第57話 その先にあるモノ
生徒会に入ることになった私達3人は、新年度に向けた準備と称して、召集されることになった。
3月5日の今日がその初日で、来週の木曜日にも、集まらないといけないらしい。
やることと言えば、放課後に生徒会室に集まって、前任者から引継ぎを受けることくらい。
書記補の私は、会議中の板書を筆頭に、会議の議事録作成とか、書類の管理を任されることになるらしい。
「面倒そうだとは思ってたけど、予想以上ですね」
「ははは……まぁ、書記ってこんなもんだと、俺は思うけどね」
そう言って私の隣で苦笑いを浮かべているのは、選挙で書記に当選した先輩、古川直哉だ。
なんていうか、本当に平凡な男子生徒って印象しか抱けない、普通の男子。
いや、失礼なこと言ってるのは分かるけど、でも、それ以上の印象は正直浮かんでこないんだよね。
まぁ、書記って役職に適任だとは思うけど。
「古川先輩は去年、書記補だったんですか?」
「そうだよ。本当なら例年、2年生で書記補を経験した生徒が、次の年に書記に立候補するからね」
「なるほど、だから今年の選挙でも、書記に立候補してた人は古川先輩だけだったんですね。あれ? でも、大塚先輩って確か、2年生で書記でしたよね?」
「大塚君はまぁ、特例だよ。彼は普通じゃない」
「そうなんですか」
「そうなんだよ」
まぁ確かに、通例なら書記補から書記になるはずなのに、全く未経験の2年生がいきなり書記に立候補したってことだよね?
それは確かに、普通じゃない気がする。
って言うか、良くそれで当選したなぁ。
なんてことを古川先輩に言うのもあれだから、私は話を逸らすことにした。
「てっきり、書記なんて誰もなりたくないからかと思ってました」
「あはは、大心池さんは手厳しいなぁ。まぁ、その可能性も否定できないけどね。実際、面倒でしょ? このファイルを管理するの」
「まだ何もしてないですけど、面倒そうだってことは分かります」
「面倒だけどぉ、大事なお仕事なのよぉ~」
机の上の分厚いファイルをペラペラとめくりながら喋ってた私と古川先輩の間に、松本先輩が割り込んでくる。
そんな彼女の後ろについて回るように、会計のトモミンも私達の所にやって来た。
「会計の引継ぎは終わった? トモミン」
「うん。一通りは松本先輩に教えてもらったよ」
「あらぁ? もしかして、南さん、トモミンって呼ばれてるのぉ?」
「あ、はい。あだ名です」
「良いわねぇ~。それじゃあ今日から、私もトモミンって呼ぼうかなぁ~」
「ふぇ!? あ、えっと、ありがとうございます」
「どうしてお礼するのぉ?」
「いえ、別にそんな深い意味はないですよ!?」
松本先輩は、なぜか照れてるトモミンの様子を楽しんでるみたい。
気持ちは分かるけど、なんかズルいな。
なんてことを考えてると、古川先輩が感心したように呟いた。
「さすが松本だな。もう後輩と仲良くなってるし」
「ふふふ。そんな凄いことじゃないと思うけど。皆良い子だから、普通に接してるだけで仲良くなれるのよぉ」
「それは松本だからだろ? 俺が同じようにしても、そんなすぐには仲良くなれないし」
「そうかしらぁ? ねぇ須美ちゃん。どう思う?」
不意に渡された松本先輩からのパス。
なぜ私に投げた? って疑問を投げ返そうとした私は、彼女の目が悪戯っぽく笑ってるのを見て取った。
「そうですね、同じようにって言うなら、古川先輩にはおっとり具合が足りないと思います」
「おっとり具合……って、なんだ?」
「松本先輩みたいに、おっとりとした雰囲気を出すんですよ。そしたらきっと、相手も安心して心を開いてくれると思いますよ」
「ど、どうやったら出来るんだよ、そんなこと」
「もっと、こう、語尾を伸ばす感じ?」
「こ、こんな感じかぁ~? って、何やらせてんだよ!」
「上手よぉ、古川君」
奇しくも松本先輩のマネをしてしまった古川先輩が、恥ずかしそうな表情を浮かべてる。
そんな様子が面白くないワケが無いよね。
思わず笑ってしまった私と松本先輩、そしてトモミンを見比べて、古川先輩が苦笑いをしながら呟いた。
「完全にからかってるよな? これ」
「そんなこと、無いですって」
引継ぎの後に、そんなくだらない雑談を交わした私達は、もう下校時間が近いとのことで生徒会室を出た。
大塚先輩が扉の鍵を閉めるのを待ちながら、そう言えば花楓がやけに大人しいことに気が付く。
なんとなく彼女の様子を横目で見て見ると、何やらノートに書き込んだ内容をじっくりと見てるみたい。
っと、様子を伺ってる私に気が付いたのか、花楓がすぐに顔を上げて、声を掛けてきた。
「どうかしたスーミィ?」
「いや、引継ぎは上手く行ったのかなって思って」
「うん。大丈夫だよ。まぁ、文化祭はまだまだ先だから、焦る必要はないんだけどね。色々とやってみたいことがあるから。ちょっと考えてただけだよ」
満面の笑みでそう言う花楓。
彼女が文化委員長になったと言うことは、来年の文化祭は、きっと前よりも楽しくなる気がする。
だって、昨年の文化祭をしゃぶり尽くすぐらい楽しんでたワケだし。
そんな委員長が運営する文化祭が、つまらないわけないよね。
なんとなく、この先の行事に期待を抱き始めてた私が、肩に掛けた鞄をかけ直したその時。
扉の鍵を閉め終えた大塚先輩が、不意に口を開いた。
「あれ……? それは」
そう呟いて足を止めた大塚先輩。
当然、私を含めた生徒会メンバーの全員が、彼に視線を注ぐ。
その状況に気が付いて我に返ったのか、何でも無いとだけ告げた彼は、そのまま職員室に向かって歩き出した。
私達も、特に追及することもなく彼の後について歩く。
だけどこの時、私は少しだけ小さな違和感を持ったんだ。
皆に視線を注がれながら、大塚先輩が視線を注いでいた物。
正確に彼が何を見てたのかは分からない。
だけど、なんでか私の方に向けられてたように思った。
もっと言えば、私の鞄を、彼は見ていた気がする。
気のせいだよね?
彼が私の鞄を見ていたとしても、それは別に悪いことじゃないし。
たまたま、視線が重なってただけなのかもしれない。
実際、そうなんだ。
彼は私の鞄についてたストラップを見て、その先にあるモノを見てたんだから。
その先にあるモノ。
それは、過去。
彼の持ってたはずの過去の記憶を、この時の彼は、見ようとしてたんだ。
このことに私が気が付くのは、少し後のことになる。




