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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第4章 マリアベール

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第31話 喧騒と涙

 文化祭ぶんかさいで浮かれてた私達だけど、現実げんじつは忘れたころおそい掛かって来るみたいだね。

 11月上旬(じょうじゅん)実施じっしされた全国ぜんこく模試もしとか、文理ぶんり選択せんたくとか、出来るなら考えたくないような行事に追われる中、時間がゆっくりと流れていく。


 そうして、12月の期末テストを2週間後にひかえた11月の中旬ちゅうじゅん

 週初めの月曜日だから、なるべく早く家に帰ろうと席を立った私に、トモミンが声を掛けてきた。


「あ、あの、スーミィ。花楓かえでちゃん。ちょっと良いかな」

「お? トモミン、めずらしいね。何か用事でもあった?」

 私のとなりうれしそうに声を上げる花楓かえでられるように、私は視線でトモミンに続きを催促さいそくした。

 すると、トモミンは少しだけモジモジとしながら話し始める。


「用事ってほどじゃないんだけどね。ちょっとおそいかもしれないけど、私達で、文化祭ぶんかさいの打ち上げとか、やらない?」

「え? 今? このタイミングで?」

「ちょっとスーミィ!? トモミンがさそってくれてるのに、失礼でしょ!?」

「ううん。スーミィの言いたいことも分かるから。大丈夫。私も、さそおうかどうか迷ってたし」

「だよねぇ! 実はワタシも打ち上げやりたいって思ってたんだ!」

「それは絶対ぜったいうそじゃん」


 うそじゃないもん~。って、駄々(だだ)をこねる花楓かえで

 よく考えれば、トモミンがずっと悩んでたんなら、花楓かえではそれを知ってたはずだよね?

 なんで、自分から言い出さなかったんだろ?

 って言うか、そもそもどうしてこのタイミングなのかな?


 少しだけ考えた私は、文化祭ぶんかさいの後、花楓かえでたおれたことを思い出した。

 つまり、トモミンとしては文化祭ぶんかさい直後ちょくごにでもさそいたかったんだろうけど、花楓かえでたおれたせいで、きっかけを失ってたってワケだね。

 つまり、花楓かえでが悪いわけだ。


「ちょっと? もしかしてスーミィ、打ち上げに行きたくないワケ?」

 言葉の先頭せんとうに、やたらと圧が掛かってる。

 間違いなく、内容ないよう以上の抗議こうぎ意思いしが込められてるに違いない。

 そんな花楓かえでから目をらした私は、苦笑にがわらいをしながらトモミンに告げた。

「そんなわけないじゃん? ね、トモミン」

「こら! 無視するなスーミィ!」


 花楓かえではげしい追撃ついげきから逃れるためには、もうあれしかない。

 ごめんね、トモミン。


「ところでトモミン。もしかして、山田やまださそうの?」

「ふぇ!? え、あ、えっと、そ、そうだね。さ、さそった方が、良いよね?」

「おほぉ!? トモミン、もしかして山田やまだ君を誘惑ゆうわくしに行くのかい?」

「ち、違うよ花楓かえでちゃん! そういう意味じゃないよぉ!」

 あわてるトモミンと彼女にしがみ付こうとする花楓かえで

 そんな二人をながめながら、私はホッとむねで下ろした。


 花楓かえではこの手の話が大好きらしくて、たとえ私の放ったありなんだと分かってても、みずから飛び込んでいってくれる。

 なんてちょろいんだろう。

 まぁ、その度にトモミンが犠牲ぎせいになるワケだけどね。


 そんなこんなで、帰り支度じたくをしようとしてる山田やまだに、トモミンが声をけに行った。

 私達はもちろん、少し遠目とおめに様子を見てるだけ。

 でも、結果は残念ざんねんなものだった。


「まぁ、練習があるなら仕方がないですよね」

「そうかなぁ? ワタシだったら、トモミンのおさそいをことわるなんて無粋ぶすいなマネしないけどなぁ」

「山田も不器用ぶきような男だよね」

「分かる! スーミィの言う通りだよ! もっと思い切って、トモミンにアプローチするべきだよね!?」

「ちょ、ちょっと2人とも、声が大きいよぉ」


 電車でんしゃられて繁華街はんかがいに出てきた私達は、適当てきとう街中まちなかを歩きながら雑談ざつだんをしてた。

 目的地もくてきちは特に決まってない。


 何かあまい物でも食べようって言ってた花楓かえでは、山田やまだに対するしんらつな批評ひひょうべてばかり。

 流石さすがに歩き疲れて来たから、どっか適当てきとうな店に入りたい。

 多分、トモミンも疲れてるように見えるから、その方が良いよね。


 なんて考えながら、どの店に入るべきか周囲しゅういを見ていると、となりを歩いてたトモミンが急に小さな悲鳴ひめいを上げた。

「きゃ!」

「いてっ!」


 突然とつぜん尻餅しりもちを付くように転んだトモミン。

 そんな彼女のそばには、見知らぬ男が立ってる。

 チャラチャラとした見た目で、髪をばっちりセットしてるその男は、少しよろけた後、転んでるトモミンを見下ろした。

 どうやら、トモミンはその男にぶつかってしまったらしい。


「大丈夫?」

 咄嗟とっさに彼女の元にろうとした私の目の前に、その男がり込んでくる。

「ごめんごめん、ぶつかっちゃったね。大丈夫?」

「あ、えっと、はい。大丈夫です」

「いやぁ、ごめんねぇ。俺、ちょっと目が悪くてさぁ、それなのに今日、眼鏡めがね忘れてきちゃったんだよねぇ」

「あ、そうなんですか?」

「そそ、だからゆるして欲しいな。あっ! あれだったら、お茶でもおごるから! 一緒いっしょに、ね? 俺、こう見えてもこの辺の喫茶店きっさてんに詳しいんだ。どうかな?」

「あの、えっと、その、私達、このあと」


 私に背中せなかを向けたまま、トモミンにだけ語り掛け続けるこの男は、本当に目が悪いのかな?

 それとも、頭が悪いの?

 どっちにしても、そんなさそい方でナンパが成功するわけないのにね。

 なんて思う私は、パニックにおちいってるトモミンの様子を見て、そうでも無いのかもと思ってしまった。


「あの、私達、先約せんやくがあるので」

 男のかたを押しのけて、トモミンとの間に割り込んだ私は、男に出来るだけ冷たい視線しせんを向ける。

 一瞬いっしゅん、私の言葉にひるんだらしい男は、すぐに目を細めながら口を開いた。


「あぁ、ごめんね。まさか、連れが居るなんて思ってなかったんですよ。言ったでしょ? 俺、目が悪いから。何だったら、君達も一緒に行こうよ。絶対に美味しいから」

 なんか、ここまでくるとあきれるよね。

 こんなに拒否きょひされてるのに、どうしてまだあきらめようとしないのかな?


 なんてことを考えてると、トモミンに手を貸してた花楓かえでが私のとなり参戦さんせんしてきた。

「あの、ごめんなさい。私達、この後色々と予定があるので。それじゃ」

 やけに緊張きんちょうしたような表情ひょうじょうを浮かべる花楓かえでは、それだけを言うと、足早に立ち去ろうとした。

 彼女が立ち去ることを判断はんだんしたなら、それが最善さいぜんな気がする。

 私はすぐに、花楓かえでの後を追うように、トモミンをれて歩き出す。


 直後ちょくご不意ふいに立ち止まった花楓かえでいきおいよく振り返った。

 その表情には、おどろきとあせり、そしていかりがにじんでる。


 なんで、そんな顔をしてるのかな?

 なんて疑問ぎもんいだく前に、私は左腕ひだりうでいたみを覚えた。

 同時どうじに、強く後ろに引っ張られた私は、盛大せいだいに道にたおれてしまう。


「いたっ!」

無視むしする気かぁ!? おい!!」

 地面じめんについた右手のてのひらが、ヒリヒリする。

 だけど、そんなことよりも不快ふかいなものが、眼前がんぜんに近づいてきた。


 さっきのチャラ男が、倒れこんだ私におおいかぶさってこようとしてるんだ。

 流石さすがに、大人の男におおいかぶさられたら、私の力じゃどうにもできない。


 自然しぜんと、身体からだ硬直こうちょくするのが分かった。


 男の背後はいごで、通行人つうこうにんとか花楓かえでが男を引きはがそうとしてる。

 それでも、馬鹿ばかみたいに強い力で私のうでにしがみ付いて来るチャラ男を引きはがすことはできないみたい。


 何も抵抗ていこうできずに、私はただ、背中に感じるかた道路どうろ感触かんしょくほおに当たる男のくさい息にえ続けた。

 どれだけえたのかな?

 気持ち悪さと不快感ふかいかんで、かたく閉ざしてるまぶたから涙があふれそうになった時、急にし掛かってた重圧じゅうあつが消え去る。


 一瞬いっしゅんで全身に広がる解放感かいほうかんに、そーっと目を開けた私は、辺りの喧騒けんそうと涙を浮かべる花楓かえでとトモミンの姿を見た。

 そしてもう一つ、予想よそうしてなかった光景こうけいを目の当たりにする。


 さっきまで私におおいかぶさってたチャラ男。

 そんな男を、見覚みおぼえのある男が羽交はがめにしてたんだ。

大塚おおつか先輩せんぱい……?」

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