第59話 真実へと続く道
翌日、花楓と大塚先輩は、どちらも学校に来なかった。
それは流石の私も、なんとなく予想してたこと。
だってそうでしょ?
昨日の2人は、文字通り、何かから逃げるように去って行ったんだから。
何から逃げたのか?
それは正直、今の私にも分かって無い。
だけど、昨日の晩に色々と考える事は出来たんだ。
花楓と大塚先輩に共通してて、私が知らないことは何か。
それはまず間違いなく、過去のことだよね。
私が2人に出会う前に何があったのか。そのことを、私は何一つとして知らないワケだし。
出来れば、本人から聞いて知りたかったけど、もうそう言うワケにもいかないんだと、私は気が付いた。
そう思ったのには、ちゃんと理由がある。
黄色い水仙のストラップ。
私が作ったこのストラップこそが、2人の過去に何らかの関係があるんだと思うから。
先週の生徒会室での会議の後、大塚先輩はこのストラップに気が付いてた。
それに、昨日も。急に帰宅する直前に、彼は私にストラップのことを尋ねて来てた。
たったそれだけで、ストラップのせいだって考えるのは尚早かもしれない。
でも、それ以上に、私の中で大きな違和感があったんだ。
私はどうして、このストラップを作ったんだろう?
デザインを黄色い水仙に決めた理由も、ストラップを作ろうと思ったきっかけも。
全部曖昧だ。
本当に唐突に、無性に作りたくなったことを、私は朧気に覚えてる。
花楓やトモミンと、クラスが離れ離れになることが寂しいからとか。
友情の証として、少し恥ずかしいけど作りたくなったとか。
デザインを思いついた後に花言葉の意味を調べてみて、ぴったりだと自分を納得させたりとか。
全部、取って付けたような理由だよね。
もし、日常の中でこれらに違和感を覚えてたとしても、多分私は、そのことをスルーしてたと思う。
って言うか、昨日の夜まで全然気づいてなかったし。
だけど、夏休みが明けてから今日まで、私の周りでは沢山の不思議な出来事が立て続けに起きて来たんだ。
それらの、ちょっと不思議な物事は、全部花楓の影響だったと言える。
だとしたら、今、私が感じてるこの小さな違和感も、花楓の影響によるものだと言えないかな?
そう考えた時、私の中に一つの疑問が生まれた。
もし、ストラップを作りたいという願望そのものが、花楓に影響されたせいだとするなら、この黄色い水仙は何を意味してるんだろう?
私のもとに帰って。
もう一度、愛して欲しい。
昨日、古川先輩が調べた黄色い水仙の花言葉は、そんなものだったはず。
だけど結局、どれだけ考えたところで、私はここから先の真実に一歩たりとも近づくことができなかった。
きっと、過去を知らないから。
彼女と彼が歩んできた道筋を、私は知らない。
その道筋のどこかに、真実へと続く道があるはずなのに。
「だからって、諦めるわけにはいかないよね」
手にしたストラップを握りしめた私は、下ろしてた視線を上げながら呟く。
私が今いるのは警察署の前。
何でここにいるかって? そんなの分かり切ってる話。
花楓と大塚先輩の共通の知り合いに会うためだ。
教えてくれないなら、無理やり知れば良い。
多少強引でも、私はそうするべきだと思う。
そうしなければ、もう二度と彼女に会えなくなるような気がしたから。
それはただの予感。
だけど、実感を伴った予感だった。
花楓は前にも一度、私の前から姿を消してる。
あの時は、トモミンも姿を消しちゃってて、花楓は自分一人で事件を解決しようとしてた。
それはどうしてか?
昨日の晩に考えて、ようやく私はその理由に気づくことができたんだ。
トモミンの『消えてしまいたい』って願望が、花楓を介して周囲の人に影響してしまうことを恐れたから。
多分、そんな理由だと思う。
だから彼女は、たった一人だけで解決することを選んだ。
だけど、今回はどうだろう?
今回、花楓が姿を消したのは、過去のことが原因だと私は思ってる。
つまり、いまさらどうやっても解決できない事柄が、彼女に立ちはだかってるんだ。
心を読めても、過去を変える事なんてできない。
だとしたら、彼女は何をするだろうか?
きっと、関係する人の記憶を消したんだ。
その関係する人の中に、誰が含まれているかは分からない。
だから、私が唯一知ってる関係者に会って、情報を引き出すのが最優先だよね。
そんな覚悟を持って警察署に足を踏み入れた私は、大塚警部との面会を要求した。
当然、高校生のそんな要求をすんなりと受け入れてくれるはずはない。
警察も暇じゃないはずだしね。
かといって、大塚警部以外の人に話せる内容でも無いわけだから、私はたとえ補導されたとしても構わないという覚悟で、粘り続けた。
そうこうしていると、怪訝そうな表情の大塚警部がやってきて、狭い部屋に通される。
これぞ粘り勝ちってやつだね。
もちろん、他の警察官に聞かれるわけにはいかないから、部屋に入る前に花楓について話があると伝えてある。
これで準備は万端だ。
「で、花楓について、どんな話があるのかな?」
対面に座ってそう問いかけて来る大塚警部。
そんな彼に対して、私が提示するべきものは言葉じゃないよね。
きっと、私の予想が合っていれば、これが正解なハズ。
「これ、見覚えがありませんか?」
そう言いながら、私は黄色い水仙のストラップを大塚警部の前に差し出した。
これでダメなら、次の手を考えなくちゃいけない。
そんなことを考えている私の目の前で、大塚警部は顔をしかめる。
その表情は、私の行動の真意を探っているようにも見えた。
しばらくの沈黙の後、大塚警部は大きなため息と共に、額を押さえた。
「それをどこで……いや、どうして君がそれを? いや、そもそも……」
混乱をそのまま言葉にしたように、呟く大塚警部。
そんな彼に、私は問いかける。
「大塚警部、教えて下さい。これは何なんですか? 花楓との間に、何があったんですか?」
「……」
俯いて額を押さえた状態のまま、大塚警部は私に視線を投げてきた。
その様子はまるで、頭痛に苛まれてるみたいだ。
苦しそうではあるけど、それじゃあまた今度と引き下がる訳にもいかない。
そんな私の事情を理解しているように、大塚警部は呟いたのだった。
「ちょっと外に出ようか」




