドは体内に宿るどれか一つの願いをかなえることでその身にあるすべての死人の魂を救うことができるのだが、僧の願いはある意味際限がないし、結局食っているだけだからだ。その点、サイラもトワの父なだけあって魂がきれいな方だったし、サイラの願いも純然たるものだった。それゆえ僧の魂はサイラの魂の願いのために身をひいた。僧の魂が身をひくことでその他の魂もそれにならった。以降、魚はサイラの願いを叶えるために動くことになる。
魚がサイラの遺体が打ち上げられた浜に近づいたある日、一歳のトワがコウヤに泳ぎを教わっているところを目撃する。うらやましいと強く思う。自分もあの娘と一緒に泳ぎたい、抱きしめたいと。サイラの自我はすでに消えているためトワが自分の娘だとわからないながらも、トワこそが願いをかなえるための唯一の女であることを知ったのだった。娘がトワという名であることを知り、魚はさっそく高槻のもとへ行く。それが本編に記載した高槻と魚の再会シーンである。
その後、高槻がことを進めるのを待ちながら、魚はトワの成長を見守っていく。実はトワが浜に日参しているときには魚も浜にいたのだ。気づかれてはいなかったが。
そして、高槻にコウヤを紹介されたとき。魚はコウヤがトワのそばによくいた男だと気づいている。いわゆる普通の人間とは違うことを以前から察しているが、だからこそ役に立ちそうだと判断した。ちなみにトワと夫婦になるという願いを口にする魚だが、魚にとってはトヨに関することは最大の願いの前では消えてしまっているので、そこに矛盾はない。とにかくトワとともに過ごせればいいのである。
そしてある日、トワに近づきすぎたせいでトワに見つかった魚は、運悪くアキトの銛に刺されてしまう。とはいっても、それは魚にとって予定調和だった。高槻には事前に祝言の日を連絡済だったし、コウヤがその日はわざと浜に行こうとしてみせてアキトを触発したりと、計算づくで動いている。それもすべては魚自らが島の人間に接触し、聖者を介して祝言を行わせるためのことだった。
ただ、コウヤの乱心だったり、お爺やアキトによる炎の攻撃までは予見していなかった。ヨンドは万能ではないからだ。ちなみにこれらが行われなかったら、魚はトワを連れて高槻が殺されかけた例の無人島に連れ帰るつもりだった。だからトワも、トヨもヨウガも幽世に連れていかれることはなかった。無人島で暮らしていれば、満足した魚はいつかはただの魚に戻り、すべての魂は海に溶け、何歳になるかはわからないがトワも解放されていたはずだ。
補足だが、本編に記載のとおり魚とて万能ではない。たとえば視るという行為についても常時行ってはいないし、お爺やヤドカリよりも劣る。だからトワがカイジやチョウヒに殺されかけた件については把握していなかった。知っていたら島が沈んでいたかもしれない。そのほか、いろいろと視ていない場面あり。祝言直前は祝言の準備で忙しかったし、力を行使するために休息が必要だった。
また、本編最後で魚はコウヤを助けたが、その願いの見返りは何も求めていない。愛する娘のためと、無償で行っている。長年サイラの魂の影響を受け続けた結果、魚なりにトワのことを愛していたのだ。
【聖者、聖なる力に関して】
聖者とは人間とヨンドの仲介役であり、ヨンドに都合のいい存在でしかない。また、トワたちの住む島にしか存在せず、かつ、その力は島内でしか有効ではない。
聖者によって何ができるのかは異なるが、文献等が残されていないため、比較は難しい。基本的に聖者の役割は前聖者や村長から次代へと語り継ぐ。
聖者は男でも女でもいい。次代の聖者は、当代の聖者がヨンドによって無言の引導を渡される前に生まれる。その際、父または母を聖者として自然と生まれる場合もあるが、男女の一方が孕みたくなる、または孕ませたくなり、強制的に妊娠することで生まれる場合もある。そして男女の一方は、必ず聖者、少なくとも聖なる血を有する村長の家系の者であるが、もう一方は相手に選ばれて決まり、その選定基準はよくわかっていない。ただ、聖者と村長の家系の者との間で定期的に血を交えることで血が薄くならないようにしていることは察せられている。それがトカリとコウガの間で起こったことである。
この、孕みたくなる、孕ませたくなる衝動(以下、簡単に衝動と書く)は逆らいきれない強いものである。前聖者が双子を孕んだ際には衝動に半日も抵抗できなかった(逆らう気もなかったのだが)。その点、コウガはそれなりに耐えた方であるし、コウヤはかなり忍耐強い。コウヤの力が強いゆえに抵抗できた部分もある。ちなみにコウヤがなぜ赤子のトワに衝動を抱いてしまったのか。これもコウヤの能力の強さゆえで、感度が強すぎたのだ。
本編記載のとおり、次代の聖者は必ず双子で生まれる。だから、たとえば双子ではなかったウカリは聖者ではない。こうした子や村長の家系の子の中から、次代の聖者を孕む、または孕ませる役目を負う者が出てくる。
たとえばコウヤが生まれた頃、村長の家系には男しかおらず、聖者の子であるコウヤ自身も男だった。だから双方が番う必要はないことがわかる(近親者であろうと関係ない)。また、こういうとき、衝動を引き起こすのはより聖者に近い人間、つまりコウヤになることは以前から知られている。
そういう意味ではコウヤが生まれてほっとしたのはヨウガの父であるコウガだったかもしれない。また、コウヤが双子で生まれなかったことで、自分はまだ生きることができるのだと、トカリも無意識に安堵していたかもしれない。次代の聖者が生まれれば自分の死期が決まったことを意味するからである。以降、コウガにもトカリにも衝動が起こらなかったのは救いだった。なお、トカリが子を産めない年齢になるまでコウガに衝動が起こらなかったから、やはりコウヤがその衝動を継ぐ者であると判断できる。
だがその実、コウヤは聖者になるべき者として生まれていた。トカリの腹の中では双子だったのだが、一方が胎内で自然消滅してしまったのだ。それゆえコウヤは二人分の力を有して生まれた稀有な存在だった。
そうして、トカリは前聖者のように自死すべきところをせず、当然次代を指名せず、コウヤもまた自分が聖者だとまでは思っておらず、そして洞窟にはシカリがいて――島は三人の能力者が何十年も集う異常事態が続くことになる。
もしもシカリが順当に聖者になっていたら? そしてトカリが海に還っていたら? その場合、前聖者が次に産んだ子は女の双子だった可能性が高い。または、シカリに衝動が起こり、適切な女に次代の聖者を孕ませた可能性もある。




