第56話 いつもとちょっと違う
「文化委員長かぁ」
教室から下駄箱までの廊下で、花楓が小さな声を溢す。
内容から察するに、さっきの話について悩んでるみたい。
正直、話を聞く前までは、悩んだりするまでもなく断るものだと思ってたから、意外だよね。
それだけ大塚先輩の切り札が効いたってコトかな。
「花楓ちゃん、引き受けないの?」
「う~ん、悩ましいよね。現状は、引き受けるか引き受けないか半々ってところかな」
ちょっと控えめに問いかけたトモミンに対して、肩を竦めながら応える花楓。
トモミンは、どう考えてるのかな?
松本先輩の話を聞いてた時、ちょっと興味がありそうに見えたけど。
もしかしたら、結構乗り気だったりする?
だとしたら、私とは違う考えってことになるかもね。
私も松本先輩の話を聞いて楽しそうだと思った。
だけど、その話は理想でしょ? とも思う。
生徒会には大塚先輩が居るワケで、彼は花楓を保護しようと動くはず。
まぁ、それに関しては、花楓本人とか私が保護されることを拒否すれば良いだけだけど、一緒に活動していく関係を築いたまま、それをするのは難しい気がする。
要は、しがらみが出来ちゃうよね。
それだけじゃなく、花楓の力についても、色々と考えなくちゃいけないことが増える可能性は高いのは確実だ。
事情を知ってる人が2人いるとはいえ、私達だけで完璧にサポートできるとは思えないしね。
なんて、私がどれだけ考えたところで、最終的に誘いを受けるか決めるのは、花楓だよね。
多分だけどトモミンも、花楓が誘いを断ったら、同じように断るだろうし。
考えながら歩いているうちに、いつの間に下駄箱に辿り着いた私達は、各々の靴を履き替える。
そうして、昇降口から正門に向かって歩き出そうとしたところで、不意に足を止めたトモミンが、背後から声を掛けてくる。
「……私、花楓ちゃんとスーミィと一緒に、やってみたい!」
そう言ったトモミンは、両手を強く握りしめたまま少し俯いてる。
きっと、こうして主張するために、廊下を歩きながら目一杯の勇気を振り絞ったんだろうなぁ。
「スーミィ」
意外な主張に私が目を奪われてると、不意に花楓が呼びかけてきた。
花楓からすれば、トモミンが勇気を振り絞る過程を、全部知ってるわけだもんね。
それで、半々ってことなのかな?
まぁ、そういうワケなら、私としても付き合うことに異論はない。
「良いんじゃない? 色々と大変そうではあるけど、楽しそうってのも事実だし」
「そうだね。それじゃあ、満場一致と言うことで、引き受けることにするよ!」
「ほ、ホント? 私の我儘に合わせてるとかじゃ、ないよね?」
「考えすぎだって、トモミン」
「そうそう。ワタシは最初っからやってみたかったしね」
「さっき、半々とか言ってたくせに、良く言うよね」
「そ、それは、言葉の綾だよ」
「どこがよ!?」
「二人とも落ち着いて。それに、まだ確定じゃないって、先輩たちも言ってたし」
「それもそうだね。これで大塚先輩が落選したら、かなり恥ずかしいよね」
そんなことを言って笑ってた私達を余所に、時間はどんどんと過ぎていく。
選挙期間の残りが少なくなるにつれて、候補者たちの真剣さは増してるように見えた。
そして、生徒会選挙の投票日がやってくる。
結論から言ってしまえば、私達3人が先輩たちの当選を心配するような事にはならなかった。
大塚先輩も、松本先輩も、圧倒的な票を獲得して、それぞれが生徒会長と副生徒会長に選ばれたんだ。
それから、開票が終わった後の放課後に先生から呼び出された私達は、少し緊張しながら職員室横の会議室に向かった。
「失礼します……」
先頭切って扉を開けた花楓に続き、私とトモミンも中に足を踏み入れる。
会議室の中には、選挙に当選した先輩方と、2人の先生が腰かけてる。
って言うか、先生の内の1人は、担任の田中先生だし。
まるで、面接会場にでもやって来たような緊張感の中、促された椅子に腰を下ろした私達。
そうこうしてると、もう一人、私の知らない男子生徒が会議室に入ってきて、ようやく話が始まった。
「えっと、忙しい中集まってくださってありがとうございます。本日、正式に来年度の生徒会長に就任が決まりました、大塚です。よろしくお願いします」
そんな大塚先輩の挨拶から始まったこの会議は、ざっくり言うと、次のような内容だった。
生徒会を構成するメンバーには、選挙で当選したメンバー以外に、生徒会役員からの推薦で選ばれる役職がある。
ここに集まってもらったメンバーは、生徒会から内々で推薦を投げていたメンバーだ。
今日来てもらった理由は、推薦を受けてくれるかどうかの意思確認をしたい。
ってコトらしい。
まさか、こんな仰々しく返事を求められるなんて思ってなかったから、少し驚いた。
でも確かに、やると言ったけどやっぱりやめた、なんて私達が言ったら、生徒会側は困るよね。
先生も立ち合いしておけば、そんなトラブルは未然に防げるってことか。
ここで覚悟を決めろってことなんだろうけど、幸い、私達は既に受けることを決めて来てる。
ちょっと不安なのが、大塚先輩と松本先輩以外の人のことを、私は全然知らないってことくらいかな。
あと、後から入って来た男子生徒のことも、知らないし。
ま、花楓に聞けばいいか。
なんてことを考えてると、真面目そうな髪型の先輩が、眼鏡をクイッと上げながら口を開いた。
「大内君。前に話してた通りだ。君には体育委員長をお願いしたいと考えている。返事を聞かせて貰っても良いだろうか?」
口調が固いなぁ。まぁ、見た目通りのキャラって言えばその通りだけど。
確か、この真面目そうな先輩は、副会長に当選した樋口先輩だったはず。
以前、松本先輩から手渡されたパンフレットでは、男子の副会長は2人の立候補者が出てたはずだから、彼が当選したってことだね。
そんな樋口先輩に話しかけられた大内って男子は、私達よりも後に会議室に入って来た生徒だった。
少し癖のある髪の毛と、そばかすが特徴的な男子。
彼は少しだけ言葉を淀ませながら会議室の中を見渡した後、観念したように口を開いた。
「えっと、まぁ、先輩たちが俺で良いって言うなら、別にいいんですけど。ホントに俺なんかで良いんですか? もっと他にも居るような気がするんですけど。祇園寺とか」
「彼も候補ではあったが、素行がな。最近大人しくなったとはいえ、過去が消えるわけでは無い。その点、大内君には実績もあるし、素行も悪くない」
「そう言うもんですか。だったらいいですよ。俺、体育委員長やります」
そんなやり取りで、あっさりと体育委員長が決定する。
そうなると、次は文化委員長かな。
なんて考えてると、次は松本先輩が口を開いた。
「それじゃあ、私からの推薦ですねぇ。まず、書記補に大心池須美さん、会計に南智美さん、そして文化委員長に黒光花楓さんを推薦します。引き受けてくれますかぁ?」
丁寧なのか、いつも通りなのか、良く分からない口調でそう告げた松本先輩。
彼女の言葉を聞いた私達は、一度お互いの顔を見合って、小さく頷き合った。
書記補とか会計とか、聞いていなかった役職が付いてるけど、まぁ、仕方がないよね。
何の役職も無い生徒を生徒会に入れるなんて言えないだろうし。
特に異論が挟まれることなく、私達3人は引き受けることに賛同する。
当然、大塚先輩は少し意外そうに目を開いた。
対する松本先輩は、嬉しそうにはにかんだ後、こちらに向かって小さく手を振ってきた。
仕草がいちいち可愛いな。
そうして、先生から生徒会役員としての心構えなんかを説明された後、私達は解放される。
すっかり日が暮れてしまった帰り道。
薄暗いその家路が、いつもとちょっと違う風に見えたのは、私だけかな?




