第35話 借りられる手
大塚先輩との話を終えた私は、まだ作業があると言う彼を残して生徒会室を出た。
色々と考えたいことはあるけど、今はとにかく、花楓を探そう。
それに、トモミンのことも気になるし。
一日の殆どをボーっとして過ごしたのはかなり勿体ないことをしたなぁ。
朝のホームルーム以降、帰ってくる様子のない花楓はどこに行ったのか。
取り敢えずチャットをしてみるけど、当然返事は無かった。
同時にトモミンにもチャットしてみたけど、こっちも音沙汰無し。
もし体調が悪かったりしたら、トモミンの場合は連絡を入れてくれそうなものだけど。
もしかしたら、それは私の思い上がりなのかもしれないよね。
それか、連絡もできない程の状況なのか……まぁ、これについては今ここで考えても結論は出ないし、ウジウジ悩むのはまた今度にしよう。
「そうとなれば、家に行ってみるのが早いけど……私、2人の家、知らないんだよなぁ」
考えれば考える程、2人と友達なのか疑ってしまう。
いや、仕方ないよね? まだ話すようになってから日が浅いわけだし、世の中の高校生だって、クラスメイトの住所を全員分知ってるワケじゃないでしょ?
そうだよね?
それができるとすれば、花楓くらいなんじゃないかな……。
そこまで考えた私は、ふと気が付いた。
「そっか、また一人で解決しようとしてる可能性があるのか」
花楓は間違いなく、トモミンの家を知ってるはず。
だとすれば、私に愛想尽きた彼女が、単独でトモミンの家に向かったって線が、濃厚なんじゃない?
「つまり、トモミンを探せば、自然と花楓にも会えるかもしれないってことだよね」
私が今、やるべきことは分かった。
だとしたら、後は無心で行動するだけ。
そう思って職員室前にやって来た私は、なんでか自分の心の中の躊躇いに、足を止めてしまう。
花楓に会った時、私はちゃんと、謝罪できるのかな?
そもそも、そんな疑問が頭の中を過る時点で、ダメなんじゃないの?
せめぎ合う躊躇いと不安が、私の身体をゆっくりと硬直させていく。
こんなことしてる場合じゃないのに。
そんなことを考えてると、不意に目の前の扉が開かれた。
「先生!」
「何度も言ってるが、教えるわけにはいかないんだよ……ん? 大心池? どうした? こんなところで」
扉を開けた田中先生と、その後ろにいる山田が、一瞬で私に視線を注いで来る。
なんで山田が職員室から出て来たのか、そんな私の疑問を、山田自身が解消してくれた。
「先生、お願いします。南さんの住所を教えて下さい。連絡しても、全然返事が無いんです! 俺、心配で……」
「だから言ってるだろう? それはできない。それに、後のことは大人に任せなさい」
うんざりするような表情で山田を振り返りながら告げた田中先生。
そんな先生の言葉に、私は反応せざるを得なかった。
「大人に任せる? 先生、トモ……南さんは風邪で休んだんじゃないんですか?」
「は? ちょ、落ち着いて、な? 2人とも落ち着いて」
私と山田を宥めようとする田中先生は、ジリジリと詰め寄る私達を前に、大きなため息を吐いた。
「はぁ……えっと、大心池さんと山田君。君達は南さんと仲が良かったみたいだから、特別に話すけど、他の生徒に広めたりはしないように。いいね?」
「はい。分かりました」
観念したように告げる田中先生に、山田が威勢よく返事をした。
当然、私も異論はないから、頷いて見せる。
すると、田中先生は職員室の扉から少し離れて、静かに話し始めた。
「昨日、南さんは家に帰らなかったそうだ。その後も、今までずっと行方不明になってる」
「なっ!?」
「行方不明!?」
「そうだよ。今朝のホームルームの後、確認のために家に電話をしたら、パニックになってるお母さんが出てね、既に捜索は始まってるけど、まだ見つかっていない」
「マジ……ですか」
唖然とする山田を、田中先生は申し訳なさそうに見た後、少し疑うような視線を私に向けてきた。
どうして?
と、一瞬思ったけど、すぐに心当たりに思い至る。
多分、田中先生は私と花楓がホームルームで見せた様子に違和感を覚えてるんだ。
先生も、トモミンが私達と仲良くなってることは知ってたみたいだし。
そんな先生の視線に、山田が気づかないはずもなく、彼の意識が一気にこちらへ向けられたらしい。
「おい、ちょっと待て。昨日って言えば、お前ら3人で打ち上げしてたんじゃないのか?」
「うん。してた。昨日の夕方まで南さんと一緒に居たよ」
「それは本当かい?」
「はい。先生、私、南さんの捜索に協力したいです。だから、一緒に警察に行ってもらってもいいですか? たぶん、私だけで行くよりも意味が増すと思いますので」
「そ、それは構わないけど」
「俺も行きます!」
「あ、それと、2年生の大塚先輩も連れて行きましょう。丁度さっきまで生徒会室で話してたので。まだ学校内に居ると思います」
「え? 大塚君? どうして彼を?」
「彼も関係者の1人だからです」
「ちょ、大心池、それはどういう意味だ?」
困惑してる田中先生と山田を半ば無視した私は、先生に校内放送を掛けるように促した。
放送で呼ばれた大塚先輩は、颯爽と職員室に現れる。
一瞬、私に目を向けた後、少し困惑した表情を浮かべたけど、事情を話したらすぐに納得してくれる。
流石は出来る男だよね。
むしろ、田中先生と山田の方が、疑問が晴れていないような表情をしてたのは、少しおかしな話だ。
それでも、2人の協力が無ければ、きっとこの事態を解決することはできないと私は思う。
だって、私だけじゃ何もできないってことを、私が一番知ってるから。
言い方は悪いけど、借りられる手助けは全部使ってしまおう。
そんなこんなで、私は大勢を巻き込む形でトモミンの捜索を開始した。
まず初めに向かったのは、警察署。
先生が事情を話して、私達は小さな個室に通される。
ここが、取調室って呼ばれる場所なのかな?
そんなことを考えながら、緊張のあまり手に汗を握っていると、1人の大柄な男性が、部屋の中に入ってきた。
その瞬間、私の左隣に座ってた大塚先輩が、鼻で小さく笑いながら呟く。
「やっぱり、父さんが担当になったんだね」
「職場で父さんと呼ぶな。対応に困るだろ?」
そう言いながら扉を閉めた男性は、ゆっくりと私達を見回して、小さく頭を下げる。
そうして、自然な流れで挨拶を始める大塚先輩のお父さん。
だけど、私はどうしても彼の挨拶を聞いている余裕が無かった。
どうしてかって?
それには大きな理由があるんだよね。
部屋に入って来た大塚先輩のお父さんは、左脇に何かを……誰かを抱えてたんだ。
グデ~ッと項垂れてるその人物は、見慣れた制服を着ていて、必死に顔を隠そうとしている。
どうして顔を隠そうとするんだろう?
なんて、そんな疑問も湧いてこない。
代わりに湧き上がってくる疑問を、私は躊躇うことなく口にする。
「花楓? どうしてここにいるの?」
そんな私の問いかけに、花楓は抱えられたまま体をビクッと反応させた。




