第28話 確固たる自信
さっきまでの喧騒が嘘みたいに、教室に静寂が広がってる。
多分、クラスメイト達は全員理解してるんだ。
今、この状況で声を上げようものなら、一瞬で目を付けられてしまうって。
そんな理解を生み出してるのは言うまでもなく、祇園寺と花楓だ。
まるで射殺してしまいそうな眼光で睨み付ける祇園寺と、それを真正面から受け止めてる花楓。
流石の私も、そんな2人の間に割って入るのは避けたいと思ってしまうほどだ。
「黙ってても分からないんだけど? どうかしたの? 祇園寺君?」
全く口を開くつもりが無い様子の祇園寺に、花楓が問いかける。
少しうんざりしたようなその口調は、彼を挑発してるようにも聞こえるのは気のせいかな?
「なんでもねぇよ」
一度、小さく舌打ちした祇園寺は、それだけ言うと転がってた椅子を足でどかしながら教室の外に向かって歩き出す。
そんな彼の様子を見て、私を含めた大勢が、ホッと胸を撫で下ろしたらしい。
ここで祇園寺が退いてくれれば、これ以上の修羅場は回避できるから、当然だよね。
だけど、それが何を意味してるのか、私を含めたクラスメイト達はよく理解してなかった。
少なくとも、全員が理解してたなら、その小さな声は漏れ聞こえてこなかったに違いない。
「片づけサボるのかよ」
ボソッと、誰の物か分からない程の小さな声が、教室の中に響く。
途端、扉のすぐ目の前にまで辿り着いてた祇園寺が、その場で足を止めた。
声のした方を振り返るでもなく、下を俯くでもなく、ただ扉の方を見たまま固まる祇園寺。
その背中から溢れ出る怒りや苛立ちは、私達を緊張させるのに充分だった。
すぐ隣にいたトモミンが、私の右手の裾をギュッと握ってくる。
よほど怖いのか、僅かに震える彼女の手を握った私は、祇園寺に目を向けた。
扉に背を向けるように、ゆっくりと振り返る祇園寺は、開かれてた扉に手を掛ける。
そして、力任せに扉を閉めたかと思うと、教室の中に鈍い音が響き渡った。
そして、教室中を見渡しながら、彼は口を開く。
「オマエらさぁ、ちょっと調子に乗りすぎなんじゃねぇのか? 片づけをサボる? は? 俺がなんでこんなくそつまらねぇお遊びの手伝いをしなくちゃならねぇんだよ。こういうのはお前らみたいな屑どもがやる仕事だろ?」
クラスメイト全員を見下すような発言。
皆が息を呑む中、一歩踏み出した祇園寺は、更に言葉を続けた。
「大体、ムカつくんだよ。今更このクラスの奴らで仲良くなんて出来る訳ねぇだろ。どいつもこいつも屑みたいな奴らしか居ねぇくせに! それがなんだ? ちょっとイザコザがあっただけで歯向かってみたり、舐めた口を利くようになったり、舐めてんのか? 俺のこと舐めてんのか!?」
怒りがヒートアップしていくにつれて、祇園寺の声量が上がっていく。
それと同時に、私は1つの異変が起き始めていることに気が付いた。
祇園寺の足元、教室の床がジワジワと盛り上がり始めてるんだ。
その異変は私以外の皆にも見えてるみたいで、どよめきが広がり始めていた。
誰かがパニックになってもおかしくない。
私がそんなことを考えた時、突然、教室中の椅子と机が勢いよく暴れはじめる。
「危ない!」
縦横無尽に飛び交い始めた椅子と机は、混乱の中にいる私達を教室の隅に追いやっていく。
甲高い悲鳴と、押し寄せて来る人波にもまれながら、それでもトモミンの手を掴んでた私は、震える彼女の肩に手を添えながら、周囲を見渡す。
「す、須美ちゃん」
「大丈夫、大丈夫だから」
教室の一角に、椅子と机のバリケードで作られた牢屋。
そんな中に押し込められた私達を、隆起した塔の上から見下ろす祇園寺は、さぞ心地よさそうな笑みを浮かべてる。
なんて、私がこんな光景を冷静に見ていられるのは、全部幻覚なんだってことを知ってるからだ。
その証拠とでも言うように、狼狽えてるクラスメイト達の中に花楓の姿はない。
だとするなら、彼女には彼女なりの解決策があるってコトで、私に出来ることは、殆ど無いはず。
そうは分かってても、何かできることが無いのか考えるのは自由だよね?
教室の片隅に囚われてるクラスメイトと、それを見下ろす祇園寺本人。
これが、彼にとってのクラスなんだ。
そう言えば、今日の朝にトモミンが言ってたっけ?
祇園寺は何をやらせても上手くやる。
そして山田はこうも言ってた。
バスケに関しては、かなりストイックだった。
つまり、今の彼を押し上げてるのは、彼が今までに積み上げて来た確固たる自信って奴なのかもしれない。
「自信過剰……って、簡単に片づけられないのが厄介だよね」
なんてことが分かっても、結局私にはどうすることもできないかもしれない。
何しろ、私達を閉じ込めてるこの牢屋は、思ってたよりも頑丈にできてて、抜け出せないから。
今すぐに祇園寺を塔の上から引きずり降ろしてやりたいけど、それは私の役目じゃないらしい。
そんな私の考えを理解しているように、どこからともなく花楓の声が聞こえてくる。
「クラスメイトに対してその仕打ちは、流石に酷いんじゃないかな?」
「っ!?」
姿が見えない花楓の声。そんな声に、祇園寺だけじゃなくてクラスメイト達も騒めき立つ。
「どこにいやがる!!」
声を荒げながら教室中を見渡してる祇園寺。
私も牢屋の中から目を凝らして教室の中を探すけど、どこにも彼女の姿は見当たらない。
まぁ、姿が見えないような幻を、花楓が私達に見せてるんだったとしたら、探すだけ無駄だけどね。
なんてことを考えていると、花楓の笑い声が教室の中に響き渡った。
「今の祇園寺君に、私を見つけることはできないと思うなぁ」
「ふざけるな! 出て来いよ! お前には文句がたんまりあるんだよ!!」
そんな彼の言葉が花楓に響くわけもなく、問答が繰り返される。
私とトモミン、そしてその他のクラスメイト達は、ただひたすらに2人の問答を聞いている事しかできなかった。




