第39話 見たいもの
「つまり、さっきの先輩たちに脅されて、南は自分から姿を消したってことか?」
「まぁ、簡単に言えばそうかもしれないって話」
一旦教室に戻って来た私と山田は、2人で頭を抱えていた。
大塚先輩に追っかけが居たとして、トモミンが目を付けられた理由を考えようと思えば、幾つか心当たりはある気がする。
言うまでもなく、あの日、ナンパされた時の事。
具体的に言えば、その後に行ったカフェでの出来事なんじゃないかな?
結果だけを見れば私と花楓とトモミンは、大塚先輩から奢ってもらったことになってたし。
それを遠目で見られてた可能性はあるよね?
だとしたら、大塚先輩の追っかけが嫉妬してもおかしくない気がする。
1つだけ疑問があるとすれば、花楓がそんな追っかけの存在に気づかなかったのかってことだけど、あの時の彼女には余裕が無さそうだったのも事実だよね。
だとするなら、どうしてトモミンが狙われたのか。
まぁ、そんなことは考えなくても分かる。
花楓と私とトモミンなら、手始めに一番狙いやすいのはトモミンだ。
あの先輩達は佐藤と面識があったみたいだし、私達について何らかの情報を持っててもおかしくはなさそうだよね。
「くそ……いっそのこと、さっきの先輩達を問い詰めに行くか?」
「それは意味ないと思うよ。多分、あの先輩たちが何かしてたとしても、文句を言うとか、警告するとか、それくらいだと思うから」
まぁ、その警告が、追っかけの先輩たちの想定以上に効いたってことなんだろうけど。
そこまで考えたところで、私は大きな違和感に気が付いた。
「あれ? トモミンって、いつから行方が分からなくなってるんだっけ?」
「は? 何言ってんだ?」
「いや、ごめん、何でもない」
思わず漏れ出た声をごまかしながら、私は思考を巡らせる。
カフェからの帰り道、電車を降りて解散した後から、トモミンは行方知れずになった。
今の今まで、私はそう思ってた。
って言うか、まだその可能性が消えたわけじゃない。
先輩たちに脅されて、自分はいない方が良いんだと自罰的になったトモミンが、そのまま電車でどこかの街に姿を消した可能性もある。
でも、トモミンがそんなことするかな?
私が持ってるイメージだと、そうやって悩むとき、トモミンは自分の部屋に閉じこもってしまいそうな気がする。
でも、トモミンのご両親は学校に『家に帰って無い』って報告してた。
なんか、矛盾するよね。
きっと、この矛盾こそが、花楓の力による弊害なんだろう。
そう思ってた私は、今しがた大きな違和感を覚えたんだ。
トモミンが姿を消したのは、どのタイミングなのかな?
先輩たちに脅された後?
もしそうだとしたら、脅しを受けたトモミンとその周囲に対して、花楓が幻覚を見せ始めたことになる。
つまり、花楓がトモミンと一緒に脅しの現場にいたことになる。
それはどうも腑に落ちないよね。
花楓がトモミンの傍にいたんだとしたら、先輩たちはきっと、脅しなんて仕掛けなかったはず。
花楓が先輩たちに気づいてたんだとしたら、ワザと傍にいる姿を見せて、近づかせない方が良いはずだし。
それになにより……。
「あの時初めて気づいたみたいな、そんな感じだったし」
「おい大心池。どうしたんだ?」
私は、トモミンが教室に現れなかった朝のことを思い出しながら、呟いた。
当然、山田は困惑してるけど、今はそれどころじゃない。
気づいてなかった違和感に気が付いた途端、私はあの日慌てて教室を駆け出して行った花楓の真意に、1歩だけ近づけた気がした。
もし仮に、トモミンが姿を消したのが先輩達から脅された直後じゃなかったとしたら?
可能性があるのは、次にトモミンと花楓が対面するときに違いない。
つまりあの日、トモミンが教室に現れなかったあの時。
彼女は私達の視界から消えてしまったのかもしれない。
それが本当なら、花楓は朝教室にやって来たトモミンを、皆の意識から消してしまったことになる。
本当にそうなのかな? こうは考えられないかな?
花楓は人の心を読んでしまう時に、その人物が胸の内に隠してる感情を引っ張り出してしまう。
そしてトモミンは、先輩たちからの脅しを受けた影響で、胸の内に自罰的な感情を―――消えてしまいたいって感情を、抱いてた。
その2人が相対した時、何らかのきっかけでトモミンの感情が引っ張り出されて、トモミンは周囲の人間から認識されなくなった。
祇園寺の塔を鎮めた時、花楓は天使の姿で降り立ってきた。
その時の事をからかったら、彼女はこう言ってたはず。
『あの天使は祇園寺君のイメージに引きずられただけだから!!』
つまり、花楓の力はきっと、周囲の人に影響を与えるだけじゃない。
たぶん、彼女自身も、周囲の影響を強く受けやすいんじゃないかな。
スマホに残されてる花楓とのやり取りを見返しながら、私は深いため息を吐く。
花楓はよくチャットを使ってた。それに、電話も好きみたいだった。
私としては正直、チャットも電話も面倒に感じる部分がある。
だから、直接話せるならその方が良いジャン。なんて思ってた。
だけど、きっと、花楓にとってはそうじゃなかったんじゃないかな?
面と向かって話をして、相手の心を読んでしまうよりも。
電話とチャットっていう、相手の心が見えない状態での対話を、彼女は好んでたんじゃないかな?
どんな時も元気にふるまう彼女の様子から、気づけなかった。
まさに私は、自分の見たい物を見てたってことなんだろうな。
改めて、花楓に対して謝罪をしようと思った私は、今目の前にある問題に意識を戻す。
ここまでの仮定が正しいとするなら、今現在、トモミンが姿を消してしまってるのは、彼女自身が持つ『消えたい』って類の感情が原因だよね?
だとしたら、その感情を打ち消せるだけの感情を引っ張り出してあげれば、元に戻るんじゃないかな?
つまり、『一緒に居たい』とか、『見つけて欲しい』とか、そんな感情を引きずり出せればいい。
でも、トモミンがそう思う相手なんて……。
そう思った私は、ふと、目の前の机に腰を下ろしてる山田を見上げる。
「あ……」
「ん? どうした? 何か気づいたのか?」
小さな声を漏らした私に何らかの希望を見出したのか、食い気味に問いかけて来る山田。
そんな彼を見て、私は呟いたのだった。
「なんだ、目の前に居るジャン」




