第41話 小綺麗な表情
山田の告白のおかげで、トモミンを見つけることが出来た。
それはすごく嬉しいことだし、もっと喜びたいところだけど、それは後日にした方が良いよね?
なんて言ったって、トモミンは5日もの間、行方を眩ませてたんだから、当然、沢山の人に心配をかけてることになる。
私達だけが独り占めしていいはずがないワケで、山田の告白を聞きつけた先生に見つかった彼女は、そのまま職員室に連れて行かれる。
まぁ、疲れてるみたいだったし、今は何よりもまず家に帰って、ゆっくりと休んでもらおう。
「また来週、学校でね」
そんな短い別れの挨拶をした私は、先生について行くトモミンと山田を見送った後、スマホに目を落とした。
『今から行く』
短いメッセージが表示されてる。
そんなチャットの画面を見ながら、私は1つ深呼吸をした。
まだ、全部終わったわけじゃない。
トモミンは見つかったけど、私と花楓の関係は微妙なままだ。
山田も言ってたけど、ちゃんと仲直りしておいた方が良いと私も思うしね。
そんなことを考えながら、教室で一人花楓を待つこと20分。
流石に遅いなと思い始めてた頃、ようやく彼女が教室に姿を現した。
「ゴメン……遅くなった」
「ホントに遅かったね、寄り道でもしてたの?」
少しだけ息を荒げてる花楓にそう言ってみるけど、なんとなく彼女が遅れた理由は分かってる。
多分、状況を把握するために、関係してそうな人の心でも読んで回ってたんじゃないかな?
「スーミィは何でもお見通しなんだね」
「花楓がそれを言う?」
「それもそっか」
自虐するように小さく笑った花楓は、自分の席に座った。
そんな彼女を見て、私も自分の席に―――つまり、花楓の隣に腰を下ろす。
「トモミン、見つかってよかった」
「そうだね。正直、山田が居なかったら詰んでたかもしれないよね」
「そうだね。ワタシ、山田君にお礼を言わなくちゃ。それに……スーミィにも」
「お礼は良いから、抹茶オレ、奢ってよ」
「……うん」
「なんて、私の方こそ、花楓に言わなくちゃいけないことがあるんだよね」
きっと、花楓はもう、私が言おうとしてることを全部理解してるはず。
『だったら、言わなくてもいいんじゃないかな』なんて考えが、沸々と湧き上がって来るけど、それじゃきっと、元通りになるだけなんだ。
花楓とトモミンと私と、時々山田。
ぎこちなく笑い合って、楽しかった日々に、戻るだけなんだ。
私は嫌な女で、面倒な女で、傲慢な女だから。
それだけじゃ物足りなくなっちゃってる。
花楓のことを怖いって思ったくせに、仲良くありたいとも思ってる。
こんなことを考えているにも関わらず、花楓に記憶を消されていないことを免罪符にして、自分の要望を突き付けようとするのは、やっぱり最悪だよね?
だけど、これら全部の感情は、紛れもなく私の感情であって、それを抱いてしまった事実を否定することは、どこの誰にもできやしない。
たとえ、私自身であったとしてもね。
だから私は、ずうずうしく生きることにしたんだ。
「花楓、ごめん。私、アンタのコト怖いって思っちゃった」
「……うん」
「だってさ、傍にいると自分の感情が引きずり出されちゃうって、考えるだけで怖いと思わない?」
「……そうだね」
「それに、記憶だって消されてる可能性がある訳でしょ? 大塚先輩も言ってたし」
「……っ」
唇をキュッと噛み締め、俯きながら目を閉じる花楓。
そんな彼女を横目で見た私は、花楓の方に向き直って続ける。
「でも、怖いけど、私はアンタと友達でいたいって思ってる。心を読まれても良い。感情を引きずり出されても良い。記憶を消されても……良いとは言えないけど、アンタなら許す。だからさ、私にもアンタのコト、花楓のことを教えてよ」
「……スーミィ」
「私、自分のことしか考えてなかった。感情を引きずり出されたらとか、記憶を消されたらとか、そりゃどっちも怖いけど、一番怖い思いをしてるのは、アンタなんだよね? ずっとずっと、そんな怖い想いを、一人で抱え込んでたんだよね? それはきっと、辛いことだし、苦しいことだと思うから。だから、私にも教えて欲しい。花楓がどんな風に感じてたのか、どうしたかったのか。私は人の心を読んだりできないから、話して欲しい。伝えて欲しい。私も受け止める努力をするから。そうやって、花楓の見てる世界を、少しだけで良いから見せて欲しい」
溢れ出しそうな何かを堪えながら、一気に言葉を並べた私は、少しだけ息苦しさを感じた。
教室に沈黙が充満する。
何か伝え忘れたことがあったかな? それとも、言い方が悪かったかな?
そんな疑問が込み上げてくるたびに、胸がギュッと締め付けられる。
それからしばらく沈黙が続いた後、俯いたままだった花楓がゆっくりと顔をあげて、こちらを見上げてきた。
何かが吹っ切れたような小さな笑みを浮かべた彼女は、その澄んだ瞳で、私のことを見透かした。
「ありがとう、スーミィ。私、スーミィのおかげで元気出たよ」
小さな笑みを浮かべながら言う彼女を見て、私は思わず反論してしまう。
「嘘つき」
「え? 何を言って……ちょ、っと、スーミィぃ……」
そんな誤魔化しが効くとでも思ってたのかな?
一瞬、とぼけたような表情を浮かべた花楓は、その顔をくしゃくしゃに歪ませたかと思うと、両手で覆い隠してしまう。
人の本音が、本心が。
そんな小綺麗な表情な訳ないでしょ?
どこの誰よりも、アンタがそれを一番知ってるはずだから。
だからこそ、隠そうとするんだよね?
俯いたまま嗚咽を漏らし始めた花楓に椅子を近づけた私は、そっと彼女の頭を胸に抱き寄せた。
今はきっと、これで良い。
彼女が自分で隠せなくなったんなら、私が隠してあげればいいんだ。
誰も居ない教室に、眩しい夕日が差し込んでくる。
そうして出来た長い影が、私の膝に頭を埋める花楓を包み込んでくれた。
そんな気がした。




