第十二話 裏話
いきなり「君、明日から殺し合いに行け」なんて言われて、はい分かりましたと言える人間は軍人ぐらいの者ではないだろうか。
「現時点から十日以内に戦場に向かうように、というお達しが国から来た」
「……まだ最低半年の猶予があったはずでは」
「……まだこの国のごく少数にしかもたらされていない情報だが、我が国の軍も含めた同盟各国軍が先日の戦で大敗したようだ」
「……」
「軍隊が壊滅しただの、勇者たちが死んだという情報が飛び交っているそうだ」
「……」
「そのため、まだ戦力が残っている我が国に出撃要請が届いたのだ」
「勝手ですね」
「全くだ。お荷物としてしか見ていなかったのに、同盟各国の戦力の均衡が破られて連中相当焦っている。大方、戦後を見据えて、君を戦場で死なせることで我が国の戦力の突出を抑えたいのだろう」
マッケンローが肩をすくめた。
はっきり言ったなあ。
「死んでたまるか」
「それとだね、ヤスタケ君だけでなく、この学園の中等部以上の生徒たちも動員されることが決まった」
「…………学徒動員? 女子生徒たちもですか?」
思っていたよりも状況が悪いようだ。
「そうなるね。……まあ、女子たちはよほど優秀でもない限りは後方支援となるだろう」
「……誰が決めたんですか?」
「議会の半数以上を占める主戦派だよ。国王陛下と彼と親しい和平派閥は最後まで反対していたのだが……」
俺は顔を下に向けて顔を歪める。
決定は覆らない、か。
特に反論を思いつかず、マッケンローを見た。
「分かりました。このことは生徒たちにはどのように伝えるんですか?」
「明日朝に全校集会を開く」
「皆、この決定に賛同してくれるんですかね?」
「言っただろう、国が決めたことだと。むしろ、名を上げる機会だと大勢を占める下位貴族が躍起になるだろうね」
もう止められないのだと理解した。
「直ちに戦の準備をしなさい。詳しいことは戦地帰りの教官に聞きなさい」
「はい」
「以上だ、下がりなさい」
「はい」
暗澹たる気持ちで席を立つ。
落ち込んでいる暇はない。気持ちを切り替えよう。
「ああ、それと国王陛下からひとつ言伝がある」
背を向けて学園長室から出ていこうとした俺にマッケンローが声をかけてきた。
「何でしょう?」
「すまなかった、だそうだ」
「……仕方がないですよ、こればかりは」
俺はマッケンローに向き直り一礼すると部屋を出た。
教室に戻ると、皆は昼食をほぼ食べ終えたようで雑談していた。
俺を見つけたルモールが呼びかけてくる。
「お帰り。一体何だったんだ?」
「それについて相談したいことがある。今日の放課後、いつもの喫茶店にウェブルたちと集まれないか?」
「おお、いいとも」
午後の授業も何事もなく終え、教官から明日朝に全校集会が開かれることを知らされてから放課後となる。
生徒たちは全校集会について特に疑問に思わず帰宅していく。
俺はウェブルたちと一緒に喫茶店の空いている席につき、それぞれ注文してから本題に入った。
「ノリオから誘うなんて珍しいね。学園長に何て言われたんだい?」
正直に言うか遠回しにするか迷ったが、明日朝には皆に知らされるのだから白状することにした。
「国の議会で決まったことだそうだが、今回の戦でこの学園の中等部以上が動員されることになったって」
「え?」
マリーが小さく息をのんだ。
「もちろん俺も行くことになる。今から十日後までに戦の準備をして戦地に向かうように、という話だ」
「それはまた、急な話だな」
「じゃあ、明日の集会って……」
思っていたよりも深刻な内容にルモールがしかめっ面で腕組みし、マリーの顔がちょっと青くなっている。ウェブルは無言だ。
「学徒動員の話だ」
ウェブルたちは注文した品が運ばれてきても無言だった。サンドイッチを黙々《もくもく》と食べる。
考えをまとめているのだろうか。
黙りこくる三人に対して俺は自身の意見を先に述べておくことにした。
「学徒動員なんだが、クラスに別のクラスや学年の生徒を集め行動しようと考えてる。学園全体からこれはと思う生徒を勧誘するつもりだ。ウェブル、ルモール、マリーにはその中心となってもらいたい」
「……僕たちが、かい?」
「ああ。優秀な生徒を選ぶことも大事だが、長い付き合いをしている、ああ、信頼できる人を選ぶのも大切だと思っている。それが君たちだ」
ウェブルは照れくさそうに微笑みながら言う。
「そう言われると悪い気はしないね」
「でも、そんな急に戦に行こうって言われても困る」
「俺は知り合いから話を聞いていたから、いつかはそんな日が来るだろうと予感していた。覚悟はできてる」
突然のことにマリーが不安の声を上げると、ルモールはどっしりとした態勢で応じたので、彼女は目を見開いて彼をまじまじと見る。
「ルモールは怖くないの?」
「中等部以上は全員動員なんだろう? 怖気づいて引っ込んでいたら昨日まで一緒に馬鹿な事やっていた友達が目の前からいなくなっていた、なんていうことは嫌だからな」
「僕も正直怖いけれど、ルモールにそんなこと言われたら逃げられなくなっちゃうじゃないか」
三人のやり取りを見て俺は申し訳なくなった。
何だ、貴族としての名誉とか言っても体面だけじゃないか。やっぱり怖いものは怖いんだな。
彼らに対して頭を下げる。
「ごめんな、俺がここに来たばっかりに……」
「言うなって」
言葉を続けようとして、ルモールが遮った。
「俺たちにとっては出世の機会なんだ、もしかすると死ぬかもしれない。でもこの二十年戦がなかったせいで、貴族の子供たちの食い扶持が制限されている。この現状を打破するには、出世して新たな領地を得る他ないんだ」
彼らなりの生き方を教えられ、納得しつつも現代日本人としての感覚が判断する。
まさに中世って感じだな。
ルモールが俺を諭すと、マリーが俺たちを見回して言う。
「それよりもまず生き残ることが先決、何かいい方法はない?」
彼女の言葉にウェブルが手を肩の位置に上げて発言する。
「僕たちの隊に聖女見習いを多めに入れよう。彼女たちがいる、いないで生存確率がだいぶ変わってくる」
ウェブルの言葉の意味を測りかねて、俺は尋ねた。
「聖女と見習いにどのような違いがあるんだ?」
「分かりやすく言うと、死んだ人を生き返らせるのが聖女で、その御業を持っていない子は見習いだね」
「ああ、なるほど、奪い合いになるわけだ」
明確な違いに俺は一人納得しているとウェブルが補足する。
「余計な諍いが生まれるから、普通は国が管理することになるよ」
「普通は?」
「僕たちには勇者が居るからね、優先的に選ばせてくれるはずだよ」
その言葉にマリーが首を傾げた。
「それはありがたいことだけど、周りから恨まれないかなあ」
「帳尻を合わせるため、俺らには危険な任務が回ってくるんじゃないか?」
「魔王討伐という使命だけで十分危険すぎると思うがな」
ルモールの推測に俺は同意しつつ本来の目的を告げた。
「でも、今のところあたしみたいな聖女見習いしかいないわけだから、いきなり魔王に突っ込めなんていうことは言わないと思うけど」
「しかし学徒動員せざるを得ないぐらいまで追い詰められているからなあ、無茶な命令をさせられるくらいの覚悟はしておかないと」
「ううん、現地の戦況次第だろうね。酷くなければ現地で教育を受けさせてもらえるかもしれない」
マリーはこう見えて聖女見習いで神殿から注目されている一人だ。引く手あまただろうが、俺たちがもらっていく。
彼女の普通の状態ならではの推測に、ルモールが疑問視し、ウェブルが流れに身を任せる発言をした。
マリーがウェブルの言葉に反応して質問する。
「酷かったら?」
「直接敵と戦いながらの実戦教育になるな」
「ぶっつけ本番? 学生に死人が出るよ」
「抑えて、静かに」
彼女の疑問にルモールが肩をすくめて回答したが、マリーは眉を吊り上げ語気を強くしたので、ウェブルが注意する。
マリーが落ち着くのを見てから、ルモールは続きを話す。
「そこは現地の兵隊たちの裁量によるな。勉強のために安全な戦い方をさせてもらえるか、切羽詰まってて激戦区に送られるか……」
「できれば前者を希望したいところだな」
俺はできるだけ良い方向に話が向くように言ってみた。
話が途切れ、誰も発言しなくなったのを見計らってウェブルが話し出す。
「とりあえず、聖女見習い勧誘の件は生徒会と学園長に根回ししておくよ」
「頼む」
「任された。……他には何かあるかい?」
ウェブルの気遣いに俺は頭を下げると、彼に他の要望はないかと促されたので、他にも考えていたことを打ち明けてみることにする。
「それはそうと仲間を集める話なんだけど、他に誰を誘えば良いのか分からないんだ。ウェブルたちはこの人なら大丈夫という人たちを勧誘してくれないかな」
俺の言葉にルモールが自身の胸をどんと叩いて言い、マリーも続けて言う。
「それならお安い御用だ、任せてくれ。……ウェブルは攻撃魔法に詳しいから、そっち方面を当たるとして、俺は近接戦闘が得意な奴らを当たってみる」
「あたしは他の聖女見習いたちにも当たってみる」
俺はまた頭を下げた。
「皆、ありがとう」
「気にすんなって、俺たちも五体満足で生き残りたいだけだからな」
ルモールの直球な発言に俺たちは苦笑した。
次回の投稿は明日の22時頃を予定してます。




