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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第4章 マリアベール

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第39話 見たいもの

「つまり、さっきの先輩せんぱいたちにおどされて、みなみは自分から姿を消したってことか?」

「まぁ、簡単かんたんに言えばそうかもしれないって話」

 一旦いったん教室きょうしつに戻って来た私と山田やまだは、2人で頭をかかえていた。


 大塚おおつか先輩せんぱいに追っかけが居たとして、トモミンが目を付けられた理由りゆうを考えようと思えば、いくつか心当たりはある気がする。

 言うまでもなく、あの日、ナンパされた時の事。

 具体的ぐたいてきに言えば、その後に行ったカフェでの出来事なんじゃないかな?


 結果だけを見れば私と花楓かえでとトモミンは、大塚おおつか先輩せんぱいからおごってもらったことになってたし。

 それを遠目とおめで見られてた可能性かのうせいはあるよね?

 だとしたら、大塚先輩の追っかけが嫉妬してもおかしくない気がする。


 1つだけ疑問ぎもんがあるとすれば、花楓かえでがそんな追っかけの存在に気づかなかったのかってことだけど、あの時の彼女には余裕よゆうが無さそうだったのも事実だよね。


 だとするなら、どうしてトモミンがねらわれたのか。

 まぁ、そんなことは考えなくても分かる。

 花楓かえでと私とトモミンなら、手始てはじめに一番いちばんねらいやすいのはトモミンだ。

 あの先輩せんぱい達は佐藤さとう面識めんしきがあったみたいだし、私達について何らかの情報じょうほうを持っててもおかしくはなさそうだよね。


「くそ……いっそのこと、さっきの先輩せんぱいたちめに行くか?」

「それは意味いみないと思うよ。多分、あの先輩せんぱいたちが何かしてたとしても、文句もんくを言うとか、警告けいこくするとか、それくらいだと思うから」


 まぁ、その警告けいこくが、追っかけの先輩せんぱいたちの想定そうてい以上にいたってことなんだろうけど。

 そこまで考えたところで、私は大きな違和感いわかんに気が付いた。


「あれ? トモミンって、いつから行方が分からなくなってるんだっけ?」

「は? 何言ってんだ?」

「いや、ごめん、何でもない」

 思わずれ出た声をごまかしながら、私は思考しこうめぐらせる。


 カフェからの帰り道、電車でんしゃを降りて解散かいさんした後から、トモミンは行方ゆくえれずになった。

 今の今まで、私はそう思ってた。

 って言うか、まだその可能性かのうせいが消えたわけじゃない。


 先輩たちにおどされて、自分はいない方が良いんだと自罰的じばつてきになったトモミンが、そのまま電車でどこかの街に姿を消した可能性かのうせいもある。

 でも、トモミンがそんなことするかな?

 私が持ってるイメージだと、そうやってなやむとき、トモミンは自分の部屋へやに閉じこもってしまいそうな気がする。

 でも、トモミンのご両親りょうしんは学校に『家に帰って無い』って報告してた。


 なんか、矛盾むじゅんするよね。

 きっと、この矛盾むじゅんこそが、花楓かえでの力による弊害へいがいなんだろう。

 そう思ってた私は、今しがた大きな違和感いわかんを覚えたんだ。


 トモミンが姿を消したのは、どのタイミングなのかな?


 先輩せんぱいたちにおどされた後?

 もしそうだとしたら、おどしを受けたトモミンとその周囲しゅういに対して、花楓かえで幻覚げんかくを見せはじめたことになる。

 つまり、花楓かえでがトモミンと一緒におどしの現場げんばにいたことになる。


 それはどうもに落ちないよね。


 花楓かえでがトモミンのそばにいたんだとしたら、先輩せんぱいたちはきっと、おどしなんて仕掛けなかったはず。

 花楓かえで先輩せんぱいたちに気づいてたんだとしたら、ワザとそばにいる姿を見せて、近づかせない方が良いはずだし。

 それになにより……。


「あの時初めて気づいたみたいな、そんな感じだったし」

「おい大心池おごろち。どうしたんだ?」

 私は、トモミンが教室きょうしつに現れなかった朝のことを思い出しながら、つぶやいた。

 当然、山田やまだ困惑こんわくしてるけど、今はそれどころじゃない。

 気づいてなかった違和感いわかんに気が付いた途端とたん、私はあの日(あわ)てて教室をけ出して行った花楓かえで真意しんいに、1歩だけ近づけた気がした。


 もし仮に、トモミンが姿すがたを消したのが先輩せんぱい達からおどされた直後ちょくごじゃなかったとしたら?


 可能性かのうせいがあるのは、次にトモミンと花楓かえで対面たいめんするときに違いない。

 つまりあの日、トモミンが教室きょうしつに現れなかったあの時。

 彼女は私達の視界しかいから消えてしまったのかもしれない。


 それが本当なら、花楓かえであさ教室(きょうしつ)にやって来たトモミンを、みんな意識いしきから消してしまったことになる。

 本当にそうなのかな? こうは考えられないかな?


 花楓かえでは人のこころを読んでしまう時に、その人物じんぶつむねの内にかくしてる感情かんじょうを引っ張り出してしまう。

 そしてトモミンは、先輩せんぱいたちからのおどしを受けた影響えいきょうで、胸の内に自罰的じばつてき感情かんじょうを―――消えてしまいたいって感情かんじょうを、いだいてた。

 その2人が相対あいたいした時、何らかのきっかけでトモミンの感情かんじょうが引っ張り出されて、トモミンは周囲しゅういの人間から認識にんしきされなくなった。


 祇園寺ぎおんじとうしずめた時、花楓かえで天使てんし姿すがたり立ってきた。

 その時の事をからかったら、彼女はこう言ってたはず。

『あの天使てんし祇園寺ぎおんじ君のイメージに引きずられただけだから!!』

 つまり、花楓かえでの力はきっと、周囲しゅういの人に影響えいきょうを与えるだけじゃない。

 たぶん、彼女自身も、周囲しゅうい影響えいきょうを強く受けやすいんじゃないかな。


 スマホに残されてる花楓かえでとのやり取りを見返しながら、私は深いため息をく。

 花楓かえではよくチャットを使ってた。それに、電話でんわも好きみたいだった。

 私としては正直しょうじき、チャットも電話でんわ面倒めんどうに感じる部分がある。

 だから、直接ちょくせつ話せるならその方が良いジャン。なんて思ってた。


 だけど、きっと、花楓かえでにとってはそうじゃなかったんじゃないかな?


 めんと向かって話をして、相手あいてこころを読んでしまうよりも。

 電話でんわとチャットっていう、相手あいてこころが見えない状態での対話たいわを、彼女はこのんでたんじゃないかな?


 どんな時も元気げんきにふるまう彼女の様子から、気づけなかった。

 まさに私は、自分の見たい物を見てたってことなんだろうな。


 あらためて、花楓かえでに対して謝罪しゃざいをしようと思った私は、今目の前にある問題に意識いしきを戻す。


 ここまでの仮定かていが正しいとするなら、いま現在げんざい、トモミンが姿すがたを消してしまってるのは、彼女かのじょ自身じしんが持つ『消えたい』ってたぐい感情かんじょう原因げんいんだよね?

 だとしたら、その感情かんじょうち消せるだけの感情かんじょうを引っ張り出してあげれば、元に戻るんじゃないかな?


 つまり、『一緒いっしょに居たい』とか、『見つけて欲しい』とか、そんな感情を引きずり出せればいい。

 でも、トモミンがそう思う相手あいてなんて……。


 そう思った私は、ふと、目の前の机にこしを下ろしてる山田やまだを見上げる。

「あ……」

「ん? どうした? 何か気づいたのか?」


 小さな声をらした私に何らかの希望きぼうを見出したのか、食い気味ぎみいかけて来る山田やまだ

 そんな彼を見て、私はつぶやいたのだった。

「なんだ、目の前にるジャン」

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