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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第5章 一片の氷心

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第46話 今のワタシに出来るのは

 一度いちど解散かいさんした私と花楓かえでは、夜のえきで待ち合わせをすることにした。

 夜中よなかに出歩くことなんて中々(なかなか)ないから、ちょっとだけソワソワするよね。

 帰宅きたくするなり、制服せいふく着替きがえて防寒ぼうかん対策たいさくをしっかりとした私は、少しだけコタツであたたまった後、約束やくそく場所ばしょに向かって出発しゅっぱつする。


 そうして、すでに駅についてた花楓かえで合流ごうりゅうした後、私達は一旦いったん適当てきとうなカフェに入った。

「で? この後何かあるの?」

「うん。ちょっとね。一応、服部はっとり先輩の様子を見ておきたいから。ここで彼女が駅に来るのを待とうかなって」

「あぁ、そういうコト」

「それで、できればそのまま家までついて行こうかなって思ってる」

「え? それって尾行びこうじゃないの?」

「人聞き悪いなぁ。ワタシはすでに彼女の住所じゅうしょを知ってるんだよ? そこらへんのストーカーと一緒にしないでくれる?」

「いや、ストーカーはそこらへんにはいないでしょ」

「それはどうかな?」

「……マジ?」

「まぁ、スーミィも気を付けた方が良いよ。とだけは言っとくね」

「ちょ、怖いって」


 花楓かえで表情ひょうじょうからして、冗談じょうだんじゃなさそう。

 自惚うぬぼれとかじゃなく、私も気を付けた方が良いかな?

 なんて考えながらや汗を流す私を横目よこめに、花楓かえではコーヒーをすすってる。

 なんとなく、のどかわいた気がした私も、すぐにコーヒーを口にふくんだ。


 それからしばらくの間、私達はカフェの外を観察かんさつしながら雑談ざつだんを続ける。

「ところで、服部はっとり先輩せんぱい危険きけんだって話だけど、やっぱりきっかけは……その、れいの話なワケ?」

 まわりに人がいる状況じょうきょうで聞きづらいから、私はえて言葉をにごした。

 まぁ、内心ないしんを知ってる花楓かえでからすれば、質問しつもん意図いと誤解ごかいすることは無いはずだよね。

 そんな私の期待きたいこたえるように、花楓かえではゆっくりと話し始める。


「きっかけは、まだ分からないかな。今は色々(いろいろ)んでる段階だんかいだから。逆に言えば、何かきっかけがあれば、いつ決壊けっかいしてもおかしくないかも」

「なるほどね。じゃあ、もう1つ質問しつもん服部はっとり先輩と花楓かえであいだに何か接点せってんがあるとは思ってなかったんだけど、どうして今回は服部はっとり先輩なの? 正直しょうじき、また佐藤さとうが危ないのかと思ってた」


 私がそう思ったのにはいくつか理由がある。

 以前いぜん感情かんじょう暴走ぼうそうさせた佐藤さとうが、もう一度いちど暴走ぼうそうすることがあるのか私は知らない。

 だけど、ここ数か月の彼女が沢山たくさんのストレスにさらされてたのは事実じじつのはずだよね。

 きわめつけは、佐藤さとう花楓かえでが同じクラスだから、嫌でも接点せってんがあるという点。

 そういう意味で、佐藤さとうが一番、ため込んでいる状態なのかと思ったんだけど。

 どうやらそう言うわけでも無いらしい。


佐藤さとうさんは前に一度いちど発散はっさんしてるから、当分とうぶんは大丈夫なはずだよ。まぁ、ストレスを受けすぎたら精神的せいしんてきよわる事はあるかもだけど、ワタシの影響えいきょう感情かんじょう暴走ぼうそうすることは無いはず」

「そっか」

「それに、スーミィも大丈夫だよ。だって、ワタシが絶対ぜったいまもるから」

「それは心強こころづよいね」


 自信じしん満々(まんまん)に言う花楓かえでにそう返した私は、かといって安心したわけじゃない。

 守ってくれるってことは、何かしらの危険きけんがあるってコトでしょ?

 ってことは、私も油断ゆだんしてちゃいけないってワケだよね。


 あらためて気を引きめた私は、取りえず、目の前の問題に集中することにした。

 それから、服部はっとり先輩が来るまでの間、彼女についての情報を2人で整理する。


 家族かぞく構成こうせいは4人家族(かぞく)で、両親りょうしん服部はっとり先輩の他に、いもうとさんが1人いるらしい。

 服部はっとり先輩の母親ははおやが今の父親ちちおや再婚さいこんしたことで、今の家族かぞく構成になったとのこと。

 ちなみに、妹ちゃんは服部はっとり先輩の実のいもうとだそうだ。


 完全に他人事ひとごとな話に、複雑ふくざつそうだなぁなんてことを考えていると、ついに服部はっとり先輩が駅に姿を現した。

 彼女にバレないように、カフェを出て後を追った私達は、電車でんしゃに乗って閑静かんせい田舎いなかの駅に辿たどり着いた。


 その駅から歩くこと15分。

 住宅街じゅうたくがいの中になら団地だんちに入って行った彼女を、私達は見送る。

「追いかけないの?」

「うん。ワタシ達はここで彼女の父親が帰って来るのを待つんだよ」

「外で!? いや、寒くて無理だって」

「仕方ないなぁ。それじゃあ、服部はっとり先輩の家に上げてもらおっか」

「は? いやいや、それはできないでしょ」

「大丈夫だって、ワタシを誰だと思ってるの?」

「ストーカー?」

「違うから! むぅ……すぐにワタシのことからかうじゃん」

「それはおたがい様でしょ」

「ワタシは良いの!」

「勝手だなぁ」


 なんてぼやきながらも、私達は服部はっとり先輩の家まで歩き出す。

 彼女の一家が住んでるのは、団地だんちの3階みたいだね。

 躊躇ちゅうちょすることなく先導せんどうしてくれる花楓かえでについて行った私は、しばらくして3-6って書かれた表札ひょうさつを見つけた。


「ここだね」

 そう言った花楓かえでが、無造作むぞうさに扉をノックする。

 すると、どこかボーっとした様子の服部はっとり先輩が、扉を開けてくれた。


 様子からさっするに、服部はっとり先輩は今、花楓かえであやつられてるっぽい。

 洗脳せんのうか何かかな? もしくは、幻覚げんかくでも見せてる?


 なんて考えてると、奥のリビングらしき部屋から、おさない女の子がヒョコッと顔をだしてきた。

「……どうしたの?」

 その子が多分、服部はっとり先輩のいもうとみたいだね。名前は確か、服部はっとり(りん)

 肩口かたぐちで切りそろえられた髪と、純真無垢じゅんしんむくひとみ特徴的とくちょうてきな、可愛い女の子だ。


 そんなりんちゃんは、着ているピンク色の寝巻ねまきすそをギュッとにぎりながら、玄関げんかんに立つ服部はっとり先輩せんぱいを見てる。


 ちょっとだけ、服部はっとり先輩のことを怖がってるように見えるのは、気のせいかな?


 玄関げんかんすみに隠れるようにしながら、そんなことを思ってると、われに返った様子の服部はっとり先輩がリビングの方へ歩いて行く。

「別に。良いから、はやく髪の毛(かわ)かしな。風邪ひくよ」

「……うん」


 素直すなお先輩せんぱいの言葉に従う様子のりんちゃん。

 そんなりんちゃんとは対照的たいしょうてきに、未だに制服せいふく姿のままの服部はっとり先輩は、リビングのソファにこしを下ろした。

 直後ちょくご、顔を見合わせた私と花楓かえでは、リビングに続く廊下ろうかを歩く。


 当然だけど、今の私達の姿は服部はっとり家の人たちには見えてないらしい。

 そうじゃないと、堂々(どうどう)と家に入るなんてできないよね?

 そうやって、ひそかにだんを取ろうと思ってた私達だったけど、そこには1つだけ誤算ごさんがあった。


「エアコンを掛けてないのは予想外よそうがいだった……」

かぜが無い分、外よりはマシでしょ?」

「いや、普通に寒いけど。どうして暖房だんぼう付けないんだろ。寒くないのかな?」

「多分、理由はすぐにわかるよ」


 花楓かえでがそう言った瞬間しゅんかん玄関げんかんの方からとびらが開く音がする。

 すると、その音を聞きつけると同時に服部はっとり先輩が反応はんのうを見せた。

 りんちゃんに向けて、あごとなりの部屋をし示したんだ。

 それだけで何が伝わるのか、私には分からなかったけど、りんちゃんはすぐに理解したらしい。


 かみかわかしてたドライヤーを止めて、急いでとなりの部屋に駆け込んでいくりんちゃん。

 彼女がとなりの部屋のとびらめると同時どうじに、玄関げんかんからの廊下ろうかを通って2人の大人が部屋に入ってくる。


「おい、今ドライヤー使ってなかっただろうな?」

「私が使ってたけど? 寒いから、手をあたためてただけ」

 ソファに座ったまま、ぶっきらぼうにそう言う服部はっとり先輩。

 そんな彼女の言葉を聞いた大人の内の1人、男の方がゆっくりとソファに歩み寄った。


 大きめのスーツで、恰幅かっぷくの良いはらかくそうとしてるその男は、ボサボサの頭をきむしりながら、服部はっとり先輩の目の前に立った。

 そうして、もう1人の大人である、やせ細った女性に向けて告げる。

「お前の教育きょういくがなってないから、こんな生意気なまいきな女に育つんだ。悪いのは全部お前だからな?」


 そう言って男がうでを振りかぶり、部屋へやの中に女性の制止せいしする声がひびく。


 これはマズい。

 そう思って、私が思わず一歩をみ出そうとした瞬間しゅんかん

 私よりも先に一歩をみ出してた花楓かえでが、男の背中せなかに手をえながらつぶやいた。


「今のワタシにできるのは、これくらいかな」


 途端とたんに、部屋の中に静寂せいじゃくが走り、男はゆっくりと腕を降ろした。

「……今日はもう疲れた、風呂入ってめし食って寝る。分かったら準備しろ」

「……え?」

「なにほうけてんだ!? 良いから準備しろ!」

「わ、分かりました!」


 困惑こんわくする服部はっとり先輩を差し置いて、リビングの入り口で委縮いしゅくしてた女性があわてた様子で動き出した。

 様子からさっするに、風呂ふろ夕食ゆうしょくの準備を始めたらしい。


 そのまま、大人しくソファに座ってテレビを見始めた男。

 そんな男の様子に動揺どうようかくせないらしい服部はっとり先輩が、女性の手伝いを始めたのを見送って、私と花楓かえでは彼女の家を後にしたのだった。

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