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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第3章 塔

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第28話 確固たる自信

 さっきまでの喧騒けんそううそみたいに、教室に静寂せいじゃくが広がってる。

 多分、クラスメイト達は全員ぜんいん理解(りかい)してるんだ。

 今、この状況じょうきょうで声を上げようものなら、一瞬いっしゅんで目を付けられてしまうって。


 そんな理解りかいを生み出してるのは言うまでもなく、祇園寺ぎおんじ花楓かえでだ。

 まるで射殺いころしてしまいそうな眼光がんこうにらみ付ける祇園寺ぎおんじと、それを真正面ましょうめんから受け止めてる花楓かえで

 流石さすがの私も、そんな2人の間にって入るのはけたいと思ってしまうほどだ。


だまってても分からないんだけど? どうかしたの? 祇園寺ぎおんじ君?」

 全く口を開くつもりが無い様子の祇園寺ぎおんじに、花楓かえでが問いかける。

 少しうんざりしたようなその口調くちょうは、彼を挑発ちょうはつしてるようにも聞こえるのは気のせいかな?


「なんでもねぇよ」

 一度、小さく舌打したうちした祇園寺ぎおんじは、それだけ言うと転がってた椅子いすを足でどかしながら教室の外に向かって歩き出す。


 そんな彼の様子を見て、私をふくめた大勢おおぜいが、ホッとむねで下ろしたらしい。

 ここで祇園寺ぎおんじ退いてくれれば、これ以上の修羅場しゅらば回避かいひできるから、当然だよね。


 だけど、それが何を意味いみしてるのか、私をふくめたクラスメイト達はよく理解りかいしてなかった。

 少なくとも、全員が理解りかいしてたなら、その小さな声はれ聞こえてこなかったに違いない。


「片づけサボるのかよ」


 ボソッと、誰の物か分からないほどの小さな声が、教室きょうしつの中にひびく。

 途端とたん、扉のすぐ目の前にまで辿たどり着いてた祇園寺ぎおんじが、その場で足を止めた。


 声のした方をり返るでもなく、下をうつむくでもなく、ただとびらの方を見たままかたまる祇園寺ぎおんじ

 その背中せなかからあふれ出るいかりや苛立いらだちは、私達を緊張きんちょうさせるのに充分じゅうぶんだった。


 すぐとなりにいたトモミンが、私の右手のすそをギュッとにぎってくる。

 よほど怖いのか、わずかにふるえる彼女の手をにぎった私は、祇園寺ぎおんじに目を向けた。


 とびらに背を向けるように、ゆっくりと振り返る祇園寺ぎおんじは、開かれてたとびらに手を掛ける。

 そして、力任ちからまかせにとびらを閉めたかと思うと、教室きょうしつの中ににぶい音がひびき渡った。


 そして、教室きょうしつ(じゅう)見渡みわたしながら、彼は口を開く。

「オマエらさぁ、ちょっと調子ちょうしに乗りすぎなんじゃねぇのか? 片づけをサボる? は? 俺がなんでこんなくそつまらねぇお遊びの手伝いをしなくちゃならねぇんだよ。こういうのはお前らみたいなくずどもがやる仕事だろ?」


 クラスメイト全員を見下みくだすような発言はつげん

 皆がいきむ中、一歩いっぽみ出した祇園寺ぎおんじは、さらに言葉を続けた。

「大体、ムカつくんだよ。今更いまさらこのクラスの奴らで仲良くなんて出来る訳ねぇだろ。どいつもこいつもくずみたいな奴らしか居ねぇくせに! それがなんだ? ちょっとイザコザがあっただけで歯向はむかってみたり、めた口をくようになったり、めてんのか? 俺のことめてんのか!?」


 怒りがヒートアップしていくにつれて、祇園寺ぎおんじ声量せいりょうが上がっていく。

 それと同時に、私は1つの異変いへんが起き始めていることに気が付いた。

 祇園寺ぎおんじの足元、教室きょうしつゆかがジワジワとり上がり始めてるんだ。


 その異変いへんは私以外の皆にも見えてるみたいで、どよめきが広がり始めていた。

 誰かがパニックになってもおかしくない。

 私がそんなことを考えた時、突然とつぜん、教室中の椅子いすつくえいきおいよくあばれはじめる。


「危ない!」

 縦横無尽じゅうおうむじんに飛び交い始めた椅子いすつくえは、混乱こんらんの中にいる私達を教室きょうしつすみに追いやっていく。


 甲高かんだか悲鳴ひめいと、押し寄せて来る人波ひとなみにもまれながら、それでもトモミンの手をつかんでた私は、ふるえる彼女のかたに手をえながら、周囲を見渡みわたす。

「す、須美すみちゃん」

「大丈夫、大丈夫だから」


 教室きょうしつ一角いっかくに、椅子いすつくえのバリケードで作られた牢屋ろうや

 そんな中に押し込められた私達を、隆起りゅうきしたとうの上から見下ろす祇園寺ぎおんじは、さぞ心地よさそうな笑みを浮かべてる。


 なんて、私がこんな光景こうけい冷静れいせいに見ていられるのは、全部ぜんぶ幻覚げんかくなんだってことを知ってるからだ。

 その証拠しょうことでも言うように、狼狽うろたえてるクラスメイト達の中に花楓かえでの姿はない。


 だとするなら、彼女には彼女なりの解決策かいけつさくがあるってコトで、私に出来ることは、ほとんど無いはず。

 そうは分かってても、何かできることが無いのか考えるのは自由だよね?


 教室きょうしつ片隅かたすみとらわれてるクラスメイトと、それを見下ろす祇園寺ぎおんじ本人ほんにん

 これが、彼にとってのクラスなんだ。

 そう言えば、今日の朝にトモミンが言ってたっけ?

 祇園寺ぎおんじは何をやらせても上手くやる。

 そして山田やまだはこうも言ってた。

 バスケに関しては、かなりストイックだった。


 つまり、今の彼を押し上げてるのは、彼が今までにみ上げて来た確固かっこたる自信じしんって奴なのかもしれない。

自信過剰じしんかじょう……って、簡単に片づけられないのが厄介やっかいだよね」


 なんてことが分かっても、結局けっきょく私にはどうすることもできないかもしれない。

 何しろ、私達をじ込めてるこの牢屋ろうやは、思ってたよりも頑丈がんじょうにできてて、抜け出せないから。

 今すぐに祇園寺ぎおんじとうの上から引きずり降ろしてやりたいけど、それは私の役目やくめじゃないらしい。


 そんな私の考えを理解しているように、どこからともなく花楓かえでの声が聞こえてくる。

「クラスメイトに対してその仕打ちは、流石さすがひどいんじゃないかな?」

「っ!?」

 姿が見えない花楓かえでの声。そんな声に、祇園寺ぎおんじだけじゃなくてクラスメイト達もざわめき立つ。


「どこにいやがる!!」

 声をあらげながら教室中きょうしつじゅうを見渡してる祇園寺ぎおんじ

 私も牢屋ろうやの中から目をらして教室きょうしつの中を探すけど、どこにも彼女の姿すがたは見当たらない。


 まぁ、姿が見えないようなまぼろしを、花楓かえでが私達に見せてるんだったとしたら、探すだけ無駄むだだけどね。

 なんてことを考えていると、花楓かえでの笑い声が教室きょうしつの中にひびわたった。

「今の祇園寺ぎおんじ君に、私を見つけることはできないと思うなぁ」

「ふざけるな! 出て来いよ! お前には文句もんくがたんまりあるんだよ!!」


 そんな彼の言葉が花楓かえでひびくわけもなく、問答もんどうり返される。

 私とトモミン、そしてその他のクラスメイト達は、ただひたすらに2人の問答もんどうを聞いている事しかできなかった。

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