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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第5章 一片の氷心

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第47話 返事を残して

 服部はっとり先輩せんぱいの家を出た後、私と花楓かえで重苦おもくるしい空気の中、家路いえじについた。

 彼女に色々(いろいろ)と聞きたいことはあるけど、今はやめておいた方が良さそう。

 多分たぶん、今日はいつもより力を使いすぎちゃったんだろうな。


 少しだけ顔色かおいろの悪い花楓かえでの様子は、とても体調たいちょうが良さそうとは言えなかった。

 たおれたり、意識いしきうしなったりするほどじゃないけど、気分の悪い時って、誰にでもあるよね。


 話す時間はまた明日あしたにでも取ればいい。

 そんなことを考えながら、私達はとあるえきで別れのあいさつをわした。

 服部はっとり先輩の住んでる家から私の家に帰るまでには、一度だけ乗りえをしなくちゃいけない。


 寒空さむぞらの下、つめたいベンチにこしを下ろした私は、自販機じはんきで買ったあたたかいミルクティーに口を付ける。

 そうやって電車を待っていると、アナウンスの後に轟音ごうおんを立てながら、目当ての電車でんしゃがホームに入ってきた。


 その電車でんしゃに乗り込もうとした私は、開いたとびらの目の前に、大塚おおつか先輩せんぱいが立っていることに気が付いた。

「あ……」

「こんばんは、大心池おごろちさん。やけにおそ外出がいしゅつだね」

 そう言いながら、自分のわきにスペースを作ってくれる大塚おおつか先輩。

 あからさまにスペースを作られたら、そこに向かうしかないよね?

 まぁ、混雑こんざつしてる電車でんしゃからりる人がない以上、どちらにしてもそのスペースが無いと乗れないわけだけど。


「ありがとうございます」

 取りえず、おれいだけは言っておいた方が良いと思った私は、みじかく言ったあと無言むごんまどにらみ続ける。

 そうしてれば、きっと大塚おおつか先輩は空気を読んで話しかけてこないはず。

 なんて私の目論見もくろみ看破かんぱされてたのか、彼は小さく笑った後、躊躇ためらうことなく声を掛けてきた。


黒光くろみつさんに付き合わされた、ってところかな?」

「……どうしてそう思うんですか?」

「あまり気分がすぐれないって表情をしてるから」

「なんですか、それ」

「まぁ、僕にも君の気持がちょっとだけ分かるってことだよ」

「先輩こそ、疲れてるって顔してますけどね」

「あはは、まぁ、そうだね。今日はいつもより遅くなっちゃったから」


 そう笑う彼の表情ひょうじょうからは、疲労感ひろうかんただよってる。

 そう言えば今日の放課後ほうかご、彼は服部はっとり先輩せんぱい佐藤さとうのいざこざをおさめに向かってたんだっけ?

 どおりで、服部はっとり先輩も帰りがおそかったワケだね。

 正直しょうじき、さっき服部はっとり先輩の家で見た光景こうけい衝撃的しょうげきてき過ぎて、そんな騒動そうどうのコトなんて頭の中からすっぽりと抜け落ちてた。


 花楓かえではもう、服部はっとり先輩の記憶きおくから何が起きたのか知ってるだろうけど、一応いちおう私も情報じょうほう収集しゅうしゅうしてた方が良いよね?

 そんな考えのもと、私は大塚おおつか先輩せんぱい質問しつもんしてみる。


「あのあと、どうなったんですか?」

「何のこと?」

「分かってますよね? 服部はっとり先輩のことです」

「あぁ、何とか服部はっとりさんをなだめることはできたよ。まぁ、ホントに大変たいへんだったのは、その後だけどね」

「そうなんですね。私には、彼女を穏便おんびんに宥める方法ほうほう全然ぜんぜんわかりませんけど」

「そこはほら、関係性かんけいせいってやつが違うからさ」


 関係性かんけいせい

 大塚おおつか先輩と服部はっとり先輩の関係性かんけいせいってコトかな?

 それってどういう意味なんだろ。

 彼女は大塚おおつか先輩の追っかけをしてて、大塚おおつか先輩からすればあつかいやすいとか、そんな話かな?

 なんか違う気がする。


 大塚おおつか先輩の言葉には、何かふくみがあるように聞こえたし。


 そんなことを考えて、大塚おおつか先輩のことを横目よこめぬすみ見た私は、彼がジーッとこちらを見ていることに気が付く。

「なんですか?」

「ちょっと、気になったことがあったね。僕からも1つ聞いて良いかな?」

「……どうぞ」

「どうして、大心池おごろちさんが服部はっとりさんのことを気にしてるのかな?」

「え?」

「いや、大心池おごろちさんの場合、気になるのは佐藤さとうさんの方かなって思ったんだけど」

「それは……」


 するど視線しせんが私をつらぬく。

 彼の視線しせん花楓かえでとは違って、私の挙動きょどうから何かを読み取ろうとしてるみたいだった。

 いや、多分もう、全部ぜんぶ見抜みぬかれてると思う。

 それを証明しょうめいするように、大塚おおつか先輩は頭上ずじょう路線図ろせんずながめた後、私に視線しせんを落としてきた。


「なるほど、それであのえきにいたんだね」

「ストーカーですか?」

ひどいなぁ。ちょっとわけあって、ぼく彼女かのじょの家を知ってるだけだよ」


 とぼけて見せる先輩。

 そんな彼を見て、私は初詣はつもうでで見た光景こうけいを思い出した。

 もしかして、大塚おおつか先輩が買ってたお守りって、服部はっとり先輩のためのもの?

 ただの思い付きが、頭の中に充満じゅうまんしていく。

 それはずっと聞いてみたかったことで、だけど、ちょっと聞きづらいこと。

 だからこそ私は、花楓かえでが居ないこの機会きかいに、思い切って聞いてみることにした。


「答えたくなかったらすみません。もしかして、初詣はつもうでの時に買ってたお守りって、服部はっとり先輩にわたすための物だったんですか?」

「……」

 一瞬いっしゅん、目をほそめた先輩せんぱいは、しばらくの間私を見つめてきた。

 そんな彼の視線しせんを、私はかるまばたきではじき返した。


黒光くろみつさんから、何か聞いたのかな?」

「いえ、彼女に聞いたらはぐらかされました。それって、直接ちょくせつ聞けってことだと思ったので、今聞いてる感じです」

「なるほど」

 小さなため息をいた彼は、その後、ゆっくりと首をよこに振って、私の推測すいそく否定ひていする。


大心池おごろちさんの推測すいそく間違まちがってるよ。あれは、服部はっとりさんに渡すための物じゃない」

「そうなんですね」

「そうだ」


 尻すぼみになっていく大塚おおつか先輩の言葉。

 そんな彼の言葉に、どこかかべを感じた私は、これ以上の会話かいわは続かないと思った。

 一定のリズムでれる電車の中、私達はだまり込む。


 このまま、電車が家の目の前まで送り届けてくれたらいいのになぁ。

 なんて考えてた時、不意ふい大塚おおつか先輩が口を開く。


大心池おごろちさん、黒光くろみつさんの友人ゆうじんの君に、提案ていあんがあるんだけど」

「……はい?」

「僕と一緒いっしょに、彼女の手助てだすけをしてくれないかな?」

「……花楓かえで手助てだすけ?」

 うん、と大きくうなず大塚おおつか先輩。

 そんな彼に返事へんじをしようとした時、電車でんしゃの中にアナウンスが流れた。

 そのアナウンスが、私の降りる駅の名前をげてる。


「えっと」

「もう着いちゃうみたいだね。続きはまた明日、話せるかな? 時間じかんがある時にでも、生徒会室せいとかいしつに来て欲しい」

「……はぁ」


 肯定こうていとも否定ひていとも取れない返事へんじを残して、私は電車を降りる。

 そうして、もやもやとした考えをいだきながら、帰宅きたくしたのだった。

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