第58話 込められた意味
5日の会議から1週間後の今日、3月12日に改めて生徒会室に集められた私達は、新生徒会として初めに行う仕事について説明を受けた。
具体的に言えば、卒業式についてだね。
私にとっては、縁も所縁もない先輩達の卒業だから、正直、あんまり興味ないけどね。
でも、2年後の私も同じように卒業することになるんだと思うと、他人事ってワケにもいかないのかな?
そんな卒業式の説明と一緒に、新1年生の入学式と新年度早々に予定されてる全校集会についても、軽く説明を受けた。
ホント、生徒会って忙しいんだね。
授業明けの放課後に、延々と事務的な説明を受けなくちゃいけないのは、かなりしんどい。
でもまぁ、引き受けたからにはサボる訳にもいかないし。
そんなことを考えながらも、私は会議中に古川先輩が板書した内容を、事細かにノートに書き写していく。
もうスマホで写真撮って、その画像データを管理するんじゃだめなワケ?
「スーミィ、お疲れ様! どう? 書記のお仕事、大変?」
「見て分かるでしょ? かなり大変。なんだったら、手伝ってくれてもいいんだけど?」
「えぇ~? ワタシとスーミィでバラバラにノートとっても、あんまり意味なくない? それに、スーミィって情報を整理するの得意だし、適任だと思うんだよねぇ」
「他人事だと思って……」
「そんなことないよぉ~。ほら、スーミィちゃん。これは私達からの差し入れ。これからもよろしくねぇ」
私が花楓に対する愚痴を呟いたその時、花楓の後ろからニコニコと歩いてきた松本先輩が、抹茶オレを差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
「良いのよぉ。実際、書記って大変そうだものねぇ。あ、皆の分もあるから、安心してねぇ」
そう言って、鞄の中から次々と飲み物を取り出す松本先輩。
会議が終わってすぐに、鞄を持って生徒会室を出て行ったと思ってたけど、そういうコトだったんだ。
皆が各々で飲み物を選び始めたのを横目に、私は渡された抹茶オレを口にする。
口中に広がった甘味のおかげかな、ちょっとだけ元気が出たような気がした。
「よし、あと少し頑張るかなぁ」
自分を鼓舞するために小さく呟いてみた私の隣に、リンゴジュースを手にしたトモミンがやってくる。
「スーミィ。何か手伝おうか?」
「ううん。大丈夫だよ。板書を書き写すだけだから、人数いてもあんまり意味ないしね」
「そっか」
「うん。だから、先に帰ってても良いよ。山田が待ってるでしょ?」
「そ、そう、だね」
一瞬で顔を赤らめるトモミンは、鞄を手にしてゆっくりと立ち上がった。
そんな様子を見てたのかは分からないけど、私の対面に座ってスマホをいじってた大内が、すっくと立ちあがる。
「それじゃ俺、部活あるんで帰りますね」
「うん、お疲れ様ぁ~」
体育委員長の大内は、あまり周りの生徒会メンバーと話をしてるところを見ない。
たまに見るのは、真面目な副会長の樋口先輩と話してるところくらいかな。
あれ? そう言えば、樋口先輩がいないな。
いつの間にか帰っちゃったみたいだね。
板書を書き写すことに集中してたせいで、見落としてたみたい。
そういえば、樋口先輩ともあんまり話したことないなぁ。
気のせいかもしれないけど、この2人とそれ以外のメンバーの間には、ちょっとした溝があるような気がする。
決定的な亀裂って程じゃないけど、相容れないって感じかな。
まぁ、何かマズいことがあれば花楓が教えてくれるよね。
それ以外の、単純な人間関係のトラブルとかなら、無理に関わる必要ないと思うし。
大内が生徒会室を出て行って、それに続くようにトモミンも部屋を後にした。
わざわざ深々と頭を下げて退室するところが、トモミンらしいよね。
そうして、生徒会室に残ってるのは、私と花楓、松本先輩と古川先輩、そして大塚先輩だけになった。
と、そんなタイミングを見計らってたかのように、大塚先輩が口を開く。
「少し気になっただけなんだけど、黒光さんと大心池さん、それに南さんの鞄についてるそのストラップ、もしかしてお揃いなのかい?」
何の脈絡もなく問いかけられた私達は、少し呆けた後、顔を見合わせる。
と、私達が返事をするよりも先に、松本先輩が両手を胸の前で合わせながら告げた。
「あぁ~、それ、私も気になってたぁ。お揃いだよねぇ。可愛いお花のストラップ」
「あ、言われてみれば確かにお揃いですね。気づきませんでした」
なぜか嬉しそうな松本先輩と、気づいてなかったらしい古川先輩。
まさか褒められるなんて思ってなかったから、ちょっと照れるね。
なんて考えてたら、花楓が自慢するようにちょっと胸を張りながら言った。
「このストラップは、スーミィの自信作なんですよ?」
「ちょ、花楓?」
「まぁまぁ、スーミィちゃん、ストラップを作れるのぉ?」
「へぇ、それはすごいなぁ」
「いや、まぁ、そんな凄いことじゃないですよ」
「このお花のデザインって、自分で考えたの?」
「え? まぁ、ネットで写真を探して、良い感じに作ってみただけですよ」
思ったよりもこの話題に食いついてきた松本先輩が、私の鞄についてるストラップをマジマジと見つめ始めた。
「これって、水仙だよねぇ? 私も結構好きなんだぁ」
「そうなんですね。まぁ、確かに。私も写真を見て良いと思ったから、作ったんですけどね」
「水仙か……花言葉とかあるのかな?」
私が松本先輩に圧倒されてる間に、古川先輩が水仙の花言葉を調べ始めた。
正直、花言葉の意味を調べるなんて、して欲しくないな。
だって、まるで私が、何か意味を込めて贈ったみたいに思われちゃう気がしない?
まぁ、あながち間違っても無いんだけどさ。
わざわざ贈り物に思いを込めてるってことは、言葉で伝えることができなかった思いが込められてるってコトなのに。
暴かれるのはなんか、ちょっと嫌だな。
そこまで考えた私は、ふと思った。
暴かれるのが嫌?
それってつまり、何かを隠そうとしてたってコト?
それはきっと、小さな違和感。
だけど、その違和感は私の喉元で燻って、居心地の悪さを与えてくる。
得体のしれない居心地の悪さに、私が大きく息を呑みこんだ時。
検索を終えたらしい古川先輩が、スマホの画面を読み上げ始める。
「えっと、黄色い水仙の花言葉は、『私のもとへ帰って』とか『もう一度愛して欲しい』って意味があるらしいよ」
「ロマンティックねぇ~。素敵だわ」
「いや、別にそういう意味を込めたわけじゃ……」
無いですからね。
そう言おうとした私の言葉は、突然部屋の中に響いた音にかき消された。
勢いよく立ち上がった大塚先輩。
そのせいで床に倒れた椅子が、乾いた音を鳴らしたんだ。
何事かと、彼に視線を向けた私達に対して、大塚先輩は俯いたまま小さく告げた。
「すまない。今日はもう帰る。戸締りだけ、ちゃんとしておいてくれないかな」
それだけ言った彼は、私達の返事なんて聞かずに、駆け足で生徒会室から出て行ってしまった。
明らかに様子がおかしいよね。
唖然としてる古川先輩と、心配そうな松本先輩。
そんな2人を横目に、花楓に事情を尋ねようとした私は、彼女の様子を見て更に驚いてしまった。
さっきまで楽しそうにしてた花楓が、何かに打ちのめされてしまったように、青ざめてる。
終いには、涙まで流し始めた彼女の様子に、流石の古川先輩たちも異変に気づくよね。
心配する松本先輩と古川先輩に、何も答えなかった花楓は、小さくポツリと体調が悪いとだけ告げ、そのまま帰宅してしまう。
そんな彼女を、私はただ見送るしかできなかった。




