第36話 登校拒否宣言
「大塚昭人と言います。田中先生、いつも息子がお世話になっています」
「あ、いえ、私の方こそ、大塚君にはいつも助けてもらってる方ですので」
大人たちの形式的な挨拶が進み、ようやっと部屋の中に静寂が訪れる。
そうなるまでの数十秒間、私はずっと花楓を見つめていた。
大塚刑事の隣に、チョコンと腰かけている彼女は、一向に私と視線を合わせようとしない。
きっと、拗ねてるんだ。
まぁ、拗ねる理由を作ってしまったのは私だから、文句は言えないけどね。
いくら心の中で謝罪し続けてるって言っても、それじゃあ筋は通せてないだろうし。
やっぱり、すぐにでも話しかけたい。
とはいえ、私は花楓に声を掛けることができないでいた。
それはもちろん、皆の居る場所で出来る話じゃないってこともあるよ。
だけどそれ以上に、私の胸の内には大きな躊躇いがあった。
ここまで考えてることを全部理解してるんだから、花楓の方から声を掛けてくれても良いんじゃないの?
そんな、傲慢な考え。
それすらも彼女に知られてしまってるんだと思うと、無性に顔が熱くなる。
本当に、私って嫌な女だな。
まぁ、こんなことをずっと考えてても仕方がないから、私は今するべきことに意識を集中することにした。
「あの、大塚刑事さん。南さんはまだ見つかって無いのでしょうか?」
「残念だけど、まだ見つかってはいない。色々と情報だけは集まっているんですが。っと、そうだ。その情報を提供してくれるって話だと伺って来たのですが」
そう言った大塚刑事は、私達の中で唯一の大人である田中先生に目を向けた。
「はい。情報と言うのは昨日のコトでして。実は、彼女……大心池さんが、昨日の夕方まで南さんと一緒に居たと言うのです」
「なるほど。大心池さん。その話をもう少し詳しく教えてもらっても良いかな?」
「はい」
促された私は、大塚刑事に手短に説明した。
多分、大塚刑事は花楓から既に情報を貰ってるはず。
そうじゃないと、花楓がここに来た理由が良く分からないし。
もしかしたら、大塚刑事も花楓のヒミツを知ってるのかな?
親子両方に知られてるとしたら、よっぽどの関係な気がするけど。
流石にそれは無いか?
説明を終えて、そんなことを考えていた私は、不意を突くように花楓に視線を投げてみた。
だけどやっぱり、視線を交わすことはできない。
まぁ、花楓の不意を突くなんて、無理なワケだけどね。
「昨日そんなことが……それで大塚先輩が関係者ってワケか」
一番端に座ってる山田がボソボソと呟いてる。
彼からすれば、トモミンと大塚先輩の間に何らかの関係があるのかと、気に病んでたのかもしれないね。
そんなこんなで、話を終えた私達に、大塚刑事は礼を述べた。
警察としては、全力を尽くしてトモミンを探すとの意思表明らしい。
それは暗に、捜索は警察に任せて欲しいって言っているようなもので、私達はあっけなく追い返されてしまう。
警察署から出て、田中先生の車に向かう途中。
流れで私達と一緒に追い出された花楓を振り返った私は、その場で足を止める。
車に乗ってしまえば、先生に家まで送り届けられてしまう。
そうなったら、今日は花楓と話ができない。
だから、話をするなら車に乗る前に、2人きりで話をしなくちゃだ。
だけど、私の魂胆を理解してる花楓が足を止めるわけがない。
こうなったら、強硬策に出るしかないよね。
「花楓、ちょっと2人で話がしたいんだけど」
「嫌っ!」
「ちょっと、花楓!!」
「おい、どうしたんだよ」
謝りたいだけなのに、どうして逃げるわけ?
声を掛けても必死に逃げ出そうとする花楓に私が困惑していると、山田が間に割って入って来た。
私達の顔を見比べる彼の表情には、驚きが垣間見える。
そんな山田の陰に隠れるようにして、顔を背ける花楓。
なんか、だんだん腹が立ってきたんだけど。
まずはしっかり落ち着こう。
そう思って、1人で深呼吸をしたとき、揉めてる私達に気が付いたのか、田中先生が歩み寄ってきた。
「どうかした?」
「いえ、大したことじゃないです。ちょっと、黒光さんと2人で話がしたかったので」
「……大したことないなら、しなくていいジャン」
「は? そういう意味じゃないんだけど?」
「ちょ、ちょっと落ち着けって、お前ら、ホントにどうしたんだよ。何があったんだ?」
困惑の色をさらに深めた山田が、私と花楓を交互に見比べる。
そんな彼を見て、沸き立ち始めてた感情がゆっくりと穏やかになっていく。
だけど、それは一時的なんだろうと、私は思う。
その証拠に、山田の陰に隠れる花楓の姿を見ていると、少しずつ苛立ちが募って来てるし。
「まぁまぁ、今日はもう陽も暮れてるし、話は明日でも良いね? 大心池さん。黒光さん」
「……はい。分かりました」
田中先生にそう言われたら、従うしかないよね。
本音を言えば今ここで話をしたかったけど、そう言うわけにもいかないみたいだから、私は諦めることにした。
また明日、花楓と個人的に話せばいい。
私がそう思った直後、狙ったように花楓が口を開いた。
「田中先生。ワタシ、しばらくの間休みます」
「は!?」
「え、えっと、黒光さん。それはどういう」
「不登校です! 登校拒否です!!」
そう言った花楓は、唖然とする私に視線を投げることなく、再び警察署の方へと駆け出して行った。
「黒光さん!?」
呼びかけたまま困惑してる田中先生。
そんな先生の隣で、走り去っていく花楓の後姿を見送ってた私に、山田が小さく声を掛けてくる。
「おい、喧嘩でもしたのか?」
「見て分かんない? 今まさに、喧嘩中よ」
「お、おう……なんか、すまん」




