第49話 大人ぶって
「お邪魔でした?」
「いいや、そういうわけじゃないよ。それより、昨日の続きを話しに来てくれたんだよね? 早速来てくれるとは、僕としてもありがたいよ」
せっかくあんなに綺麗な女子と2人きりだったのに、邪魔しちゃった。
そんな、ちょっとした悪戯心を込めた私の言葉を、大塚先輩は軽くいなしてしまう。
それはさっきの松本先輩を全く意識していないというよりは、私の悪戯心を見抜いたが故の反応っぽかった。
まぁ、薄く笑っちゃったし、気づかれないわけないか。
取り敢えず、扉の前に突っ立ってるのもあれだから、私は一番近くにあった椅子に腰を下ろす。
「早速ですけど、話を聞かせてもらえますか? 花楓の手助けって、具体的に何をするつもりなんです?」
「単刀直入だね。まぁ、まどろっこしくなくて、僕も助かるけど。具体的に言うとすれば、僕らが黒光さんと一緒に過ごす時間を意識的に増やすってところかな」
「えっと……それのどこが手助けなんですか?」
「君も知ってるんだよね? ……彼女の力が引き起こす現象のことを」
一度言葉を切った後、周囲に視線を投げた彼は、少し控えめな声量で続けた。
もちろん、彼の言いたいことは、私にも伝わってる。
感情が暴走する、っていう厄介な現象。
どうやら、大塚先輩も、その現象のことを知ってるらしい。
それを改めて頭に刻み込みながら、私は彼に続きを促した。
「知っている体で続けさせてもらうけど。そういった彼女の事情に詳しい人が近くにいるって言うのは、それだけで単純に手助けになると、僕は思うんだ」
「まぁ、そうですね」
「分かってくれてうれしいよ。だからこそ、彼女には生徒会に入ってもらって、学校でもなるべく一緒に居るべきだと思ってたんだけどね。どうにも、僕は彼女に避けられてるみたいだから」
「なるほど、それで勧誘してたんですね。やっと納得しました。でも、1つ聞いても良いですか? さっき言ってた、『意識的に』って言うのは、どのレベルを想定しているんです?」
そんな私の問いに、大塚先輩は少しだけ目を閉じて考え出した。
「そうだね、理想を言えば、彼女が他の人の心を読む暇もないくらい、常に一緒に居れればいいと思うけど、そんなことは無理だよね。だから、現実的な落としどころとして、同じコミュニティに所属してたりすればいいのかなって思うよ」
「さすがに理想が高すぎやしないですか?」
「ははは、まぁ、これはあくまでも理想だからね。僕も、そんなことはできないってことくらいは知ってるよ」
軽く笑って見せる大塚先輩だけど、彼の言う落としどころは、どこか変だと私は思う。
そもそも、先輩の掲げた理想って、高いんじゃなくて方向がズレてる気がするんだけど、上手く言葉にして説明できないなぁ。
この何とも言えない違和感、何だろう?
「高い理想を掲げるのは、悪いことじゃないだろう?」
「まぁ、悪いことじゃないですけど」
「できれば、彼女の友人である大心池さんからも、彼女に生徒会に入るように説得して見て欲しいんだ。あ、でも、無理強いとかはする必要ないからね」
そう言いながら、大塚先輩はすっくと立ちあがったかと思うと、1枚の紙を私に手渡してきた。
「これは……?」
「生徒会選挙の立候補用紙だよ。ちょうど来月の末に、生徒会選挙がある。その選挙に、彼女にも出て欲しいんだけど。その説得をお願いできないかな?」
名前とか所属クラスとか、そう言った情報を記入するための用紙。
その用紙を眺めた後、私はすぐ傍に立ってる大塚先輩を見上げた。
全く悪気なんてなさそうな、穏やかな表情の先輩。
そんな彼を見ているうちに、私はさっき感じた違和感の正体が、少しずつ分かり始める。
理由が分かってすっきりするかと思ってたけど、、なんだか彼の笑顔が癪に触って来たな。
そう思った私は、手にしていた用紙を彼に突き返しながら、意地悪を言ってみることにした。
「すみません。私に出来ることはなさそうです」
「ん? 何か分からないところでもあったのかな? それとも、手伝えない理由があったり……」
「いや、そういうわけじゃ……この際なんではっきり言いますけど、手伝いたくないなって思ったので」
「っ!? そ、それはどういう?」
「言葉のままです。それじゃあ、私はそろそろ帰ります」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな? ちゃんと僕の話が伝わっていないような気がするんだけど」
「そうですか? すごく分かりやすい話だったと思いますけど」
「いやいや……あぁ、そうか。もしかして、彼女が誰かの心を読むたびに、その相手の感情から影響を受けるってことを知らないんじゃ?」
「知ってますよ?」
「そ、そうなのか。それじゃあ、誰かが彼女に対して関心を持てば持つほど、彼女も相手に対して関心を持ってしまうから、より感情が暴走しやすくなるって話は」
「なるほど、それは考えたことなかったですけど、確かに、理屈としては成り立ちそうですね」
ってことは、服部先輩もそのパターンかもしれないってことかな?
頭の中でそう思いながらも、口には出さない。
少なくとも、今、目の前にいる大塚先輩に、花楓のやろうとしてることを察知させるのはやめた方が良さそうだし。
結局、大塚先輩にとっての花楓は、保護対象でしかないんだから。
花楓は言ってた、大塚先輩は良い人だって。
その言葉の意味を、私は今、ぼんやりと理解できた気がする。
多分、彼は本心から花楓のことを心配してて、助けるために、守るために、保護しようとしてる。
そんな彼の行動に、花楓の意思は介在していない。
それって、ただただ過保護なだけで、対等な関係じゃないよね?
まるで、子離れできない親みたいじゃん。
まぁ、まだ成人してない高校生が偉そうに言えることじゃないと思うけど、だけど、少なくとも私達は、そんな過保護な人物に甘え続けて良いわけじゃないと私は思う。
未熟だからこそ、大人ぶる意味があるんだし。
なんて、色々と考えながらも、私は大塚先輩の制止を振り切って生徒会室から出てきた。
思ってたことを全部ぶちまければ良かったかな?
いいや、それじゃダメだよね。
私だって、この考えに辿り着くために、花楓との関係性とか色々考えたんだし。
先輩だけがヒントを貰うんじゃ、ホントに大事なことに気づけないかもしれないじゃん。
そんなことを考えている私も、今まさに大人ぶってるってことになるのかな。
自嘲気味に笑いながら教室に向かった私は、既に全員が帰宅しているのを確認した後、自宅を目指すことにする。




