表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第3章 塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/63

第27話 小さな戦場

 大塚おおつか先輩(せんぱい)とのけのあと、私達3人は予定よていしていた通り、全部ぜんぶのクラス出し物を見て回った。

 自分のクラスメイトでさえ、あまり話したことが無い人が多い私にとっては、かなり刺激的しげきてきな一日だった気がする。

 まわり終えるころには、足の裏に微妙びみょういたみを覚えてたけど、それでもまぁ満足は出来たかな。


「こんなに疲れた文化祭ぶんかさいは、初めてです……」

 となり装飾そうしょくの片づけをしてるみなみ同意どういしながら、私は教室の中を見渡す。

 すでかたむき始めている中、私達は教室きょうしつの片づけに追われてる。

 たった1日でこの祭りが終わるのは、ちょっともったいない気もするけど、仕方ないよね。

 そんなかすかなさびしさに私がひたっていると、ゴミふくろを持った山田やまだ近寄ちかよってきた。


「おつかれ、お前ら、やたらと目立ってたらしいな」

 シレッと私と南の間にって入って来た彼を、私は横目よこめで見上げる。

「目立ってたのは花楓かえででしょ? 私達は何もしてない」

「そ、そうですよ! おかげでもう、ヘトヘトです」

「本人がそう思ってても、周りからはそうは見えなかったんだろうな」

「それはどういう意味いみ?」

「いや、変な意味いみじゃなくてさ。メチャクチャ楽しそうな3人組がるってうわさになってたから。なんとなくそう思っただけだよ」

 そう言う山田やまだ視線しせんの先には、どんよりとした空気の中で黙々(もくもく)掃除そうじをしてるクラスメイト達がる。


 そんな彼らをかき分けて、ほうきを手にした花楓かえでって来た。

「みんなお疲れ! って、どうしたの? なんか、元気なさげだけど」

 そう言う花楓かえでは、まだまだ元気があふれかえってる様子だ。

 どうしてそんなに元気でられるワケ?

 なんて思った時、私の考えを代弁だいべんするように、みなみが言った。


花楓かえでちゃんが元気すぎるだけですよぉ……あっ」

 咄嗟とっさに自分の口元くちもとおさえるみなみ

 何か気になることでもあったのかな?

 なんて思ってると、一気に表情をくずした花楓かえでが、悪戯いたずらっぽい口調くちょうで言いだした。

「トモミン、ついに私のこと、下の名前で呼んでくれたんだねぇ」

「いや、それは、違くて」

「何も違わないよね? 花楓かえでちゃんって、呼んでくれたじゃん! ワタシ、そう呼んでくれた方がすっごくうれしいな!」

「え?」

「ね、スーミィもそうでしょ?」

「ん? まぁ、そっちの方がしたしみがあるのは確かじゃない?」


 久しぶりに見たみなみのオドオドとした様子に、少しあきれながらも、私はフォローするためにそう言った。

 対するみなみは、花楓かえでと私の顔を見比べながら、少しだけ目を見開いてる。

「良いんですか?」

「良いって、良いって。友達じゃん? むしろおそすぎるくらいだよ」

「そ、それじゃあ、これから花楓かえでちゃんって、呼びたいと思います」

「やったぁ! あ、それと、敬語けいごも無しが良いなぁ。同じクラスなんだし」

「は……う、うん。分かった」


 今日見た中で一番の笑顔を浮かべる花楓かえで

 ホントにうれしいんだろうな。なんて思ってると、南が私の方を見上げてきた。

「お、大心池おごろちさんのことは、その」

須美すみで良いよ。私も智美ともみって呼ぶから」

「あ、えっと……」

 私の提案ていあんを聞いて、みなみ―――智美ともみは少し口ごもる。

 私、何か間違まちがったかな?

 なんて思ってると、またもや悪戯いたずらっぽい表情の花楓かえでが口を開いた。


「えぇ~!? 違うでしょ? スーミィ! トモミンはスーミィのことを、スーミィって呼びたいんだよ!」

「え? そうなの?」

「えっと、す、すみません。いやならいいんですけど。そっちの方が可愛かわいいなって思って」

「でしょでしょ!? やっぱりスーミィって呼び方可愛かわいいよね!?」


 花楓かえで得意とくいげなのが、ちょっとしゃくさわるなぁ。

 でもまぁ、別にいっか。

 そう思って、私が智美ともみうなずいて見せた直後、花楓かえでが告げる。

「ってことは、スーミィもトモミンって呼ばないとだね」

「は?」

「だってそうでしょ? 友達はあだ名で呼び合うもんだよ! あ、ってことは、ワタシもあだ名が欲しいなぁ、誰か、可愛かわいいあだ名をワタシに付けてくれないかなぁ」


 うれしそうに顔をほころばせてる智美ともみとなりで、花楓かえでがチラチラと視線しせんを投げてきた。

 こういうのを素直すなおじゃないって言うのかな?

「そうだね。それじゃあ私もトモミンって呼ぼうかな」

「っ! あ、ありがとう」

「おれいを言うような事? で、花楓かえでのあだ名ねぇ、かえでといえば、シロップとかどう? メープルシロップ」

「ワタシは犬かっ!! もっと真剣しんけんに考えても良いんだよ?」

「そ、それじゃあ、私もスーミィも『み』が付いてるから、クロミンとか?」

「えぇ~? ワタシだけ苗字なの? なんかやだぁ」

面倒めんどうくさいな……そもそも、花楓かえでって名前がしっくりきすぎてて、あだ名が定着ていちゃくする気がしないんだけど」

「あ、私も同じふうに思ってました。なんていうか、花楓かえでちゃんは花楓かえでちゃんだなって」

「そ、そんなにめても何も出ないんだからね!」

「そこでれるのはなぜ?」


 敬語けいごとため口が入りじる口調くちょうれない様子ようすのトモミンと、れてる花楓かえで、そしてこそばゆい恥ずかしさをごまかそうとゆか視線しせんを落とす私。

 そんな私達が、少しだまり込んだタイミングで、そばにいた山田やまだが口を開いた。

「なんか、一気に仲良くなったな、お前ら」


 そう言う山田やまだの言葉を聞いた私達は、自然と顔を見合わせる。

「なになに? 山田やまだ君も仲間に入りたいワケ?」

「は!? いや、別にそう言うんじゃ」

 花楓かえでの言葉に動揺どうようする彼を見て、私は妙案みょうあんを思いつく。


「仲間に入りたいんだったら、山田やまだもあだ名で呼ばなくちゃ。ほら、言ってみてよ。トモミンって」

「んなっ!?」

「すすす、スーミィちゃん!?」

 スーミィちゃんって、トモミンはかなり動揺どうようしてるみたい。

 そんな彼女の様子が面白おもしろくて、私は山田やまだに先をうながした。


 即座そくざに私の目論見もくろみ看破かんぱしたらしい花楓かえでも、山田やまだをはやし立て始める。

仲良なかよくなりたいなら、やっぱり呼び方って大事だからね。他人行儀たにんぎょうぎじゃダメだよ。ほら、山田やまだ君。ここが男の見せ所だよっ!」

 花楓かえでが浮かべてる笑顔が、悪く見えるのはなんでかな?

 いや、山田やまだにとっては私も同じように見えてるのかもしれないね。


 なんて、山田やまだとトモミンをからかいつつ、片づけをしていた私達は、不意ふいに大きな音が教室きょうしつの中にひびき渡るのを耳にした。


 音のした方に視線しせんを向けると、そこには私達の方をにらみ付ける祇園寺ぎおんじの姿。

 彼のそば椅子いすころがってるところを見ると、どうやら彼が椅子いす蹴飛けとばした音だったらしい。


 なんか、やけに私達をにらみ付けてるけど、なんでそんなにおこってるワケ?

 なんて思った直後ちょくご、私は文化祭ぶんかさい準備中じゅんびちゅうに聞いた話を思い出した。


 1年2組は、3つの派閥はばつ分裂ぶんれつしてる。


 そんな派閥はばつが全て入りじってるこの教室きょうしつは、ある意味いみ小さな戦場せんじょうと言えるかもしれない。

 それなのに、私達は教室きょうしつのど真ん中で、和気わき藹々(あいあい)と話してたワケだ。

 なんていうか、危機感ききかんが無い。一言ひとことでいうなら、場違ばちがいだよね。


 なんとなく、祇園寺ぎおんじ苛立いらだちを覚えている理由に私が納得なっとくした時。

 当然とうぜんすべてを理解りかいしてるはずの花楓かえでが、口を開いた。

「どうかしたの? 祇園寺ぎおんじ君?」


 その瞬間しゅんかん。私は理解りかいした。

 この状況じょうきょうはすべて、彼女が作り出したものなんだと。

 全身ぜんしんで感じる既視感きしかん緊張感きんちょうかんを飲み込んだ私は、人知れずに身構みがまえた。


 花楓かえでが今から、何かを始めるに違いない。

 出来れば、初めから全部教えてくれてたら良いのに。

 そう思いつつも、私は彼女がそうできなかった可能性かのうせいについて、頭をめぐらせた。


 それはつまり、今日という一日を楽しむことこそが、彼女のねらいだったという可能性かのうせい

 ダメだ。今はそんなこと考えてる場合じゃない。

 私は知ってる。これから発生するであろう異常いじょうを。そして、それを解決かいけつした後に、私が何をするべきなのかを。

 でも、これで本当にいいのかな?

 そう思いながら、私は花楓かえで決意けついに満ちあふれた横顔よこがおを見たのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ