第42話 クリスマスイブの夕食
花楓と仲直りをしてからの日々は、控えめに言って慌ただしかった。
12月初旬には期末試験があるから、私達学生は試験勉強に追われるよね。
そしていざ、迎えた試験本番が終われば、年末年始の冬休みに向けての課題とか試験の結果とかが配られる。
こうも一方的に、嫌な情報を押し付けるのはやめて欲しいな。
なんて、クラス全員が思ってるであろうことを考えてみるけど、そんな願望が聞き届けられるわけもない。
淡々と進んでいく日常の中で、それでも1つ、私にとって嬉しいと思えるようなこともあったんだ。
それは、トモミンと山田が正式に付き合い始めたこと。
テストが終わった後、疲れた体に鞭打って帰路につこうとしてた私と花楓を、トモミンが呼び止めたんだっけ。
何事かと思って、ふと隣に目をやった時に見た、花楓のニヤケ顔が忘れられない。
人の居ない教室で、緊張した様子の2人から報告を受けた時は、素直に嬉しかったな。
相変わらず不器用な山田と、ちょっとだけ臆病なトモミンだけど、きっと仲良くやっていくはず。
もしかして、自分の子供から結婚の報告を受けた時の親の心境って、こんな感じなのかな?
なんて、くだらないことを考えつつ、その日は4人でご飯を食べに行った。
ある意味、こっちの方が正式な文化祭の打ち上げだったのかもしれないね。
そんなこんなで、冬休み前最後の登校日を迎えたワケだけど、今日は流石に4人で集まることは出来なさそう。
だって、今日は12月24日だからね。
流石の私も、そんな日に2人の邪魔をするほど野暮じゃない。
まぁ、花楓がどうなのかは分からないけどね。
「ワタシが野暮な女だって言いたいの!? スーミィは分かって無いなぁ、ワタシはとっても繊細な乙女なんだよ?」
「それを自分で言える時点で、繊細って言うよりは図太いよね」
「逞しいと言いなさい!」
「いや、否定しないんだ?」
なぜか胸を張って見せる花楓に呆れながら、私は目の前のオレンジジュースを口に運んだ。
それにしても、クリスマスイブのファミレスは、それなりに混み合ってるみたいだね。
まぁ、外はすっかり日も暮れ始めてて、寒くなってるから、気軽に入れる店ってのは混みあっても仕方がないけど。
こうして、パフェ1つとジュースだけで居座ってる私達みたいな客は、多分迷惑なんだろうなぁ。
「大丈夫! そんなこともあろうかと思って、パスタを頼んでおいたから!」
「え? いつの間に? って言うか、食べて帰っても大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、スーミィもせっかくだから、夕ご飯食べて帰りなよ」
「ん~。そうだね。私も何か食べようかな」
花楓に促されるままに、私はメニューを開いた。
お腹が空いて動けない、って程でもないから、適当に良さそうなものを頼もう。
そう思った私の鼻を、とてもまろやかな香りが捉える。
凄く美味しそうなその香りに、視線を向けると、隣の席のお客さんがグラタンを注文してたみたい。
なぜだか無性にグラタンが食べたくなってきた私は、すぐにメニューを閉じて呼び出しボタンを押す。
「グラタン、美味しそうだねぇ。ワタシも頼んじゃおうかな」
「パスタも頼んだんでしょ? 食べきれるの?」
「わかんない、無理かも」
「じゃあやめときなって。私の、ちょっと食べて良いから」
「ホント!? それじゃあ、ワタシのパスタもお裾分けしちゃおうかな!」
満面の笑みを浮かべながら、パフェの最後の一口を頬張る花楓。
それにしても、パフェを食べた後にパスタとグラタンを食べるって、お腹がびっくりしそうだよね。
なんてことを考えながら、なんとなく窓の外に目を向けた時、ファミレスの前の道を、見知った男子が横切って行った。
「あ、大塚先輩」
「ん? あ、ホントだ……」
名残惜しそうにパフェのスプーンを咥えてる花楓が、目線を彼に向ける。
対する大塚先輩はと言うと、私達に気づく様子もないまま、そそくさと歩いて行ってしまった。
そんな彼の様子に、私は少しだけ興味を引かれてしまう。
「なになに~? 何を気にしてるのかな~?」
「何って、分かってるくせに」
悪戯っぽく笑う花楓にそう返しながら、私は今しがた見た大塚先輩の後姿を思い出した。
丈の長いコートに身を包み、マフラーと手袋までしている彼は、何やら袋を手に提げてた。
様子から察するに、一度家に帰った後、着替えてから出て来たって感じ。
それも、どこか少しだけ急いでるように見えた。
「もう日が暮れそうなのに、どこに行くんだろうね?」
「う~ん……そうだね、もしかしたら、デートかもしれないよ?」
「しれないよ、って。分かってるんじゃないの?」
「まぁね。でも、流石にプライベートなことだから、私が勝手にスーミィに教えることはダメかなって」
「それもそっか」
今の花楓は、いつもの悪戯っぽい雰囲気じゃなくて、少しだけ切なそうに見える。
もしかしたら、何か思う所でもあるのかもしれない。
出来るなら、何を思ってるのか、その一端だけでも話して欲しいな。
なんてことを考えていると、仕方がないとばかりに花楓は口を開いた。
「ねぇ、スーミィ。大塚先輩のこと、どういう人だって考えてる?」
「ん? そうだなぁ、なんか、すごく出来る男って感じ。追っかけもいるってことは、本当に何でもできる人なんじゃないかな? それに、頭も良い。かな」
「スーミィって、人を褒めることあるんだね……」
「ちょっと? バカにしてる?」
「えへへ、冗談だって。それに、スーミィの見立ては大体合ってると思う。だけど……」
そこで言葉を切った花楓は、今一度窓の外を見つめながら呟いた。
「……彼は、良い人すぎるんだよ」
「良い人?」
私の短い問いに、彼女は答えない。
そうこうしていると、注文してたパスタとグラタンが届いた。
冷める前に食べちゃおう。
そんな花楓の言葉に促されるように、私達は夕食にありついたのだった。




