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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第4章 マリアベール

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第32話 元々そのつもり

 群衆ぐんしゅうの誰かに呼ばれた警察けいさつが、男を引き連れていく。

 そんな様子を茫然ぼうぜんと見ていると、婦警ふけいさんがけ寄ってきて、優しく声を掛けてくれた。

 一旦いったんどこかで事情じじょうを聞かせて欲しい、という彼女に連れられて、私達は最寄もよりの交番に向かう。


 私が落ち着くのを辛抱しんぼうづよく待ってくれた婦警ふけいさんは、何があったのか、男と面識めんしきはあるのかなどの質問を口にする。

 本音ほんねを言えば花楓かえで説明せつめい全部ぜんぶを任せたかったけど、少し考えて自分で話すことにした。


 説明せつめいもできない程に、精神的せいしんてきなダメージを負ってしまったわけでも無いからね。

 こわかったのは事実だけど、今回の件よりも恐怖きょうふを感じたことがあるから、意外と冷静でいられる。


 いくつかの説明せつめいをした後、無事に解放かいほうされた私達はなか茫然ぼうぜんとしながらも、少し離れた場所にあるカフェに足を向けた。

 とにかく今は、落ち着きを取り戻したい。

 きっと、私達の考えは一致いっちしてるに違いない。


 そうやってフカフカのソファ席にこしを下ろした私達は、湯気ゆげの立つコーヒーをすすりながら、少しの時間を過ごした。

 すると、不意ふいにトモミンが小さく口を開く。


「ここのコーヒー、美味おいしいですね」

 いつもなら、ここで花楓かえでが会話に食らいつくはずなのに、なぜかだまったままだ。

 仕方がないから、私はトモミンにうなずいて見せながら返事をすることにした。

「そうだね。トモミンは、カフェとかよく来るの?」

「ううん。あんまり行かない……よ」


 トモミンの言葉ことばじりしぼんでいく。

 その理由りゆうは考えるまでもなく花楓かえでのせいに違いない。

 だって、さっきからずっとうつむいたままで、元気が無いし。

 どうしたの? 私はもう大丈夫だって。


 そう心の中で語り掛けてみるけど、やっぱり反応はんのうは無かった。

 ここまで落ち込んでるってことは、多分、私の考えは当たってるのかな?

 つまり、さっきの男の行動に、何らかの形で花楓かえでが関わってる。

 それは彼女にとって不本意ふほんいな関わり方だったから、ショックを受けてるってところかな?

 もしくは、さっきの大塚おおつか先輩の行動にれちゃったとか?


「……」

「……変だな」

「仕方ないですよ。私も、いまだにショックですし」

 思わずボソッとつぶやいた私に、トモミンが小声でげる。

 でもゴメン、トモミン。

 私がつぶやいたのはそういう意味じゃないんだ。

 れたれたなんて話をしたら、花楓かえでが反応を見せると思ったんだけど、それすらないのが気になっただけ。


 どういう理由かは分からないけど、今回の件はよっぽど花楓かえでにとってこたえることだったみたいだね。

 何か、出来ることは無いのかな?


 私がそう思った瞬間しゅんかん

 まるでタイミングを見計みはからったかのように、私達のすわるテーブルに、彼が姿を現した。

「ここにいたんですね。探しましたよ」


 制服せいふくのままカフェに入って来た大塚おおつか先輩せんぱいは、相変あいかわらずさわやかな笑顔えがおを浮かべてる。

 そのさわやかさを、今の花楓かえでに分けてあげて欲しい。


 そんなことを考えつつ、どうせ先輩せんぱいの目的は花楓かえでなんだろうなぁと、コーヒーを一口ひとくちすすったところで、彼は私を見ながら口を開いた。

怪我けがとかは無かったかい?」

「え? あ、はい。大丈夫です」

「それならよかった。結構けっこうあばれっぷりだったから、心配で君を探してたんだよ」

「それは……助けてくれた上に心配まで、ありがとうございます」

「いやいや。そう大したことはしてないよ……と、まぁ、本当は君の無事ぶじ確認かくにん次第しだい、すぐにおいとまするつもりだったけど」


 そう言った彼の視線しせんが、自然と花楓かえでの方に向けられる。

 まぁ、当然とうぜんっちゃ当然とうぜんだよね。

 生徒会せいとかいに引き入れる候補こうほとして目を付けてた後輩こうはいが、目に見えて落ち込んでるんだし。


「大丈夫かい?」

「……」

 当然とうぜんのように大塚おおつか先輩せんぱい言葉ことば無視むしする花楓かえで

 普段ふだん様子ようすからすると、考えられない態度たいどだよね。

 そんな彼女に、再び声を掛けようとする大塚おおつか先輩せんぱいの言葉を、私は思わずさえぎってしまった。


先輩せんぱい。今はそっとしてあげてください」

「……どうしてかな?」

「誰にだってしずかに考えたいときはあるって、思いませんか?」

しずかに考えたい、か。まぁ、それもそうだね。ここは君達に任せて、退散たいさんすることにするよ」

「はい。ありがとうございます」


 花楓かえでにとっての大塚おおつか先輩せんぱいが、どんな立ち位置の人かなんて、私には分からない。

 だけど1つだけ知ってることがあるとすれば、それは、彼女かのじょ先輩せんぱい文化祭ぶんかさいけの勝負しょうぶをしてたこと。

 つまり、彼女にとって彼がてきに近い何かだって可能性かのうせいは、わずかにだけど残ってる。


 だとしたら今は、彼をとおざけるのが正解せいかいだ。と思う。

 近くにいるだけで、花楓かえでにとっては常に会話してるようなものかもしれないしね。


 そんなことを考えながら、もう1口コーヒーをすすろうとした私に、大塚おおつか先輩せんぱいが声を掛けてくる。

「ところで、1つだけ聞いておきたいんだけど」

「はい?」

「君は……大心池おごろちさんは、黒光くろみつ花楓かえでさんの何なのかな?」

友達ともだちですけど?」

「……そうか、友達ともだちか。それは何というか。変なことを聞いてしまったね。ごめん。忘れてもらえると助かるよ」


 そんな言葉を残して、大塚おおつか先輩せんぱいはその場を去っていく。

 これだけなら、変なことを聞いて来る変な先輩せんぱい、ってイメージが強かったけど、彼はそんな半端はんぱな男じゃないらしい。


 しばらくコーヒーを飲んでだまり込んでた私達の元に、ケーキがいくつもはこばれて来た。

 聞けば、制服せいふくを着た男子だんし高校生こうこうせいが、私達のコーヒー代をはらった上に、一定いってい金額きんがく分のスイーツを持っていくように注文ちゅうもんして帰ったらしい。

 もちろん、おだいは全部その男子だんし高校生こうこうせいが出してくれてる。


「さすがって言うかなんて言うか。やることが普通ふつうじゃないよね」

「そ、そうだね。これ、どうしようか? 食べないともったいないよね?」

 テーブル一杯いっぱいならんでるケーキとかパフェを横目よこめに、トモミンが苦笑くしょうする。


 こうなったら、もう食べるしかないよね? デザートは別腹べつばらって言うし。

 なんだったら、花楓かえでぶんは無いかも。


 私がそう思った瞬間しゅんかん

 今の今までずっとうつむいたままだった花楓かえでが、スッと右手を前に突き出した。


花楓かえでちゃん? どうかしたの?」

「トモミン、花楓かえでのことはそっとしておこう。それよりも、私達でパフェを―――」

「ダメェ!! それはズルいってスーミィ!!」


 いきおいよく顔を上げた花楓かえでは、赤く泣きはらした目元めもとこすりながら右のてのひらき出してくる。

「お皿! チョーダイ!」

「仕方ないなぁ」

花楓かえでちゃん、元気げんきが出たみたいで良かった」


 トモミンはそう言うけど、花楓かえでが元気を取り戻したのかどうかは分からない。

 それに、大塚おおつか先輩せんぱいがこうなることを狙ってたのかも、分からない。


 だけど、私達は初めからこうするつもりだったよね?

 だって今日は、少しだけ遅い文化祭ぶんかさいの打ち上げをしてるんだから。

 楽しまないと、もったいない。でしょ?

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