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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第6章 黄色い水仙

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第55話 閉まる間際

「それで、今回はどんな切りふだを持ってきたんですか?」

 真っ先に切り出したのは、花楓かえでだ。

 彼女は大塚おおつか先輩と、彼の右後みぎうしろに立ってる松本まつもと先輩を交互こうごに見ている。


 対する大塚おおつか先輩は、小さくかたすくめて見せた。

「切りふだ、ってほどじゃないけど。まぁ、話ができればと思ってね。よくよく考えれば、具体的ぐたいてきなことは何も話してなかったはずだから」

「そうですか? まぁ、大塚おおつか先輩が考えてることなんて、なんとなく分かりますけどね」

黒光くろみつさんがそうだとしても、僕はそれほど器用きような人間じゃないからね。質問しつもんとか意見いけんとか、言ってもらえないと理解できないし、改善かいぜんもできない。そうだろ?」

「むぅ……まぁ、そうですね」


 先輩の言葉にし負けたのか、花楓かえで渋々(しぶしぶ)うなずいてる。

 2人とも、トモミンとか松本まつもと先輩を前にして、結構けっこう強気つよき発言はつげんするよね。

 まぁ、絶妙ぜつみょう上手うまい言い回ししてるから、事情じじょうを知らない人が聞いても分からないんだろうけど。

 知ってる私からすれば、ちょっとハラハラしちゃう。


「それじゃあ、早速さっそく僕から提案ていあんをさせてもらおうと思うよ」

 そう切り出す大塚おおつか先輩が、舌戦ぜっせん序盤じょばんせいしたって感じかな?

 流石さすが花楓かえでも、彼の言葉をだまって聞くことしかできないみたいだし。


「前にも伝えたと思うけど、黒光くろみつさんには生徒会せいとかいに入って欲しいと思ってるんだ」

「あの、それはもうおそいんじゃないですか? だって、花楓かえで立候補りっこうほしてないですし。今更いまさら立候補りっこうほしますなんて、まかり通らないですよね?」

「それについては大丈夫だよ。黒光さんには文化ぶんか委員長いいんちょうをお願いしようと思っているからね」

 ……文化ぶんか委員長いいんちょう? って、なんだっけ?


 そもそものはなし大塚おおつか先輩の提案ていあんにケチを付けようとしたら、速攻そっこう反撃はんげきされてしまった。

 すすべなく撃沈げきちんしてしまった私を見かねたのか、トモミンが小声こごえで教えてくれる。

「スーミィ、文化ぶんか委員長いいんちょう文化祭ぶんかさい実行じっこう委員会いいんかいちょうで、生徒会せいとかい推薦すいせんで決まるらしいよ」

「そ、そうなんだ」


 つまり、文化祭ぶんかさいの時だけ生徒会せいとかいをお手伝いする委員会いいんかいおさってかんじかな?

 なるほど、それなら確かに……。

 って、納得なっとくしかけちゃってるし。


 あれだね。

 今日の話し合いで大塚おおつか先輩がねらってるのは、花楓かえで本人をせる事じゃないな。

 だってそうでしょ。

 花楓かえですでに、彼の考えを知ってるわけで、その上でこうして場をもうけたわけだし。


 ねらいは私とトモミンだ。

 つまり、外堀そとぼりめていくって作戦さくせんってことっぽい。


 私がそんなことを考えてると、大塚おおつか先輩が続きを話し始める。

文化ぶんか委員長いいんちょうの仕事のメインは確かに、文化祭ぶんかさい運営うんえいをすることだけど、実は1年を通して活動かつどうをしてるんだよ。生徒会せいとかい定例会ていれいかいに出たり、その他にも、文化系ぶんかけい部活ぶかつの取りまとめをしたり。だから、一応いちおう生徒会せいとかいの一員と言うくくりになってる」

「げぇ~、面倒めんどうくさそうですね」


 ここまでの話を聞いたかんじでは、花楓かえではあまり乗り気じゃないらしい。

 そんな彼女の様子に、少しあせりをいだいたのか、大塚おおつか先輩せんぱいは一つ息を吐いた。

 だけど、次に発言はつげんしたのは彼じゃない。


 今の今まで、ずーっと事のり行きを見守ってた松本まつもと先輩が、そのおっとりとした雰囲気ふんいきのまま、一歩前に踏み出す。

「確かにねぇ。面倒めんどうなことも沢山たくさんあると思うよ。うんうん。分かる。私も初めはね、生徒会せいとかいに入るのいやだったし」

「っ!? 松本まつもとさん!?」

 両のてのひらむねの前ですり合わせた彼女は、ニコッとした笑みを大塚おおつか先輩に向けた後、何かを思い出すように、眼鏡めがねの奥の目をほそめた。


「でもねぇ、こうして1年間ねんかん生徒会(せいとかい)活動かつどうしてみて、私はね、とっても楽しかったなぁ、って思うの。だからぁ、もう1年、生徒会せいとかいで学生生活を楽しみたいなぁって思っちゃったんだぁ」

「そ、そんなに楽しかったんですか?」


 ちょっと花楓かえで? なにられてるワケ?

 一瞬いっしゅんそう思った私だったけど、よくよく考えたら、花楓かえでられるわけないんだよね。

 ってことは、松本まつもと先輩は本当に楽しかったと思ってるということ?

 心なしか、トモミンも少しだけ興味きょうみぶかそうな表情ひょうじょうを浮かべてる気がする。


 そんな私達に追い打ちを掛けるように、松本まつもと先輩せんぱいは続けた。

「うん。本当に楽しかったよ~。まず初めに、新学期が始まったら生徒会せいとかいの皆で合宿がっしゅくに行くんだぁ。夜空よぞらがキレイなロッジで、みんなで集まって1年間の行事ぎょうじ方針ほうしんとか、ワイワイ言って話し合うの。気づいたら夜遅よるおそくまで話し込んでて、次の日は私、寝坊ねぼうしちゃったんだぁ」


 この人はホントに朝がよわいんだね。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。

 今の話で、花楓かえでの目が一気にかがやきだしたのが目に見えて分かる。

 おまけに、トモミンまで何かを想像そうぞうしてるみたいだし。


 ある意味、松本まつもと先輩こそが大塚おおつか先輩の切り札だったのかもしれない。


 なんてことを考えてると、不意ふいに私に視線しせんを投げて来た松本まつもと先輩が、おだやかな笑みを浮かべる。

「他にもたくさんの行事ぎょうじがあるんだよぉ。準備じゅんびとか、確かに大変だけど、だからこそ私は、須美すみちゃんたちと一緒に頑張がんばってみたいと思うんだぁ。どう? 想像そうぞうしてみてよ。きっと楽しいと思うんだけどなぁ」


 そう言われて、想像そうぞうしないわけにはいかないよね。

 って言うか、その想像そうぞうをするのにそれほど高いハードルは無かった。

 だって、花楓かえでとトモミンと一緒に学校がっこう行事(ぎょうじ)を楽しむって、文化祭ぶんかさいでやったことだし。

 その時の楽しさとか充実感じゅうじつかんは、確かに本物だった気がする。


 しばし考え込む私たち。

 そんな私達を見て、どこか満足まんぞくそうな表情ひょうじょうを浮かべた松本まつもと先輩は、おもむろに大塚おおつか先輩の方に向き直ると、やさしく告げる。

「でもまぁ、急に言われてもこまると思うし、今日の所は説明せつめいだけで、返事へんじは後日でも良いのよね? おさむ君?」

「え? あ、あぁ、そうだね。実際じっさい、まだ僕たちが生徒会せいとかい選挙(せんきょ)で勝てるなんて確証かくしょうもないワケだし」

「ふふふ、何を言ってるの? おさむ君が負けるわけないでしょ?」

「まだ分からないさ。まぁ、それはともかく、僕らからの話はこれくらいにしておこうか。3人も色々と考えたいことがあると思うし」


 そんな大塚おおつか先輩の言葉に賛同さんどうした松本まつもと先輩は、こころようなずきながら教室のとびらの方に向かって行く。

 彼女の後について、とびらの元まで向かった大塚おおつか先輩は、思い出したように振り返ると、口を開いた。

「この話の続きは、生徒会せいとかい選挙せんきょが終わってからにしよう。もし僕らが選挙せんきょで勝ってれば、君達3人をスカウトしに来る。その時までに、返事を考えておいて欲しい」


 彼の言葉に、私達は顔を見合わせながらも、うなずいて答えた。

 それに満足まんぞくした様子の大塚おおつか先輩は、そのまま教室を出て行く。


「それじゃあ、またねぇ。今度こんど話す時を楽しみにしてるよぉ」

 小さく手を振りながら、大塚おおつか先輩に続く松本まつもと先輩。

 彼女に会釈えしゃくした私は、松本まつもと先輩がとびらを閉める間際まぎわ一瞬いっしゅんだけ、私に視線しせんを投げてきたような気がした。

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