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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第4章 マリアベール

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第36話 登校拒否宣言

大塚おおつか昭人あきとと言います。田中たなか先生、いつも息子むすこがお世話せわになっています」

「あ、いえ、私の方こそ、大塚おおつか君にはいつも助けてもらってる方ですので」


 大人おとなたちの形式的けいしきてき挨拶あいさつが進み、ようやっと部屋の中に静寂せいじゃくおとずれる。

 そうなるまでの数十秒間、私はずっと花楓かえでを見つめていた。


 大塚おおつか刑事けいじとなりに、チョコンとこしかけている彼女は、一向いっこうに私と視線しせんを合わせようとしない。

 きっと、ねてるんだ。

 まぁ、ねる理由りゆうを作ってしまったのは私だから、文句もんくは言えないけどね。

 いくら心の中で謝罪しゃざいし続けてるって言っても、それじゃあすじは通せてないだろうし。

 やっぱり、すぐにでも話しかけたい。


 とはいえ、私は花楓かえでに声を掛けることができないでいた。

 それはもちろん、みんな場所ばしょで出来る話じゃないってこともあるよ。

 だけどそれ以上に、私のむねの内には大きな躊躇ためらいがあった。


 ここまで考えてることを全部理解してるんだから、花楓かえでの方から声を掛けてくれても良いんじゃないの?


 そんな、傲慢ごうまんな考え。

 それすらも彼女に知られてしまってるんだと思うと、無性むしょうに顔があつくなる。

 本当に、私っていやな女だな。

 まぁ、こんなことをずっと考えてても仕方がないから、私は今するべきことに意識いしき集中しゅうちゅうすることにした。


「あの、大塚おおつか刑事けいじさん。みなみさんはまだ見つかって無いのでしょうか?」

残念ざんねんだけど、まだ見つかってはいない。色々(いろいろ)情報じょうほうだけは集まっているんですが。っと、そうだ。その情報じょうほう提供ていきょうしてくれるって話だとうかがって来たのですが」


 そう言った大塚おおつか刑事けいじは、私達の中で唯一の大人である田中たなか先生に目を向けた。

「はい。情報じょうほうと言うのは昨日きのうのコトでして。実は、彼女……大心池おごろちさんが、昨日きのう夕方ゆうがたまでみなみさんと一緒いっしょたと言うのです」

「なるほど。大心池おごろちさん。その話をもう少しくわしく教えてもらっても良いかな?」

「はい」


 うながされた私は、大塚おおつか刑事けいじに手短に説明せつめいした。

 多分、大塚おおつか刑事けいじ花楓かえでからすで情報じょうほうもらってるはず。

 そうじゃないと、花楓かえでがここに来た理由が良く分からないし。


 もしかしたら、大塚おおつか刑事けいじ花楓かえでのヒミツを知ってるのかな?

 親子おやこ両方りょうほうに知られてるとしたら、よっぽどの関係な気がするけど。

 流石さすがにそれは無いか?


 説明せつめいを終えて、そんなことを考えていた私は、不意ふいくように花楓かえで視線しせんを投げてみた。

 だけどやっぱり、視線しせんわすことはできない。

 まぁ、花楓かえで不意ふいくなんて、無理なワケだけどね。


「昨日そんなことが……それで大塚おおつか先輩せんぱい関係者かんけいしゃってワケか」

 一番いちばんはしに座ってる山田やまだがボソボソとつぶやいてる。

 彼からすれば、トモミンと大塚おおつか先輩せんぱいあいだに何らかの関係かんけいがあるのかと、気にんでたのかもしれないね。


 そんなこんなで、話を終えた私達に、大塚おおつか刑事けいじれいを述べた。

 警察けいさつとしては、全力をくしてトモミンを探すとの意思いし表明(ひょうめい)らしい。

 それはあんに、捜索そうさく警察けいさつまかせて欲しいって言っているようなもので、私達はあっけなく追い返されてしまう。


 警察署けいさつから出て、田中たなか先生の車に向かう途中。

 流れで私達と一緒に追い出された花楓かえでを振り返った私は、その場で足を止める。

 車に乗ってしまえば、先生に家まで送りとどけられてしまう。

 そうなったら、今日は花楓かえでと話ができない。

 だから、話をするなら車に乗る前に、2人きりで話をしなくちゃだ。


 だけど、私の魂胆こんたんを理解してる花楓かえでが足を止めるわけがない。

 こうなったら、強硬策きょうこうさくに出るしかないよね。


花楓かえで、ちょっと2人で話がしたいんだけど」

いやっ!」

「ちょっと、花楓かえで!!」

「おい、どうしたんだよ」


 あやまりたいだけなのに、どうして逃げるわけ?

 こえけても必死ひっしに逃げ出そうとする花楓かえでに私が困惑こんわくしていると、山田やまだが間にって入って来た。

 私達のかお見比みくらべる彼の表情ひょうじょうには、おどろきが垣間かいま見える。


 そんな山田やまだかげかくれるようにして、顔をそむける花楓かえで

 なんか、だんだんはらが立ってきたんだけど。

 まずはしっかり落ち着こう。

 そう思って、1人で深呼吸しんこきゅうをしたとき、めてる私達に気が付いたのか、田中たなか先生が歩み寄ってきた。


「どうかした?」

「いえ、大したことじゃないです。ちょっと、黒光くろみつさんと2人で話がしたかったので」

「……大したことないなら、しなくていいジャン」

「は? そういう意味じゃないんだけど?」

「ちょ、ちょっと落ち着けって、お前ら、ホントにどうしたんだよ。何があったんだ?」


 困惑こんわくの色をさらにふかめた山田やまだが、私と花楓かえで交互こうご見比みくらべる。

 そんな彼を見て、き立ち始めてた感情かんじょうがゆっくりとおだやかになっていく。

 だけど、それは一時的いちじてきなんだろうと、私は思う。

 その証拠しょうこに、山田やまだかげかくれる花楓かえで姿すがたを見ていると、少しずつ苛立いらだちがつのって来てるし。


「まぁまぁ、今日はもうれてるし、話は明日でも良いね? 大心池おごろちさん。黒光くろみつさん」

「……はい。分かりました」

 田中たなか先生にそう言われたら、したがうしかないよね。

 本音ほんねを言えば今ここで話をしたかったけど、そう言うわけにもいかないみたいだから、私はあきらめることにした。

 また明日、花楓かえで個人的こじんてきに話せばいい。


 私がそう思った直後ちょくごねらったように花楓かえでが口を開いた。

田中たなか先生。ワタシ、しばらくの間休みます」

「は!?」

「え、えっと、黒光くろみつさん。それはどういう」

不登校ふとうこうです! 登校とうこう拒否きょひです!!」


 そう言った花楓かえでは、唖然あぜんとする私に視線しせんを投げることなく、再び警察署けいさつしょの方へとけ出して行った。

黒光くろみつさん!?」

 呼びかけたまま困惑こんわくしてる田中たなか先生。

 そんな先生のとなりで、走り去っていく花楓かえで後姿うしろすがた見送みおくってた私に、山田やまだが小さく声を掛けてくる。


「おい、喧嘩けんかでもしたのか?」

「見て分かんない? 今まさに、喧嘩けんか(ちゅう)よ」

「お、おう……なんか、すまん」

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