第37話 小さなギャップ
登校拒否宣言の後、花楓は本当に学校に来なくなった。
同じく、トモミンも依然行方不明のまま、必然的に1年2組の教室には2つの空白が生まれる。
それがまるで、私への当てつけのように感じられるのは、考えすぎかな?
そんなことを考えながら、私は放課後に入ったばかりの教室で、一人の男子を見ていた。
急ぎ足で歩くその男子は、山田。
今週の火曜日に智美が姿を消した翌日から、彼は今日まで3日間、時間を見つけてはトモミンを探すために様々な場所に足を向けているみたい。
昨日に関しては、午後から急に早退してまで、探しに出てたらしい。
流石にそれは親に怒られたのかな、今日は律儀に授業を受けてたけど、正直、授業に身が入ってるようには見えなかった。
多分、花楓も今頃同じようにトモミンを探してるんだろうな。
正直に言えば、花楓が探すなら、そこまで時間は掛からないと思ってたけど、そう簡単な状況じゃないみたいだね。
願わくば、早く見つかって欲しい。
そう思いつつ、私は今のこの状況に少しだけ満足感を覚えてた。
ホント、友達が危険な目に合ってるってのに、嫌な女だよね。
花楓が一人で解決してしまうことは、トモミンが危険な目に合うコト以上に、気に喰わないと思ってしまってる。
そう言う私も、今日まで何もしなかった訳じゃないよ。
トモミンと一緒に歩いた道を何度も往復してみたり、ネット上で何か情報が無いか調べて見たり、自分に出来そうなことは全部やってみた。
だけど、私にできる事なんてたかが知れてて、殆ど何もできなかったと言ってもいい。
やっぱり、彼女の力が無いと、ダメなのかな?
ここまで時間が掛かってることと、花楓が単独で動いてる事実から、まず間違いなく、トモミンが行方不明になったことに、例の件が絡んでるはず。
南智美の感情。
それを知って初めて、私達は彼女を見つけることができるんじゃないかな?
トモミンを見つけ出す方法を考える中で、そんな考えに至った結果、私はとても重大なことに気が付いた。
トモミンのこと、私はどれだけ知ってるんだろう?
文化祭の買い出し班として一緒に行動するようになって、少しだけ仲良くなった気でいたけど、私は彼女が何を考えてるのか、全然知らない。
ううん。違う。
知らないんじゃなくて、知ろうとしてなかった。
ただ一緒に居て、心地よければそれで良いって、そんな風に考えてたのかもしれない。
最低だよね。
だけど、更に最低なことに、私は傲慢にもこう思ったんだ。
今更だけど、トモミンのことを知りたいって。
こんなことを考えてるって知ったら、花楓はどう思うのかな?
いいや、今は花楓のことを考えるのはやめておこう。
そう決意した私は、今まさに教室から出て行った山田の背中を見て、席を立つ。
そして、鞄を手にして、出て行った彼を追いかけた。
「山田」
そう呼び掛けると、山田は一瞬だけ私を振り返って、そのまま歩き去ろうとする。
そんな彼の右手を強く握って、私は強引に引き留めた。
「なんだよ」
「待って、山田。少しだけ話がしたいんだけど」
「悪いけど、そんな時間は無い」
「トモミンを探しに行くんでしょ? 知ってる。だけど、今のやり方じゃ見つからないと思う」
「は? なんだよそれ」
今のまま、がむしゃらに探しても、トモミンを見つけることはできない。
だからこそ、まず私達は、トモミンのことを知らなくちゃダメなんだ。
そして、山田はきっと、私の知らない彼女のことを知ってるはず。
少なくとも、彼にとってトモミンは、きっと、ただの友達じゃないんだから。
「お願い。少しだけ協力して。私も、アンタに協力するから」
「だったら止めるなよ」
よっぽど焦りを感じてるのか、山田は私の手を振りほどいてでも先に進みたそうだ。
だけど、私も簡単に引き下がる訳にはいかない。
今ここで私の腕の骨が折れたとしても、トモミンを探してる人たちの努力が無駄骨になっちゃうようなことは、絶対に避けなくちゃいけないからね。
そんな決死の覚悟で、私は山田の手を掴み、彼の瞳をしばらく見つめた。
すると、どこか居心地の悪そうな表情を浮かべながら、山田は口を開く。
「なんなんだよ、一体」
「話がしたいの。トモミンのこと。山田が知ってることを教えて欲しい」
「知ってること? 行きそうな所とかか? だったらもう、俺が何度も見て回ったよ」
「そう? 具体的にどこに行った?」
そう問いかけると、山田は憮然とした面持ちで施設などの名前を挙げていく。
駅前の本屋とか、画材などの雑貨店、質素なカフェに、学校の教室名まで。
自分と幅広く調べてたみたいだね。
だけど、多分この情報じゃトモミンは見つからない気がする。
だって、花楓は間違いなく、全部調べてるはずだから。
もっと、こう、花楓も誰も知らないような情報……。
って、そんなもの、私と山田が知ってるワケもないよね。
他に考えられることがあるとしたら?
外的要因とかかな?
例えば、トモミンの交友関係。
「山田はさ、トモミンの友達って、誰がいるか知ってる?」
「行った場所の話は終わりかよ……友達って、お前と黒光じゃないのか?」
「他には?」
「いや、他に誰かと話してるところは見たことない……って言うか、文化祭前まで、関わりが無かったから、知らない」
「……」
ダメだ、山田も案外トモミンのことを知らないみたい。
「おい、なんだよその目」
「ううん、別に」
「絶対何かあるだろ!?」
「無いって。それじゃあ、トモミンのことを嫌ってそうな人とかは?」
「は? そんな奴いるのか?」
「それを知らないから聞いてるんだけど」
「いないんじゃないか?」
「そっか」
誰にも嫌われない人って、存在するんだね。
私は絶対に、大勢に嫌われてる自信があるけど。
ま、私と比較するのはまた違う話かな。
となれば、まだ手がかりが無いままだけど。
他に聞けることって何かあるかな?
私がそんなことを考えてると、ふと思い出したように山田が告げる。
「そう言えば」
「何!?」
「食いつき良すぎだろ。いや、話は変わるんだけど、お前ら、ちゃんと仲直りしとけよ?」
「は? それはどういう?」
「いや、お前と黒光のことだよ。絶賛喧嘩中なんだろ? それ、早く解消しとけって言ってんの」
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないわけ?」
「いや、別に俺はどうでも良いんだけどさ」
そこで気まずそうに言葉を切った山田は、右の頬をポリポリと掻きながら、ボソッと零した。
「南が、悲しむかなって。それだけだ」
「……え?」
「いやいや。なに呆けてんだよ。お前も知ってるだろ? 南はそう言うの、気にするタイプだ」
「それはそうかもだけど」
「前に言ってたぞ。3人で居るのは本当に楽しいって。今の関係は、奇跡みたいだって。めっちゃいい笑顔で、話してた」
少しだけ気恥ずかしそうにしてる山田は、だからと前置きをして、言葉を付け足す。
「そんな関係が、自分のせいで壊れたって、南に思わせないでやってくれよ」
「ちょっと待って、別にそんなんじゃ」
「お前らがどう思おうと、南は多分、そう思うぞ。だってあいつは、異常なまでに自罰的な考え方してるからな」
異常なまでに自罰的?
トモミンはそんなに自罰的だったっけ?
確かに、引っ込み思案な所があるとは思うけど、自罰的って程のものかな?
急に考え込み始めた私を見て、戸惑いを見せる山田。
そんな彼を見ながら考えを巡らせていた私は、小さなギャップに気が付いた。
私と、山田の間にある、ギャップ。
それに気が付くと同時に、私はつい先日耳にした言葉を思い出したのだった。
『人ってさ、自分の見たいものを見る癖があると思わないかい?』




