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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第5章 一片の氷心

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第48話 曇ってるせい

 翌日よくじつの朝、支度したくを終えて玄関先げんかんさきに出た私は、どんよりとくもってる空を見上げた。

 これだけくもってると、やっぱり気分も乗らないよね。


 きっと、天気てんきは人の気分に大きな影響えいきょうを与えるんだと、私は思う。

 だから多分、今日起きた不運ふうんなことは全部、空がどんよりしてるせいなんだ。

 いやな夢にうなされたのも、寝癖ねぐせなおらなかったのも、トーストの最後さいご一口ひとくちを落としちゃったのも。

 全部、くもってるのが悪い。


 どうせなら、それら全部ぜんぶあらい流してくれるくらいの強烈きょうれつあめってくれればいいのに。

 そうすれば、私の中の憂鬱ゆううつな気分も、昨日きのう置き去りにした曖昧あいまい返事へんじも、一緒に流してくれるんじゃないかな。


 なんて、考えても無駄むだなことを考えながら、私はかさたずさえて学校に向かった。

 教室きょうしつに着くと、いつもと変わらないはずなのに、どこかクラスの中が少しだけくらく感じられる。

 これも、全部(くも)ってるせいだよね?


「おはよう、スーミィ」

「トモミン、おはよう」

「今日もさむいね」

「ホントに、くもってるから余計よけいさむく感じるのかも」

「たしかにそうかも。もっと天気てんきよくれて欲しいよね」


 先に教室きょうしつに来てたトモミンと他愛たあいもない話をしていると、山田やまだ教室きょうしつに入ってきた。

 すると、彼女は小さくゴメンって言いながら、山田やまだの元に向かって行く。


 2人の関係かんけいはもう、クラスでも周知しゅうちの事実だから、その光景こうけいに誰も違和感いわかんを覚えたりはしないみたい。

 まぁ、私としてはちょっとだけさびしさを感じたりはするけど、トモミンからしたら、私にかまってる場合じゃないよね。


 だって、あと数か月したら進級しんきゅうして、クラスが変わるんだから。

 恋人こいびとと少しでも一緒いっしょに居たいって思うのは、普通ふつうでしょ?

 そんな2人の邪魔じゃまをする訳にもいかないから、私は大人しく1人で席に着く。


 もしかして、花楓かえでは今日、体調たいちょう不良ふりょうで休むのかな?

 スマホを取り出してチャットの確認かくにんをするけど、そんな連絡れんらくは来てない。

 だとしたら、彼女はいつも通り登校とうこうしてくるはずだけど、なんでか私は少しだけ心配しんぱいになった。

 でも、それは私の杞憂きゆうだったみたい。


「スーミィ! おっはよ~う!」

 空がどんよりとしてることに気づいていないような花楓かえでのテンション。

 ほんと、この子はブレないよね。

 いつもなら、朝からこのテンションはきついなぁ。なんて思う所だけど、今日ばかりはありがたいかも。


「おはよう、花楓かえで。あのさ、ちょっと話しときたいことがあるんだけど」

「ん? どうしたの、スーミィ……」

 話しておきたいこと、なんて言ってみるけど、話すまでもなく伝わっちゃうんだよね。

 だからかな、花楓かえでは私に疑問ぎもんげるのと同時に、顔を引きつらせていった。

 まぁ、大塚おおつか先輩と花楓かえでがどんな関係かんけいか知らないけど、少なくとも、花楓かえでから先輩せんぱいに対しての感情かんじょうが、あんまり良い物じゃなさそうってことは分かる。

 文化祭ぶんかさいの時も、あしらおうとしてたし。


 だから、本当だったら私は、昨日きのう時点じてんで彼の提案ていあんことわるべきだったのかもしれないよね。

 でもまぁ、曖昧あいまいげちゃったのは私だし、完全かんぜん無視むしするのも気が引けちゃうから。

 そんなことを考えながら、私は花楓かえでに自分の考えを伝えておくことにした。


昨日きのう花楓かえでと別れた後に大塚おおつか先輩と会ったんだ、で、今日話をしてこようと思ってる」

「ちょっと、それって……それってつまり!! 浮気うわきってことだよね!?」

「いや、全然ぜんぜんちがうけど」

「ワタシとわかれた後すぐに、大塚おおつか先輩と話をしに行くんでしょ!? 浮気うわきじゃん!!」

「待って、本当に誤解ごかいを生むから、変な言い方しないでくれる?」

「てへっ」

「……久々(ひさびさ)にイラっと来たなぁ、冗談じょうだん抜きで浮気うわきしようか」

「ゴメン! ゴメンってばぁ!! ゆるしてよ、ね、スーミィ、冗談じょうだんだから!」


 まぁ、私としてもそんな気は更々(さらさら)ないし、花楓かえでもそれを分かってるはず。

 だからこそ、大塚おおつか先輩と話す前に、彼女には聞いておきたいことがあったんだ。


「というワケだから1つだけ教えて。花楓かえではどうして大塚おおつか先輩のことをけてるの? 嫌いなの?」

「そう言うわけじゃないよ? でも、なんていうか、ちょっと近寄ちかよりがたいよね。昔のコトとか、色々(いろいろ)知られてるし、さ」

「そう言えば、大塚おおつか先輩も似たようなこと言ってたなぁ。誰にでも過去かこはあるってことだね……このさいだから、先輩せんぱいから全部聞きだしてこようかな」

「スーミィ? そんなことしたら、記憶きおく全部ぜんぶ消しちゃうからね?」

冗談じょうだんだって、いや、ホントに」


 花楓かえでの笑っていない目に向かって弁明べんめいしてみるけど、効果こうかはあるのかな?

 だって、私が聞き出そうとしなくても、大塚おおつか先輩が勝手かってに話しちゃったら、私は悪くないよね?

 なんてことを、今の私は考えてるワケだし……。

 って言うか、そもそも花楓かえでが一緒について来れば、大塚おおつか先輩も変なことはしないんじゃないかな?


 そう考えた私に、花楓かえでは首を横に振って見せる。

「ううん。ワタシは行かないよ。確かに、彼がスーミィに話しちゃうかもだけど、別にそれは悪いことじゃないし。それに」

 そこで一度、言葉を切った花楓かえでは、少しずかしそうに下を向きながらつぶやいた。

「スーミィなら、良いかなって」

「そっか、それなら遠慮えんりょなく聞いてこようかな」

「ちょ、ちょっとくらいは遠慮えんりょしてくれてもいいんだよ!?」

「そう言う花楓かえでは、いつも遠慮えんりょしてるワケ?」

「うぐぅ……ご、ごめんなさい」

「別にいいよ。今更いまさらでしょ?」


 こうして、花楓かえでのおすみき(?)をもらった私は、後腐あとくされなく大塚おおつか先輩から話を聞くことができるようになった。

「っと、そう言えば、服部はっとり先輩せんぱいの件はどうするの?」

「そっちは、しばらくの間は大丈夫だと思う。ワタシに考えがあるから、準備じゅんびが出来たらまた連絡れんらくするね」

「分かった」


 昨日の夜、服部はっとり先輩の家で見たことを思い浮かべながら、私は言葉を飲み込んだ。

 本音ほんねを言えば、昨日の花楓かえで対応たいおうであってるのか、疑問ぎもんがある。

 だけど、じゃあどうすれば良いのか聞かれても、私には分からない。

 だったら、あんを持ってるって言う花楓かえでに任せるのが良いんじゃないかな。

 一応、後でその案とやらの内容を聞いておこう。

 そんなことを考えていると、田中たなか先生が教室に来てホームルームが始まった。


 朝のホームルームが終わり、授業じゅぎょうを受けて、昼休みに入る。

 どんよりとした空のせいで、なぜか強烈きょうれつ眠気ねむけを感じてた私は、昼休みを仮眠かみんに当てることにした。

 たまにはそんな日があっても良いよね?


 そんなこんなで、あっという間にやって来た放課後ほうかご

 ちょっとだけくちびるとがらせてる花楓かえでと別れた私は、1人で生徒会室せいとかいしつに向かう。


 そして、生徒会室せいとかいしつの前に辿たどり着いた私は、躊躇ためらったりせずに、とびらを開けた。

「失礼します。大塚おおつか先輩、いますか?」

 そう声を掛けながら中に入った私は、大塚おおつか先輩ともう一人、女子生徒がいるのを見て取った。


 ゆったりとウェーブの掛かったかみの毛を背中せなかたばねているその女子生徒は、私の声を聞いてこちらをり返る。

 大きめの丸い眼鏡めがねおくから、私に視線しせんを投げて来る彼女の表情ひょうじょうは、とてもおだやかそうに見えた。


「あらぁ? お客様きゃくさまですかぁ?」

 おっとりと、そう言った彼女は、すぐに大塚おおつか先輩せんぱいに目を向けた。

松本まつもとさん、申し訳ないけど、少しの間だけせきを外してくれないかな?」

「うん。分かったよぉ」


 椅子いすに座って書類しょるい整理せいりをしてた大塚おおつか先輩にうながされて、松本まつもとと呼ばれたその女子生徒じょしせいととびらの方に向かって来る。

「あの、すみません」

「いえいえ~。大丈夫ですよぉ」

 にこやかなみをかべつつ、私のわきをゆっくりと歩き去っていく松本まつもとさん。

 彼女を見送みおくった私は、しずかにとびらめて、大塚おおつか先輩に向き直ったのだった。

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