第三十八話 硬貨。硬貨? 硬貨!?
攻殻見てないからベッゲーがかぶってるとは知らなかったorz
修正きかないのでこのままいきます。
西暦2028年2月14日17時19分 呉駅前ロータリー
自衛隊員と警察官の二人組の顔が俺と五人組の間を行き来する。
「副官、とは何のことだ?」
「一国を治めてた魔王様の妹です。彼ら兄妹にはお世話になりっぱなしだったんですが……」
「魔王……?」
警察官の問いかけに手短に説明すると二人組はそろって首をかしげた。
まあ、魔法文明に縁の無い生活が普通だから困惑するのも当然だろう。
副官と呼ばれた彼女は見る影もなくがたがたと怯えて後退りしようとするが、首に付けられた鎖が移動範囲を制限されてそれ以上動けない。
「おい」
それまで黙っていたひげもじゃの男が声を上げた。
「何か?」
「貴様、安武だな? 生年月日と住所を教えろ」
「いきなり失礼な態度だな。日本語を話してるところからお前もカルアンデ王国に召喚されたと見た。お前こそ誰だ?」
「……ふん、いいだろう。魔王領を滅ぼしてその領地をそっくりそのまま奪い取ったのがオレ、安武典男だ」
「……待て」
今の彼の台詞で色々と訊きたい事が思い浮かんだ。
魔王領を滅ぼした? いつ? 副官はその時に奴隷になったと? というか俺がもう一人いる?
「ということは、魔王様は……」
「オレの手で直接手を下した。見物だったぞぉ、妹の命乞いをする無様な男の姿は?」
「貴様……」
にたにたと嗤うもう一人の安武を見て背筋に悪寒が走る。
「典男ーっ」
ローナとセシルがやって来た。どうやら民間人の治療と避難誘導を終えたらしい。
「お疲れ様」
「大した事ないから安心して」
「……典男、その方たちはどなたか?」
「今、分かっている範囲で説明するとだな……」
戸惑いながらも自衛隊員と警察官の二人組ともう一人の安武典男を名乗る奴を含めた五人組を紹介していく。
「こっちの二人がこの国の治安組織」
二人組が軽く礼をする。
「ローナです」
「セシルだ」
問題は五人組の方だ。
「この男が俺と同じ安武典男と名乗ってる」
「え?」
「ん?」
ローナとセシルがそろって首を傾げる。
意味が分からんだろう。俺も最初はそうなりかけた。今は何となく察しはついているが。
「他の四人の女の内一人が魔王領にいた副官」
「……副官殿っ!? 何故っ!?」
副官という呼び方に反応してセシルが彼女を見つめ、本人だと理解したのか大いにうろたえた。副官の力のない瞳がセシルを見据える。
「…………誰ですか?」
「私です、セシルです!」
「……そういえば、軍事国家に滅ぼされた町の生き残りにいましたね。……ついこの間戦死しましたが」
「なっ、私が戦死!?」
やはりか。これではっきりした。
「…………貴方は本当にセシルなのですか?」
「そうです、生きてます! どこの誰ですか、そんな嘘を吹き込んだ奴は!?」
「直接は見ていませんが、部下からの報告で……」
「嘘だ……」
呆然とするセシルと副官との間に二人組の内、自衛隊員が割り込んできた。
「あー、お取り込み中のところ申し訳ないのだが、俺たちに理解できるように説明してくれないか?」
「それは構いませんが……っと!」
俺が説明しようとした矢先、黒い穴から上空へ何かがいくつか飛び出て行った。
「敵か? ……まさか奴らは空中戦力もあるのか……?」
自衛隊員が空を見上げながら呟く側で、ローナが上空に舞う黒っぽい何かを指差す。
「典男、典男」
「ローナ、暗くて見づらいんだがあれが何か分かるか?」
「飛竜、別名ワイバーンですよ、あれ」
出た、ファンタジーっぽい敵の名前。
「ワイバーンって言うと、あれか? 爬虫類のトカゲの王様っぽい奴で人を一人乗せて空を舞い、地上に向けて火の玉をまき散らすという……?」
「概ね合っていますけど、トカゲの王様はエンシェントドラゴンであって、手下のワイバーンと勘違いされても困ります」
「あ、そうなんだ」
暢気にそんな会話をしている俺たちに二人組から突っ込みが入る。
「おいおい、ちょっと待て」
「聞き捨てならないことを聞いたが、火の玉を撒き散らすだと?」
「あ、はい、そうですよ」
ローナの頷きに二人組は顔をしかめた。
「おい、まずいぞ。この辺りは市街化が進んではいるが、木造建築も多い」
「大火災まっしぐらだぞ」
彼らの言葉に沈黙する俺。ローナとセシルが俺を見てくるが、今までそんな必要無かったから敵が飛行物体だった場合の対処方法は考えていないからな。
カルアンデ王立魔法学園でも、教官たちからなす術もなく一方的に狩られていくだけなので逃げの一手だと教わった。
そんなことあるものかと不可視の壁を使って撃墜を考えていた俺だったが、空を飛ぶ鳥すら速すぎて設置が間に合わないことが大半を占め、今では諦めている。
そうこうしている内に空を舞っていたワイバーンどもの口から明かりが点ると、次から次へと炎が放たれあちこちへと火球が落下していき火柱が複数上がる。
「そうだ、【シモ】は!?」
「すまないが、敵が多すぎて撃ちまくったから弾に余裕が無いそうだ」
「他に何か無いのか?」
「あるにはあるが、時間がかかるだろう」
「……そうか」
何の対処もできない俺たちを見たもう一人の安武がため息をついて右腕を上げる。
「あれを何とかすれば良いんだな?」
彼がそう言った直後、右腕から光が迸り三つに分かれて上空のワイバーンへと向かっていく。
「おお?」
光は飛び回る飛竜へと炸裂すると、一際閃光を放ち暗くなる。それと同時に三体のワイバーンは地上へと真っ直ぐ落下していった。
「こうも、あっさりと……」
もう一人の俺はどんな訓練を受けたんだろうか。
防御を中心に鍛えた俺と、恐らく攻撃を中心に鍛えた俺とでは違いすぎる。
「……ふん、己の力量を弁えたか」
俺がもう一人の俺に挑んでも勝てない、と直感する。
「何ぼうっとしてるんだ、まだまだいるぞ!」
セシルの警告にはっとする。
そういえば、駅前の側にあるヘヴンイレブンの前にも黒い穴があるのが見えた。
もしかして、穴は複数あるのか? そこからもワイバーンが出てきている?
「おい、もう一人のお前……」
「断る」
「は?」
手伝ってもらおうと声をかけたら、宜もなく断られた。
「何故オレが無償でしなければならん? 代償を支払え」
「何を言って……?」
戸惑う俺では交渉相手にならないと思ったのだろう、彼は二人組に向き直った。
「この世は弱肉強食だ。助けてほしければ支払え」
「その要求にはすぐには答えられない」
「事後で構わなければ」
警察官と自衛隊員の二人がそれぞれ返答する。
「言質は取ったぞ。……それでお前はどうする?」
「何?」
「支払えと言った。お前の故郷なのだろう?」
さっきからこいつは何を行っているのだろうか。
「待った、お前の故郷でもあるだろう」
「証拠は?」
諭そうとしたら冷酷な質問が返ってきた。突然訊かれても答えようがない。というか、意味が分からん。さらに畳み掛けられる。
「ここはお前が住んでいた時代のはずだろう」
「そりゃ、西暦2028年だから……」
「和暦は?」
は?
意味が分からず二人組に振り返って尋ねる。
「今は令和10年ですよね?」
「それで合っている」
自衛隊員の返答を聞いた俺がもう一人の安武に向き直る。
「それがどうしたんだ?」
「オレはミリタリーマニアだ、軍事オタクだ。お前は?」
「俺はそうじゃない。そんな趣味はない」
「いいか、オレが三年近く日本にいない間の軍事技術の進歩が異常すぎる。毎年の防衛予算や防衛省が出す情報にも逐一目を通していたから分かる」
「はあ」
何が言いたいんだ、こいつ。
「ここ、呉だろ? そこの自衛官が持ってる小銃も本来ならありえない仕様だ」
詳しく説明されても困るぞ、俺は軍事関係に詳しくない。
「それがどうした?」
「はあ~、無知もここに極まれりだな」
盛大にため息を吐いたもう一人の安武がはっきりと言った。
「ここはオレでもお前でもいた世界とは全く違う世界だ」
「何を馬鹿なことを……」
「試しに、財布から硬貨を出して年号を調べてみな?」
「あー、そんな確認方法もあったな。待ってろ、ここは俺がいた世界だと証明してやる」
呉市内で購入した鹿皮の財布をズボンのポケットから取り出して適当な硬貨を選ぶ。
平成、平成、平成……昭和が無いのが寂しさを感じるな。
おっと、あったあった。令和っと。
……ん?
霊和? あれ?
「……令の字が違う……?」
「ほれ見ろ」
もう一人の安武に勝ち誇った顔をされて俺は何も言えないでいた。
ここ、平行世界の日本かよ! てっきり、もう一人の安武が平行世界の人間だと思ってた。
◆ ◆ ◆
『呉市上空を飛び回る敵、ワイバーン?という呼称にします』
『直ちに迎撃にあたれ』
『昨日から現地に到着している陸自第○○混成連隊が対応します』
『実弾は使うなよ。落下してきた弾が国民にあたってはいかん』
『【無光】で対応します。……駄目です、何か見えない盾に阻まれているようです』
『出力を最大にしろ』
『…………効果がありません。依然、ワイバーンどもは上空を旋回しながら市内へ爆撃を続けています』
『おのれ……!』
『報告します。両城山と高烏台の光線両砲、準備宜し』
『両山のレールカノンはどうします?』
『射線上の人間や建造物に被害があれば面倒なことになる。控えろ』
『了解』
『光線砲のみ砲撃を許可する。貫通を考慮し出力を30%に抑えろ。呉市上空を飛び回る鬱陶しい蝿どもを叩き落とせ』
『撃ちーかたーはじーめ』
『撃ちーかたーはじーめ』
◆ ◆ ◆
西暦2028年2月14日17時30分 呉駅前ロータリー
二人組の内の自衛隊員の腰に付けられていた無線機ががなり立てる。
『光線砲砲撃準備良し』
『照射開始。繰り返す、照射開始』
呉市上空を二本一組の青白い光線が縦横に走ると同時、飛び交っていたワイバーンどもの内の二体が両断されて落下を始めた。
レーザーかそれに相当する兵器が配備されてるのか。
確かにちょっと科学技術が進んでいるような気がする。
◆ ◆ ◆
『呉市内各所で火の手が上がっています。なおも増加中!』
『ワイバーンとやらの数が多すぎる!』
『海自基地に停泊中の護衛艦たかまがはらから連絡![我迎撃二当タル、手助ケ必要ナリヤ?]とのことです!』
『来てくれるのか、ありがたい』
『直ちに出撃!』
『[たかまがはら、反重力機関始動。離水ノノチ現場ニ急行ス]』
◆ ◆ ◆
西暦2028年2月14日17時37分 呉駅前ロータリー
光線砲から伸びる青白い光が閃くごとにワイバーンを一匹、また一匹と丁寧に片付けていく。
また、もう一人の俺の腕から放たれる光属性の魔法の追尾攻撃によって次々と撃墜されていく。
それにしても、ワイバーンの数が多い。いったい主戦派閥はどれだけの戦力を有しているんだ?
そんな中、二人組の内の自衛隊員の腰に付けられていた無線機ががなり立てる。
『たかまがはら、出撃!』
「何の事?」
「さあ……」
ローナの問いにオレも首を傾げる。ここで自衛隊員が説明してくれる。
「去年就役したばかりの、我が国の最新鋭の護衛艦の事ですよ」
「護衛……かん?」
「船の事だよ、ローナ」
「しかし、ここは海の側だが陸地だ。それに何の意味が……」
セシルがそう言いかけたところで海側にある建物の向こうから巨大な黒い影が出てきた。
「何、あれ!?」
「でかいぞ!?」
「おいおい、さすがにこいつは……」
ローナとセシルが叫び、もう一人の俺がひとりごちる。かくいう俺は度肝を抜かれていた。
「あれが、たかまがはら?」
正解と言わんばかりに黒い影から青白い光線が何条も吐き出され、呉市上空を飛び回っていたワイバーンどもに寸分違わず命中していく。
「何で軍艦が空を飛ぶんだ?」
「そういえばそうだな」
セシルの疑問に同意して自衛隊員に目を向けると、彼は肩をすくめた。
「何、誰かが言っただけさ。敵地まで直接行けたら便利だな、そうだこんな技術が出来たから積んでみようそうしよう。……ってな」
「科学技術進みすぎだろ……」
「ははは、さすがにそこまででは無いよ。今のところはせいぜい低い山を飛び越えるくらいが精いっぱいさ。将来の目標は月へいくことらしいな」
さすがにここまでとは思っていなかったのか呆然と呟くもう一人の俺と解説する自衛隊員を置いて、俺たちは次々と撃墜されていくワイバーンを眺めていた。
第三十七話のTSの描写がおかしいとの指摘を受けたので近いうちに修正します。
これにともない明日の投稿を見合わせていただきます。
皆様にはご迷惑をおかけします。




