第33話 面倒な女
もうこれ以上は食べきれないってくらい、大量のスイーツを堪能した私達は、駅まで歩いた。
スイーツの力ですっかり元気を取り戻した花楓が、もう少し遊びたそうにしてたけど、正直、無理。
甘いものは好きだけど、過剰摂取はダメだね。ちょっと気分悪くなりそう。
私の隣で少し顔を青ざめてるトモミンも同じ気持ちだったらしく、全てを察した花楓が、意を汲んでくれたってワケ。
「それじゃあ、また明日学校でね!」
「はい。今日はありがとうございました」
「2人とも、もう暗いから気を付けて」
「はいよ~ スーミィもね!」
最寄り駅に辿り着いた私達は、そんな言葉を交わした後、それぞれの帰路についた。
家に向かって歩きながら、私は今日あったことを振り返る。
まず初めに思い返したのは、当然、あのチャラ男の事。
初めはただのナンパだって思ってたけど、私達がその場を去ろうとしたら、急に襲って来たワケだけど。
あれは何だったんだろう?
なんとなく、その疑問の答えに心当たりがないワケじゃない。
だけどそれは、花楓の力が関係してそう、って言うボンヤリとしたもので、確信は全くと言って良いほど持てないし。
仮に彼女の力が原因だとしたら、きっかけは何だったのかな?
少なくとも、今までに私が見て来た異変の中で、今日のは明らかに突発的だった。
なんてったって、花楓自身が予期してなかったし。
「明日、花楓に直接聞くかなぁ」
チャットで聞いても良いけど、お腹がいっぱいになりすぎて苦しいから、今日は早めに休みたい。
花楓とチャットし始めると、絶対に長くなるし。なんだったら深夜まで電話したがるし。
もし花楓に彼氏が出来たら、多分、面倒くさがられるタイプなんだろうな。
そして、そんな彼氏に対する不平不満を、深夜まで電話してきそう……。
「なんか、普通に想像できるんだけど。出来る事なら、しばらくの間は独り身で居て欲しいな」
なんて、滅茶苦茶失礼なことを呟いてみる。
「まぁ、一番面倒な女は、確実に私なんだろうけど。可愛げもないしねぇ」
少し冷え始めてる11月の夕方。
すっかり暗くなってる住宅街の道を歩く私は、多分すごく幸せなんだろうな。
あと5か月もしたら私達3人は高校2年生になるワケで、そうしたら、クラス替えで離れ離れになるかもしれない。
その先を言うなら、同じ学校で一緒に居れるのも、残り2年と半年も無いんだよね。
こんなことを考えるなんて、我ながら恥ずかしい。
だけど、そうやって恥ずかしがってたら、せっかく一緒に居てくれてる貴重な友達との時間が、無くなっちゃうよね。
花楓とトモミンと、もっと沢山、話をしよう。
まずは、明日学校に行って、しっかりと挨拶をする。
まぁ、今までもしてたけど、やっぱり基本を疎かにするわけにはいかないしね。
そんなことを考えながら家に辿り着いた私は、お風呂と歯磨きをして、すぐにベッドに潜りこんだ。
きっと、甘味の食べ過ぎで太るなぁ。
布団の中でどうでも良いことを考えている間に、眠りに落ちてた私は、いつものように目覚ましに叩き起こされて、学校に向かう。
心なしか、いつもよりも学校に向かう足が軽く感じられたのは、きっと楽しみだったからかな。
だけど、その日の学校はいつも通りじゃなかった。
私がそれに気が付いたのは、朝のHRが始まる少し前。
花楓は普通に学校に来たし、クラスメイト達のギスギス感も健在だった。
そんな中、教室の最前列にある1つの席が、空白だったんだ。
「ん? 南はどうした? 誰か、何か聞いてるか?」
教卓の目の前にある空白に、田中先生が気づかないワケがない。
首を傾げながらも、出欠簿に何やらメモする田中先生を見た私は、すぐに花楓に視線を移す。
「スーミィも、聞いてないの……?」
ボソッと呟く彼女の瞳には、不安とも絶望とも呼べる色が浮かんでる。
いやいや、ただ昨日食べ過ぎたせいで、体調を崩しただけかもしれないじゃん。
なんて、楽観的に考えてみるけど、どうにも腑に落ちない自分がいる。
どうして花楓が、そんなに不安がってるワケ?
そんな風に不安そうにされると、私まで不安になるじゃん。
胸の内に湧き上がってくる不安は、強制的に昨日の出来事を思い起こさせる。
私に襲い掛かって来たチャラ男のコト。
そんな記憶と同時に、今までに見て来た異変の数々と、ここ数か月で得た知識が、繋がっていく。
花楓が心を読むということは、その人の心から感情とかを引っ張り出してしまう恐れがあるというコト。
あんまり考えないようにしてたけど、それってつまり、近くに居れば居る程、その影響を受けやすいってコト、だよね?
当たり前だけど、少しだけ怖い事実。
私がそんな考えに至った瞬間。
花楓がすっくと立ちあがった。
そんな彼女を見て、私は自分がとんでもない失敗を犯してしまったことに気が付く。
「ちがっ! 花楓!!」
昨日と同じように、俯きながら立ち上がった彼女は、私の方なんかまったく見向きもせずに教室から駆け出していく。
「お、おい! 黒光!? どうしたんだ!?」
田中先生の呼びかけも、今の彼女には聞こえてないらしい。
追いかけなくちゃ。
逸る気持ちに突き動かされて、立ち上がろうとした私は、直後、教室中の視線が集中していることに気が付く。
「……大心池、どうした? 何があった?」
「あ、いや、その……」
当然だけど、全部ありのままに説明するわけにはいかない。
かといって、困惑してる先生を振り切って追いかけても、私に何ができる?
友達に対して、怖いなんて。
そんなことを考えてしまった私に、何ができるの?
「何でも、ありません」
それだけ言ってゆっくりと席に座った私は、ただひたすらに居心地の悪い教室に居続けた。
それが贖罪になるとでも、思ってるのかな?
こんなだから、また友達が去っていくんだろうな。
延々と、授業も聞かずにそんなことを考え続けていると、気が付けば昼休みに入ってた。
特にお腹が空いたわけでも無いから、私は席に座り続ける。
もしかしたら、ここで待ってれば花楓が戻ってくるかもしれないよね。
そして、頬を膨らませながら、私に文句を言うんだ。
そしたら、私は彼女の文句を甘んじて受けよう。
きっと、それくらいしかできることは無いから。
「大心池さん」
「……」
「あの、大心池さん。大丈夫かな?」
「……なんですか?」
やけにしつこく声を掛けて来る声に、苛立ちをぶつけながら顔を上げた私は、相手が大塚先輩だと気が付いた。
「大塚先輩?」
「ちょっと大丈夫かな? 少し話がしたいんだけど」
彼はそう言うと、少しだけ居心地の悪そうな表情で周囲を見渡して、小さく肩を竦めた。
まぁ、これだけ注目されてれば、居心地悪いのも頷けるよね。
この場合、注目されてるのは先輩かな? それとも私?
どうでも良いことを考えるのは後にして、私は促されるままに大塚先輩と教室を出る。
そうして、依然注がれる視線をかき分けるようにして、廊下を歩いたのだった。




