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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第6章 黄色い水仙

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第54話 開幕

 2月に入ったと同時に、学校の正門せいもん前では生徒会せいとかい役員やくいん立候補りっこうほした生徒たちが、毎朝まいあさ挨拶あいさつをするようになった。

 選挙せんきょ期間きかんってことなのかな。

 挨拶あいさつをしてるメンバーの中には、当然だけど、大塚おおつか先輩の姿もある。


 深々(ふかぶか)と頭を下げながら挨拶あいさつをする生徒せいとたちを尻目しりめに、靴箱くつばこに向かった私は、そこで見覚みおぼえのある女子の先輩せんぱいを目にする。

 あの人は確か、前に生徒会室せいとかいしつで見た、松本まつもと先輩。

 背中せなかたばねてる長いかみと、可愛かわいまる眼鏡(めがね)特徴とくちょうの人だ。


 何か書類しょるいを手にしている彼女は、私に気が付いたと同時に、ニコッと笑みを浮かべて小さく手を振ってくる。

 そこまでは良いんだけど、書類しょるいを持ってる手をるもんだから、あんじょう、彼女の足元に書類しょるいらばった。

 あれかな? おっとりしてるようでドジなタイプなのかな?


 あわてて書類しょるいひろい集める松本まつもと先輩。

 そんな彼女のもとけ寄った私は、書類しょるいひろうのを手伝うことにした。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫よ~。ごめんねぇ、朝から迷惑めいわくかけちゃって」

「いえ、これくらい、大したことじゃないですし」

「あらぁ、やさしいのね。だからおさむ君も、あなたにたのみごとをしようとしたのかしらぁ?」


 まさか、大塚おおつか先輩は松本まつもと先輩に事情じじょう全部ぜんぶ話してるの?

 なんて、そんなわけないか。

 多分たぶんだけど、松本まつもと先輩も内容までは聞いてないはずだよね。

 そうとなれば、ここは適当にはぐらかしてしまうのが良いかな?


「いや、そう言うわけじゃないと思いますよ。それに、結局けっきょくことわりましたので、やさしいわけでも無いですよね」

 落ちてる書類しょるいひろい終えた私は、手にしてた書類しょるい全部ぜんぶ松本まつもと先輩に手渡てわたしながら、小さく笑う。

 そうして差し出される書類しょるいを、おれいを言いながら受け取った彼女は、一つ息をいた後、クスッと笑った。


「ありがとう。ふふふっ。あなたってちょっと、変わってるわよねぇ」

 いや、松本まつもと先輩に言われるのは、ちょっと心外なんだけど。

「そういえば、自己じこ紹介しょうかいしてなかったわよね。私、松本まつもとさつきです」

「あ、私は、大心池おごろち須美すみです」

須美すみちゃんかぁ。よろしくね。あ、それと、こっちの方もよろしくお願いしまぁす」


 そう言って彼女がし出して来たのは、今まさにひろい集めてた書類しょるい

 1枚受け取ったそれは、生徒会せいとかい選挙せんきょ出馬しゅつばしてる生徒せいと紹介しょうかい用のビラみたい。


 立候補者りっこうほしゃ全部ぜんぶで6人。

 かく役職(やくしょく)ごとに立候補りっこうほしてる人がいるみたいで、それぞれの簡単かんたん挨拶あいさつなどが書かれてる。


「あれ? もしかして、松本まつもと先輩も立候補りっこうほしてるんですか?」

 内容にかるく目を通した私は、目の前に立ってる彼女に質問しつもんを投げた。


「そうよぉ~。だから、きよ一票いっぴょうをよろしくお願いしてるの」

「そうなんですね……あれ? 正門せいもん挨拶あいさつはしないんですか?」

「実は私、今日、寝坊ねぼうしちゃったんだぁ~」

 ホントに大丈夫かな。この人。

 ビラによると、松本まつもと先輩が立候補りっこうほしてるのは副会長ふくかいちょう対抗馬たいこうばは誰も居ないみたいだから、余裕よゆうがあるってことなのかな?

 いいや、違う気がするなぁ。


 いまだに私の前に立ってニコニコとしてる彼女の様子ようすに、私は少しあきれを感じてしまった。

「あの、行かなくていいんですか?」

「あぁ、そうだったわね。それじゃあ、私は正門せいもんに向かうわね。もしよかったら、今度こんど生徒会室せいとかいしつに遊びに来てねぇ。おさむ君のお願いをことわった女の子のお話、聞いてみたいし」

「どういうおさそいですか……」

「ふふふっ。ふかい意味なんてないわよぉ~」


 そんな言葉を残して、松本まつもと先輩せんぱいは去っていく。

 なんでかな。普通ふつうなら何かうらがあるんじゃないかって思う所なんだろうけど、彼女かのじょの場合、ホントにふかい意味は無いように聞こえちゃう。

不思議ふしぎな人だな」


 正門せいもんの方に小走こばしりで向かって行く彼女の後姿うしろすがた見送みおくりながら、なんとなくそうつぶやいた私は、気を取り直して教室きょうしつに向かった。


 そうしてまくけた選挙せんきょ期間きかんは、少しだけ私達の日常にちじょう影響えいきょうを与えてくる。

 毎朝まいあさ挨拶あいさつとか、昼休ひるやすみに候補者こうほしゃたちが各教室かくきょうしつり歩いて、みじかいスピーチをするとか。

 高校こうこう1年目の私達にしてみれば、体験たいけんしたことのない非日常ひにちじょうだよね。


 だからかな、そんな非日常ひにちじょうが、私達にとある現実げんじつを強く意識いしきさせたのかもしれない。


 もう少しで、1年が終わる。

 考えなくても分かる、当たり前なその事実じじつ

 だけど、人によってはあまり考えたくなかった事実じじつなのかもしれないよね。

 たとえば、部活ぶかつでお世話になった3年生の先輩せんぱい卒業そつぎょうしちゃうことへのさみしさとか。

 仲の良かった友達とクラスが別れちゃうかもしれないって言う不安ふあんとか。


 ずっと同じじゃいられない。

 変わり続けるのが現実げんじつなんだと理解りかいしてるからこそ、私達は何か記念きねんを残そうとするのかもね。


「何考えてるの? スーミィ」

「別に」

「そんなこと言ってぇ、あれでしょ、ずかしいこと考えてたんでしょ?」

誤解ごかいを生むような言い方しないでくれない?」

「スーミィ、何かずかしいこと、考えてたの?」

「ほら、トモミンが勘違かんちがいしたじゃん」

「違うよね? トモミンは勘違かんちがいしたんじゃないよ。事実を言っただけだよ。ねぇ、トモミン」

「え? 事実かどうかは分からないけど、スーミィが何か考え込んでるなぁとは、思ってたよ」


 教室きょうしつでそんな言葉をわせるこの関係かんけいも、ずっと続くわけじゃない。

 それを理解してるから、私はあのストラップを作ったんだろうなぁ。

 なんて、ずかしすぎて言えるわけないワケで。

 トモミンのかんは、思ってたよりもするどいんだと、私は今日知った。


「それにしても、おそいね」

「そうだね。人を呼び出しておいて、遅刻ちこくするなんて。ほんとに生徒会長せいとかいちょう候補こうほなのかな」

「まぁ、まだ5分の遅刻ちこくだし、多めに見てあげようよ」


 17時35分をす時計を見ながら、私達は大塚おおつか先輩が教室に来るのを待ってる。

 なんでも、花楓かえでに話があるとか。

 どうせまた、勧誘かんゆうなんだろうな。

 なんて予感よかんいだいてるのは、私だけじゃないと思う。


 意外いがいだったのは、花楓かえでが彼からの呼び出しをことわったり、無視むししたりしなかったこと。

 てっきり、相手にしないと思ってたけど、えて話を聞くってことは、花楓かえでなりの考えがあるのかな?

 そんなことを考えてると、廊下ろうかを歩く足音あしおとが近づいてきた。

 そして、大塚おおつか先輩と松本まつもと先輩が、教室きょうしつの中に姿を見せる。


「すまない。少しおくれた」

「良いですよ。1人1本、何かジュースをおごってくれれば、それで良いです」

「それくらいなら、まぁ、大丈夫だよ」

 申し訳なさそうに頭を下げる大塚おおつか先輩。

 そんなやり取りを皮切かわきりに、彼と花楓かえで応酬おうしゅうが、始まる。

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