第三十七話 特務部隊ベッゲー登場!
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西暦2028年2月14日16時44分 呉駅前ロータリー
不可視の壁の中でぎゅうぎゅう詰めになっている敵集団の一部が爆発して倒れることもできずにぐったりしている。死んだかどうかは不明だ。
続けざまに敵集団内のあちこちで爆発が起きる。敵はどうすることもできずに沈黙していく。
不可視の壁は敵が気軽に乗り越えられないように高さ五mに設定してあるが、誰かが攻撃をしたという事は上空からやった事になるのだが、自衛隊員が上から手榴弾でも投げ入れたかな?
「あの爆発は自衛隊がやったんですか?」
「恐らくそうだろう。状況からして【シモ】だと思う」
「何ですか、それ?」
そんな兵器聞いたことない。俺が日本にいない間に新たに開発量産配備された物だろうか。
「知らないのか? TVのニュースでも取り上げられたはずなんだが」
「三年近く海外にいましたからね。つい先日ようやく帰国できたばかりで」
「そうなのか」
敵が連続して起こる爆発をもろに喰らって無力化されていく様子を眺めながら自衛隊員の解説を聞いた。
通称シモと呼ばれ、小目標対人誘導弾の略称。最初は小対と呼ばれていたが小隊と混同しやすいとの申し出を受けて片仮名の頭文字になった。
個人的にはその呼び方もどうかとは思うが、彼らの問題だから指摘しなかった。
概要は中多と呼ばれる中距離多目的誘導弾の対人版を要望する声が上がったため検討し開発許可が下り、量産が始まったばかりの新兵器。
射程は5kmと短いが元となった91式個人携帯誘導弾を流用した物で融通が利くようになっている。
利点としては民間用の2tトラックの荷台に垂直発射方式で百発据え付けられており外部の目標指定により上空へ打ち上げられた後、赤外線画像誘導で目標をほぼ真上から撃破する。一斉発射は出来ないが間断ない連続射撃が可能。
また、民間用のトラックを利用しているためほぼあらゆる道路が通行可能となっており隠蔽が容易になっている。
「……というわけで陸上自衛隊に配備された新兵器の内のひとつだ」
「よく予算が下りましたね。あのケチで有名な財務省が」
「三年近く前に起きた大虐殺を知っていれば、日本人なら誰だって怒る」
「大虐殺? そんなに死んだんですか?」
「日本国内だけで一千万人超えたぞ。……何、そんな事も知らないのか?」
自衛隊員と警察官が俺の無知っぷりに困惑する。
「事件発生直後、外国に拉致されたんですよ」
「……何だと」
和気あいあいとなっていた二人組の雰囲気が張り詰めたものに変わった。
「戦争仕掛けてきた中国とは関係のない国でしたけどね」
「うん?」
「違うのか?」
爆発がおさまったので不可視の壁を解くと中にいた敵集団が力なく崩れ落ちた。
刻印魔法がどの程度作用してたかは分からないが、無力化に成功したらしい。
「終わったのか?」
「いや、まだだ」
穴の中からまた敵集団が姿を現し始めた。
敵が穴の周辺に横たわる同胞に驚き、蹴りを入れて起こそうと試みたが起きる気配が無い。どうやらあの世へと旅立ったようだ。
敵集団から怒声が上がり、周囲を見渡して無人に近くなったロータリーに立っている俺たちを見つけると槍や剣を構えた。中には呪文らしき言葉を口にしている奴も少なからずいる。
「時間稼ぎを頼みたい。さっきの見えない壁、行けるか?」
「やってみます」
俺の魔法で防ぐのは簡単だが手の内は晒したくないので何とか持ちこたえてるという演出を心がけることにする。
◆ ◆ ◆
『安武、敵の飛び道具……魔法? とにかく攻撃を防いでいます』
『先日の375号で攻撃されたあれは魔法だったのか……』
『軍用車の装甲を凹ませるくらいの攻撃をいとも簡単に防いでる安武もたいがいだが』
『少なくとも余裕では無さそうです。本人の説明によると、攻撃を受ける度に穴が開いてその都度応急措置で塞いでいるとのこと』
『応援はまだか?』
『間もなく【ベッゲー】が到着します』
◆ ◆ ◆
敵集団は不可視の壁に阻まれ前進できず、魔法攻撃をばんばん使ってくる。その度に壁を修復するといういたちごっこだ。
そんな中、駅前ロータリーにどこにでもある普通のバスが三台やって来た。
「おや、あれは……?」
「来たか」
バスが停車し前と真ん中の扉が開くと、中からぞろぞろと人が降りてきた。
よく見ると自衛隊員でも警察官でもないただの一般人、それも女子中高生くらいの様々な学生服姿の少女たちだ。
「来たかって、どういう意味ですか?」
「新設された専門部隊だ」
「ええ……?」
安堵の声を出す自衛隊員に俺は困惑した。
か弱そうに見える少女たちが新設の部隊?
「漫画やアニメじゃあるまいし」
「だが現実だ。後は彼女らの出番だ。壁は俺たちや駅の入り口に展開して、奴らを自由にしてくれ」
「良いんですか?」
「大丈夫」
「……分かりました」
不可視の壁を一旦解いてから言われた場所に再展開する。
すし詰め状態だった敵集団は後の黒い穴から出てくる奴らと合流してさらに数が増した。
それに対して女生徒たちは横に広がり、真ん中にいる高校生らしき女子が拡声器で敵集団に呼びかける。
「やあやあ、我らは特務部隊ベッゲー! お前たちに告げる!」
この声で敵集団が女生徒たちに注目した。戦場に場違いな異性の集団が横に並んでいるのである。目を白黒させてるぞ。
それよりも、今おかしな言葉を耳にした。
特務部隊? 特殊任務の略称だろうか。
とりあえず様子を見る事にする。
敵集団は俺たちなんかよりも女生徒たちを標的に変更したらしい。人質にでもするつもりなのか、それとも。
というか、よく見ると女生徒たちが持ってる武器って金属バットじゃないか?
「ちょっとちょっと、あんな装備で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「本当かよ……?」
まさか、あのバットが爆弾で叩いた瞬間相手が吹き飛ぶ仕様だったりするのか?
「死にたくなければ今すぐお家に帰るんだな!」
『何を言ってるのか分からねえが、野郎ども女だ! 好きにして良いぞ!』
敵集団から歓声が上がる。
「帰る気はないようだな……。ならば仕方ない、突撃!」
女生徒たちがわーっと声を上げながら敵集団に向けて駆け出した。
それに対して奴らも横隊に陣形を組み、盾を横一列に構えて迎え撃つ態勢をとった。
先頭を走っていた女生徒のひとりが振りかぶったバットを盾を構えた敵に叩きつけた。コンマ何秒か遅れて他の生徒たちも敵集団の先頭で盾を構える奴らにバットを振り下ろす。
…………何も起こらない。
うん? あれ? ここは爆発して敵が倒れるとか、ゴリラや熊みたいな力で叩き潰す場面じゃないのか?
待ち構えて防御姿勢をとっていた敵集団が拍子抜けしたらしく、盾を前に押し出して女生徒たちを押し倒した。
「あっ!? このっ!」
「卑怯な!」
いや、戦にもルールはあるだろうが盾くらいで卑怯も何も無いだろう。
敵集団は女生徒たちが大した戦力でないことに安心したのか、盾と武器を放り出して彼女らを組み敷いた。
「さすがに助けた方がいいんじゃ」
「まあ見ていろ」
「彼女らの本領はここからですよ」
俺の問いかけに二人組はどっしりと構えた返事が返ってきた。
不安しかない。
戦もそっちのけで多数の敵が女生徒たちの制服の胸元を掴んで引き裂こうとした。だが破けない。
まあ、縫製技術の発達した現代日本だからな。
そんな事をつらつらと思っていると敵が短剣を抜いて制服を引き裂いた。
「きゃー変態!」
服を引き裂かれた女生徒がそう叫んだ途端、どかんと音を立てて馬乗りになっていた奴とその周りにいた敵が女生徒ごと吹き飛んだ。
意味が分からない。
「チェストー!」
どっかん。
「いっぺん死んでみようか!?」
どぉおん。
「あの世から出直してこい!」
ずずぅん。
「青春なんか爆破だー!」
どごぉおん。
組み敷かれた女生徒たちが口々に叫ぶと同時、彼女らも自爆して敵が吹き飛ぶ。
「おおおい、俺がこの国にいない間にどうなってるんですか!? というか、女生徒たちが死んでるじゃないですか!?」
俺の混乱をよそに二人組が歯切れが悪そうに解説する。
「いや、あれロボットだから……」
「はあ!?」
ロボット!? どこからどう見ても人間に見えるんだが!
「それと、随分前から複数のNPO団体からな……」
そこにNPOがどう絡んでくるのさ!?
以下、まとめるとこういう事らしい。
事の始まりは西暦2009年の日本の政権交代の後に立ち上げられた有象無象の中のいくつかのNPO団体【女性の人権を守り改革する会】やフェミニストたちが男社会である自衛隊にいちゃもんをつけたのである。
曰く、もっと女性を起用して活躍できるようにしろと。あまりにもうるさいので防衛省はしぶしぶ承諾し、関係予算を立ち上げ財務省の許可がおりベッゲーの研究開発が始まったのである。
半ば秘密裏に行われたそれは十五年で結実し、表向きうら若き女子が志願して入隊したとして世に出た。
当初この事について言い出しっぺのNPOやフェミニストたちが何か文句をつけてくるのかと身構えていたが、彼女たちは「私たちの声が政治を動かした」と周囲に自画自賛するだけで特に何も無かったので拍子抜けしたようだ。
その後ベッゲーは量産中にも様々な改修を施され、より女らしく本物と見分けがつかない程度にまで発展した。
さらに改修一型で日常会話をこなせるくらいになった。
そこに日中戦争が始まり多くの日本人が犠牲となった今、人口増加政策は喫緊の課題で長年研究していたベッゲーに注目が集まったのである。
民間用も製造され、日本人独身男性のマイナンバーカード所持者限定で販売された。
発売当初、マスコミやNPOそれにフェミニストたちがこぞって批判をしたが、販売対象を知って「もてない弱者男性がすがる最後の拠り所」と笑い物にした。
それでも初期の購入者は十万人を超えたようだ。
騒ぎは一ヶ月くらい続いたが、代わり映えしない同じ内容に飽きたのかマスコミは他のニュースへと移って行った。
発売から一年近く経過する頃、そんな彼らに激震が走った。
購入者とロボットとの間に子どもが産まれた、という情報である。
最初は誰もがそんなまさかと一笑に付したのだが、購入者たちが次々とSNSで出産を報告。どうもその情報が真実らしいということを彼らは目の当たりにした。
実は、販売された改修二型は膣と子宮と卵巣を装着され赤子を産めるようになっていたのである。
また、国が特別に当該ロボットとの入籍を許可したため、購入者が激増し販売数は瞬く間に計百万台を軽々超えた。
なお購入希望者もまだ一千万人近くおり、関連会社は嬉しい悲鳴を上げていて増産のため製造ラインを増やしたそうだ。
半狂乱に陥ったのはNPOやフェミニストたちだ。
これまで彼女たちは男性に対して優先権(そんな権利は存在しない)や取捨選択権(これも存在しない)があると主張し実行してきた。
普段何かと踏みつけられていた弱者男性たちが彼女たちに一切見向きもしなくなったのは当然だろう。
婚活(結婚活動)でさんざん金を吐き出された挙げ句、「あなたとは相性が良くないのでお付き合いできません」と連発されてしまえば誰しも嫌気が差す。
結婚を諦めた男たちが婚活をしなくなり、婚活団体が経営難に陥っていたところにこのロボットが登場した事が決定的となりとどめが刺された。
今現在、日本は空前のベビーブームを迎えており、今後の増加も期待できるため未来は明るいようだ。
逆に暗い影を落としたのが弱者男性たちを馬鹿にしてきた女性たちである。
選ばれなければ女が余るのは当然の事であり、焦った彼女らは専用の男型ロボットを販売しろと叫んだ。
日本政府からの回答は「十年お待ちください」だった。
男型は研究開発のけもやっていなかった。女型があるのである程度の期間を短縮できはするだろう。それでもそのくらいかかるのである。
男と違い、女の価値は有限だ。その最たるものが閉経だろう。
男型ロボットが販売されるか、閉経を迎えるかというデッドヒートが繰り広げられる事になり、完成すらしていないのに若い女性と年齢を重ねた女性との間で誰に優先取得権があるかで争いを始めた。
世の男性たちはあまりの醜さにどん引きした。
NPOやフェミニストたちから何故作ろうとしなかったと批判する声が挙がったが、政府からの回答は「男型を造れなんて、君たち一言も言わなかったよね? 当時の発言、記録に残ってるよ。見る?」であった。
まあそれはともかく、ベッゲーの概要は次のようなものとなる。
予算を申請して開発許可がおり、改良を重ねて完成したのが女型歩行爆弾改修二型。とく【べ】【つ】こう【げ】きから通称ベッゲーちゃんと呼ばれている。
最初はト○コちゃんで登録しようとしたものの既に使われていたことから変更したらしい。
敵集団に向けてベッゲーちゃんを走らせ、敵に衣服を引き裂かれるなど乱暴されかけたと自立AIが判断した場合、乱暴しかけた敵単体もしくは複数を巻き込んで自爆する。
また、C4Iを搭載しており複数の女型が緊密なやり取りを行っていて、たとえ一体でも攻撃されかけたら目の前の敵集団がいなくなるまで突撃してからの自爆を繰り返す悪夢が待っている。
機械の体に人工皮膚を貼り付けられ人間と遜色無い外見を獲得し、声は複数の売れっ子や大御所女性声優を起用して様々な台詞をサンプリングした結果、本物の女性と区別がつきにくくなっている。
やろうと思えば日常会話を普通にこなすことも可能で、前後不覚になりかける自衛官がそれなりにいるとか。
集団特攻時の起爆条件はもうひとつあり、女型が特定の一言を発した場合だ。「チェストー!」などといった台詞が個体ごとに設定されているという無駄に手間のかかった仕様だそうだ。
「あの……ロボット三原則は……?」
「あんな過去の一小説家の提言を耳に入れる必要は無い」
「あんなって……」
「こっちは戦争してるんだ、使える物は何でも使う。そうでもしないと生き残れんぞ?」
「あー、はい。その通りですね……」
自衛隊員の言葉の重みに口をつぐむ他なかった。
◆ ◆ ◆
『外国に拉致されていた、か』
『辻褄は合う……しかし』
『光学迷彩の出処が問題だな』
『我が国よりも先に開発した国はどこだ?』
『それよりも、ローナが回復魔法らしきものを使用した事です』
『あの女を、安武をこちらに引き込めば戦局が一気に変わるやもしれん』
『不法滞在者だろうが何だろうがさまつな事だ。損よりも利益の方が大きい』
『それでは、懐柔の線で行きますか?』
『いくつか条件をつけさせてもらえるなら飲もう』
『異議なし』
◆ ◆ ◆
西暦2028年2月14日17時13分 呉駅前ロータリー
ベッゲーちゃんを数人残して、こちら側にいる敵集団は全滅した。各爆心地はちょっとしたクレーターが出来ている。
どれだけ爆薬を体内に仕込んでたんだよ……。
こちら側の惨状を目にした敵が何人か穴の中に引っ込んで行ったが、もう来ないでほしいなあ。
ふと隣を見ると二人組の内、自衛隊員が何やら無線でどこかとやり取りしている。
「……はっ、了解いたしました」
「……どうしたのですか?」
無線でのやり取りを終えたのを見計らって声をかけると、自衛隊員は首を傾げながら返答してくる。
「本部は君のことをご存知のようだ、安武典男君」
これは身元を調べられたか。優秀だな。
「それで、彼らは何と?」
「今回の事件が終わるまで我々と行動を共にしてほしいそうだ」
「はあ」
「それと、君の家族が捜索願いが出されていて君が該当したそうだ」
「分かりました」
それならすぐにばれるわな。
「条件がある。それらを飲むなら良いですよ」
「何だ」
「一つ、妻たちと子どもに戸籍を用意すること。一つ、俺たちを人間扱いすること。一つ、無闇矢鱈に素性を探らないこと。一つ、……?」
そこまで言ったところで俺たちの近くに、虹色をした大人くらいの大きさの楕円形がアスファルト上に垂直に浮かんだ。
「何だこれ」
「安武君も知らないのか」
「さっきの黒い穴と違って虹色だし、それほど大きくない……」
そこまで言いかけて気付く。
あれ、これ転移門じゃないか?
「誰か来る!?」
「警戒態勢!」
二人組が日本刀と小銃を構え、俺が転移門の手前に不可視の壁を展開した。
どこかで散発的な銃声や爆発音が響く中、一分ほどして門の向こう側に人影が複数見えると、次々と姿を現した。男が一人、女が四人の計五人だ。
男は長い黒髪でひげもじゃの身なりの良い服装をして、女は二人が二十代、残る二人が十代後半の……?
思考が停止する。
女の一人、十代後半の女性が首輪を付けられて鎖が男の手へとつながれている。さらに女は他の四人と比べて身なりがみすぼらしく、髪も手入れがされていない。
一見、別人かと思ったが顔立ちは忘れようもない。
「副官殿?」
俺の声を聞いて女が俯いていた顔を上げる。
「……私をその名で呼ぶのは誰ですか……?」
よく見ると目の焦点が合っていない。
「俺です、安武典男です!」
「え」
虚ろな瞳の焦点が合い、俺の顔を直視して。
「……副官殿?」
彼女の顔に浮かんだ表情は怯えだった。
次回の投稿は明日の昼頃を予定しています。
それでは。




