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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第4章 マリアベール

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第35話 借りられる手

 大塚おおつか先輩との話を終えた私は、まだ作業があると言う彼を残して生徒会室せいとかいしつを出た。

 色々(いろいろ)と考えたいことはあるけど、今はとにかく、花楓かえでを探そう。

 それに、トモミンのことも気になるし。

 一日のほとんどをボーっとして過ごしたのはかなり勿体もったいないことをしたなぁ。


 朝のホームルーム以降いこう、帰ってくる様子のない花楓かえではどこに行ったのか。

 取りえずチャットをしてみるけど、当然とうぜん返事へんじは無かった。

 同時にトモミンにもチャットしてみたけど、こっちも音沙汰おとさた無し。

 もし体調たいちょうが悪かったりしたら、トモミンの場合は連絡れんらくを入れてくれそうなものだけど。

 もしかしたら、それは私の思い上がりなのかもしれないよね。

 それか、連絡れんらくもできないほど状況じょうきょうなのか……まぁ、これについては今ここで考えても結論けつろんは出ないし、ウジウジ悩むのはまた今度にしよう。


「そうとなれば、家に行ってみるのが早いけど……私、2人の家、知らないんだよなぁ」

 考えれば考える程、2人と友達ともだちなのかうたがってしまう。

 いや、仕方ないよね? まだ話すようになってから日があさいわけだし、世の中の高校生だって、クラスメイトの住所じゅうしょ全員ぜんいん分知ってるワケじゃないでしょ?

 そうだよね?

 それができるとすれば、花楓かえでくらいなんじゃないかな……。


 そこまで考えた私は、ふと気が付いた。

「そっか、また一人で解決しようとしてる可能性かのうせいがあるのか」

 花楓かえで間違まちがいなく、トモミンの家を知ってるはず。

 だとすれば、私に愛想あいそきた彼女が、単独たんどくでトモミンの家に向かったって線が、濃厚のうこうなんじゃない?


「つまり、トモミンを探せば、自然しぜん花楓かえでにも会えるかもしれないってことだよね」

 私が今、やるべきことは分かった。

 だとしたら、後は無心むしん行動こうどうするだけ。

 そう思って職員室しょくいんしつ前にやって来た私は、なんでか自分の心の中の躊躇ためらいに、足を止めてしまう。


 花楓かえでに会った時、私はちゃんと、謝罪しゃざいできるのかな?

 そもそも、そんな疑問ぎもんが頭の中をよぎ時点じてんで、ダメなんじゃないの?


 せめぎ合う躊躇ためらいと不安が、私の身体をゆっくりと硬直こうちょくさせていく。

 こんなことしてる場合じゃないのに。

 そんなことを考えてると、不意ふいに目の前のとびらが開かれた。


「先生!」

「何度も言ってるが、教えるわけにはいかないんだよ……ん? 大心池おごろち? どうした? こんなところで」

 とびらを開けた田中たなか先生と、その後ろにいる山田やまだが、一瞬いっしゅんで私に視線しせんそそいで来る。


 なんで山田やまだ職員室しょくいんしつから出て来たのか、そんな私の疑問ぎもんを、山田やまだ自身が解消かいしょうしてくれた。

「先生、お願いします。みなみさんの住所じゅうしょを教えて下さい。連絡れんらくしても、全然ぜんぜん返事へんじが無いんです! 俺、心配で……」

「だから言ってるだろう? それはできない。それに、後のことは大人に任せなさい」


 うんざりするような表情ひょうじょう山田やまだを振り返りながら告げた田中たなか先生。

 そんな先生の言葉に、私は反応はんのうせざるをなかった。

「大人に任せる? 先生、トモ……みなみさんは風邪かぜで休んだんじゃないんですか?」

「は? ちょ、落ち着いて、な? 2人とも落ち着いて」


 私と山田やまだなだめようとする田中たなか先生は、ジリジリとる私達を前に、大きなため息をいた。

「はぁ……えっと、大心池おごろちさんと山田やまだ君。君達はみなみさんとなかが良かったみたいだから、特別とくべつに話すけど、他の生徒に広めたりはしないように。いいね?」

「はい。分かりました」

 観念かんねんしたように告げる田中たなか先生に、山田やまだ威勢いせいよく返事をした。

 当然、私も異論いろんはないから、うなずいて見せる。


 すると、田中たなか先生は職員室しょくいんしつとびらから少しはなれて、しずかに話し始めた。

「昨日、みなみさんは家に帰らなかったそうだ。その後も、今までずっと行方ゆくえ不明(ふめい)になってる」

「なっ!?」

行方ゆくえ不明(ふめい)!?」

「そうだよ。今朝けさのホームルームの後、確認のために家に電話をしたら、パニックになってるお母さんが出てね、すで捜索そうさくは始まってるけど、まだ見つかっていない」

「マジ……ですか」


 唖然あぜんとする山田やまだを、田中たなか先生は申し訳なさそうに見た後、少しうたがうような視線しせんを私に向けてきた。

 どうして?

 と、一瞬いっしゅん思ったけど、すぐにこころ当たりに思いいたる。


 多分、田中たなか先生は私と花楓かえでがホームルームで見せた様子に違和感いわかんおぼえてるんだ。

 先生も、トモミンが私達と仲良くなってることは知ってたみたいだし。

 そんな先生の視線しせんに、山田やまだが気づかないはずもなく、彼の意識いしきが一気にこちらへ向けられたらしい。


「おい、ちょっと待て。昨日って言えば、お前ら3人で打ち上げしてたんじゃないのか?」

「うん。してた。昨日の夕方までみなみさんと一緒に居たよ」

「それは本当かい?」

「はい。先生、私、みなみさんの捜索そうさく協力きょうりょくしたいです。だから、一緒に警察けいさつに行ってもらってもいいですか? たぶん、私だけで行くよりも意味いみすと思いますので」

「そ、それはかまわないけど」

「俺も行きます!」

「あ、それと、2年生の大塚おおつか先輩せんぱいも連れて行きましょう。丁度ちょうどさっきまで生徒会室せいとかいしつで話してたので。まだ学校内がっこうないに居ると思います」

「え? 大塚おおつか君? どうして彼を?」

「彼も関係者かんけいしゃの1人だからです」

「ちょ、大心池おごろち、それはどういう意味だ?」


 困惑こんわくしてる田中たなか先生と山田やまだなか無視むしした私は、先生に校内こうない放送ほうそうを掛けるようにうながした。

 放送ほうそうで呼ばれた大塚おおつか先輩は、颯爽さっそう職員室しょくいんしつに現れる。

 一瞬いっしゅん、私に目を向けた後、少し困惑こんわくした表情を浮かべたけど、事情じじょうを話したらすぐに納得なっとくしてくれる。

 流石さすがは出来る男だよね。


 むしろ、田中たなか先生と山田やまだの方が、疑問ぎもんれていないような表情をしてたのは、少しおかしな話だ。

 それでも、2人の協力きょうりょくが無ければ、きっとこの事態じたい解決かいけつすることはできないと私は思う。

 だって、私だけじゃ何もできないってことを、私が一番知ってるから。

 言い方は悪いけど、りられる手助けは全部使ってしまおう。


 そんなこんなで、私は大勢おおぜいを巻き込む形でトモミンの捜索そうさくを開始した。

 まず初めに向かったのは、警察署けいさつしょ

 先生が事情を話して、私達は小さな個室こしつに通される。

 ここが、取調室とりしらべしつって呼ばれる場所なのかな?


 そんなことを考えながら、緊張きんちょうのあまり手に汗をにぎっていると、1人の大柄おおがらな男性が、部屋の中に入ってきた。

 その瞬間しゅんかん、私の左隣ひだりどなりに座ってた大塚おおつか先輩せんぱいが、鼻で小さく笑いながらつぶやく。


「やっぱり、父さんが担当たんとうになったんだね」

職場しょくばで父さんと呼ぶな。対応たいおうに困るだろ?」


 そう言いながらとびらを閉めた男性は、ゆっくりと私達を見回して、小さく頭を下げる。

 そうして、自然な流れで挨拶あいさつを始める大塚おおつか先輩のお父さん。

 だけど、私はどうしても彼の挨拶あいさつを聞いている余裕よゆうが無かった。


 どうしてかって?

 それには大きな理由があるんだよね。

 部屋へやに入って来た大塚おおつか先輩のお父さんは、ひだり(わき)に何かを……誰かをかかえてたんだ。


 グデ~ッと項垂うなだれてるその人物は、見慣みなれた制服せいふくていて、必死ひっしかおかくそうとしている。

 どうして顔を隠そうとするんだろう?

 なんて、そんな疑問ぎもんいてこない。

 代わりに湧き上がってくる疑問ぎもんを、私は躊躇ためらうことなく口にする。

花楓かえで? どうしてここにいるの?」


 そんな私の問いかけに、花楓かえでかかえられたまま体をビクッと反応はんのうさせた。

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