第43話 私の本意
冬って寒いよね。
特に今年の冬は、例年よりも寒いような気がしてる。
外を歩くだけで指先を筆頭に、鼻先とか耳とかが冷たくなっていくし。
ついさっきまで出来立てだったはずのコーヒーも、あっという間に温くなっちゃう。
あれ? もしかして、例年と同じかな? まぁいいや。
リビングのコタツに足を突っ込んだまま、温くなったコーヒーを啜った私は、一つため息を溢した。
出来立てが美味しいのになぁ。もう一回レンジで温め直そうかな。
なんて考えてると、不意にインターホンが鳴る。
「あれ? もう時間だっけ?」
咄嗟にテレビの隅に表示されてる時間を見た私は、約束してた時間まで30分近く余裕があるのを確認した。
流石に早いよなぁ。なんて思いながらも、誰であれ寒い中外で待たせるのも申し訳ないから、取り敢えず玄関に向かおう。
家には今私しかいないから、ちょっと早くても上げちゃって良いはずだしね。
誰も気にしないだろう言い訳を考えながら玄関を開けた私は、そこに花楓とトモミン、そして山田が立っているのを目にする。
「お、スーミィ! あけましておめでとうございまぁす! 今年もよろしくね!」
真っ先に目に入って来たのは、オレンジ色のダウンジャケットと黄色いニット帽をかぶった花楓。
挨拶をしながらも元気に手を振る彼女は、年が明けても相変わらずみたいだね。
「あけましておめでとうございます。こ、今年もよろしくお願いします!」
白くてふわふわとしたダウンコートが特徴的なのは、トモミンだ。
彼女は妙に畏まってるのか、深々とお辞儀をしながら挨拶を口にする。
「あけおめことよろ」
最後にぶっきらぼうに挨拶を口にしたのは、山田だ。
黒のシュッとしたコートに身を包んでる彼の姿は、少しだけ大人っぽく見える。
そんな三者三様の挨拶を前に、私は思わず笑みを溢しながら、挨拶を返した。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
そう言った私は、玄関先に立ってる3人に改めて謝罪することにした。
「ごめん、まさか30分も早く来るなんて思ってなかったから、まだ出る準備できてない」
「大丈夫大丈夫! 私達は大人しくコタツで待っておくから!」
「どんだけ図々しいんだよ」
「良いでしょ!? 寒いんだし!! 嫌なら山田君は一人で外で待ってれば?」
「まぁまぁ、ウチは別に大丈夫だから、取り敢えず入って」
正月早々、家の前で喧嘩を始められるのは困る。
山田の言い分がもっともなのは分かってるけど、今回は花楓が正しい。と言うことにしておこう。
3人を家に上げてリビングに通した私は、灰色のコートとマフラーを準備して、コタツに逃げ込んだ。
それから十数分、テレビを見ながら体を温めた私達は、予定していたより少し早めに家を出る。
正月早々に行く場所なんか、初詣に決まってるよね。
世の中には、初日の出を見に行くって人もいるらしいけど、生憎、私達にそんな元気はない。
いや、花楓なら行きたがりそうだけど、多分トモミンは苦手なんじゃないかな?
朝とか弱そうだし。
そんなこんなで私たちが向かったのは、学校の近くにある神社だ。
それなりに有名らしいこの神社には、私が想像してた以上の人だかりができてる。
去年までは、こうして友達と初詣に行くなんてしなかったから、こんなにも混雑するなんて知らなかったなぁ。
本音を言えば、花楓とトモミンに誘われなかったら、絶対に来てないと思う。寒いし。
取り敢えず参拝するための列に並んで、お参りを済ませた私達は、少しだけ神社の中を歩いてみることにした。
って言っても、神社の中に見て回れるような物はそんなに多くないワケで、最終的にお守り売り場に行きつく。
去年の私がお守りを買いに来てたとするなら、受験もあったことだし、学業系のヤツを買うんだろうな。
でもまぁ、今年はこれと言って欲しいものは特にない。
皆は何か買うのかな?
そう思った私は、ふと、隣でお守りをマジマジと見ているトモミンを見た。
視線の先にあるのは……交通安全?
いや、流石に違うよね。だとしたら、その隣の……。
「トモミン、何か欲しいお守りでもあるの?」
「う~ん、健康祈願とか、気になってます」
よっぽど真剣に選んでるのか、トモミンは少し遠い声で応える。
仕掛けるなら今だね。
「それってもしかして、山田に渡すの?」
「うん……って、スーミィ!? べ、別にそんなんじゃ」
「隠す必要ないジャン。彼氏には健康でいて欲しいもんね」
「っ~~。そうだけど、そうだけどぉ!!」
顔を赤く染めながらそう言ったトモミンは、少し離れた場所で何やらお守りを買ってる山田をチラッと見た。
それにしても、慌ててるトモミンって可愛いなぁ。
こういう所に山田は惚れたのかな?
なんて考えてると、隣にいたトモミンが「あれ?」と呟いた。
「どうしたの?」
「あそこ、大塚先輩」
トモミンの指さした方を見ると、確かに大塚先輩がお守りを吟味してる。
でもまぁ、学校近くの神社だし、彼が居ること自体は変じゃないよね。
そんなことを考えてると、山田と花楓がそれぞれ小さな紙袋を手にしながら、私達の所にやってくる。
「スーミィとトモミンはお守り買った? って、どうしたの?」
「いや、大塚先輩がいるって話をしてただけ」
そう言って、私は花楓達に視線で説明した。
すぐに理解したらしい2人は、だけど、あんまり興味は無かったみたい。
まぁ、私もそれほど強い関心があるワケじゃないんだけどね。
取り敢えず、もうそろそろ寒さで身体が震えそうだし、適当にお守りを買って帰ろう。
たくさん並んでるお守りの中から、金運上昇のお守りを手に取った私は、巫女さんにそれを手渡す。
会計を終えて、小さな紙袋のお守りを受け取った私が、そのまま花楓たちの元に戻ろうとした時。
不意に大塚先輩の声が耳に入ってきた。
「あ、2つはそれぞれ別々の袋にお願いします」
きっと、誰かに渡す分も買ったんだろうな。
背後の大塚先輩の方を振り返るまでもなく、予想できること。
それは特に変な話じゃないよね。
だけど、そんな何気ないことが、私の中で何かに引っ掛かった。
同時に、クリスマスイブに見た大塚先輩のことが頭を過る。
無性に気になってしまった私は、帰り道の途中で我慢できずに、花楓に問いかけてみた。
「ねぇ、花楓。大塚先輩って彼女でもいるのかな?」
「え? さぁ、ワタシは知らないなぁ」
今は話すつもりが無いのか、花楓はそう言ってとぼける。
当然、そんな彼女の答えに私が納得できずにいると、トモミンが少しだけ息を呑みながら告げた。
「スーミィ、もしかして、大塚先輩のことが気になってる?」
「いや、そんなんじゃないよ、トモミン」
すぐに否定したけど、トモミンと山田に私の本意は伝わらなかったみたい。
失敗したなぁ。
なんて思ってみるけど、それはちょっと遅いよね。




