第25話 文化祭
「ふっふっふ、スーミィ、トモミン、遅れずにワタシについて来られるかな!? 時間は限られてるからね、急いで全部の出し物を見て回るよ!」
「ちょっと、全部回るって本気? 一応、私達も含めて全員がクラスのシフトに入ってるんだからね?」
「だから急ぐんじゃん! ちゃんと計画的に回らないとね。演劇系とかの上映時間が決まってるのは、狙い撃ちで行こう!」
「あの……全部回るってことは食べ物も全部買うんですか? 私、食べきれる気がしません……」
「むむっ!? それは確かに……でも諦めたく無いなぁ。そうだ、食べきれなかったら山田君に渡せばいいんだよ!」
「その山田から、たこ焼きを奢ってもらうつもりじゃなかったっけ? それも3食分」
「だから、そのお返しとして、渡すんだよ」
「食べ残しを? 行儀悪いなぁ」
「とりあえずは、お腹と相談しながら、都度都度考えよう!」
「……計画的にって言ってませんでしたっけ?」
文化祭が始まると同時に、今にも駆け出して行きそうな花楓に、私と南は必死に食らいつく。
山田は文化祭が始まってすぐがシフトだったはずだから、もう教室に向かったみたい。
それにしても、花楓は本当に文化祭が楽しみだったんだなぁ。
まるで、初めての文化祭とでも言うようにはしゃいでる彼女の様子は、傍から見てても微笑ましいよね。
私ですら、文化祭の非日常感に少し浮足立ってるんだから。
……って言うか、私が感じてるこの高揚感って、多分、花楓の力で引っ張り出されたものな気がするんだけど。
まぁ、不快な物でもないし、別にいいか。
引っ張り出されたってことは、紛れもなく、私の感情ってことだもんね。
花楓を追いかけながら、南と顔を見合わせた私は、小さな苦笑いを浮かべる。
かく言う南も、嫌がってる素振りは無い。むしろ、少し楽しそうに私には見えた。
そんな私達がまず初めに向かったのは、3年3組の演劇。演目はオズの魔法使い。
教室を貸し切って上演された劇は、ありがちではあったけど、かなり作りこまれてた。
特に、魔法の演出に工夫がこなされてて、見ごたえがあったと思う。周囲もどよめいてたから、やっぱりすごかったみたい。
演じてた魔法使い役の人も驚いてたように見えたけど。あれ、どうやってたのかな?
……まさか、花楓が見せた幻覚、とかじゃないよね?
なんて考えながら拍手してると、隣に座ってた花楓が立ち上がって声を張り上げる。
「感動しました! アンコール! アンコール!」
「ちょっと!? 演劇でアンコールに応えるわけないでしょ!? って言うか、アンコール見てたら時間が足りないじゃん!」
「あはは……」
周囲から注がれる苦笑いから逃れるため、私と南は花楓を引っ張って教室を出た。
恥ずかしいったらないんだけど。ちょっと今日の花楓はハシャギすぎじゃない?
なんていう私の脳内抗議にも構わず、花楓は次の出し物に突き進んでいく。
お化け屋敷では、怖がる南をお化けと一緒になって驚かせ。
生徒手製のイライラ棒では何度も失敗した末に私に泣きつき。
ボーリングでは、見事にストライクを決めて盛大なガッツポーズを披露して見せた。
それはもう、見事に文化祭を楽しんでる彼女の姿が、私には眩しく見える。
まぁ、今日くらいは別にいいよね?
クラスのゴタゴタとか、悩み事とか、そんなこと全部忘れられるのが、祭りってものでしょ?
次第にそんな考えに頭の中が染まっていったのは、仕方ないよね?
一緒に回ってる南も、笑い声が少しずつ大きくなっていってる気がする。
そうこうしてると、すぐに私達3人のシフトの時間がやってきて、渋々、教室に向かった。
シフトをほったらかして、3人で他の出し物を回ってたいけど、まあ、そう言うわけにもいかないよね。
教室に向かう途中に買ったフランクフルトを頬張りながら、私達は教室に到着する。
客の対応をしてたクラスメイトから引き継いで、接客を担当するのは花楓。
受付でスタンプラリーを押したりするのが、南。
そして私は、射的の景品を並べたりバルーンプールの風船を補充したりする雑用役。
私達3人の他にも、あと2人男子がいるけど、全然話したことないからよく知らない。
そんなメンバーで約1時間、仕事をしなくちゃいけない。
正直に言えば、少し不安もあったけど、思ってたより何事も無く時間は過ぎてった。
いつも破天荒な様子しか見てないから忘れてたけど、根本的に花楓は人付き合いがうまいんだよね。
それは初対面に対しても発揮される長所だから、接客にはうってつけらしい。
そんな調子で接客をしていると、山田が教室にやって来た。
一緒に回ってるのは野球部の部員かな?
孤立してたのが友人が出来るまでなったなら、大丈夫そうだね。
両手にたこ焼きを持った彼を観察していると、顔を引きつらせた山田がたこ焼きのパックを渡してくる。
「これ、約束のたこ焼きだ」
「律儀だなぁ」
「お! たこ焼きの良い匂い! 山田君、約束を守ってくれたんだね。ありがとう!」
匂いを嗅ぎつけて、駆け寄ってくる花楓に、山田は何も言わずにたこ焼きを渡す。
そうして、おもむろに南の元に歩み寄った山田は、最後に持ってたたこ焼きを彼女に渡した。
「こ、これ、出来立てって言ってたから、火傷に気を付けて食えよ」
「あ、ありがとうございます。山田君は食べないんですか?」
「お、俺はもう食ったから、それじゃ。シフト、頑張ってな」
なんか、私と花楓に対する態度と、明らかに違うよね?
胸か? 胸のチカラか?
教室から去っていく山田が、部員達に茶化されている背中を見送りながら、私がそんなことを考えてると、傍に寄って来た花楓が小声で言った。
「違うよスーミィ、あれはきっと愛のチカラなのだよ」
「あ~、なるほど」
「黒光さん!? 大心池さん!? な、なにを言ってるんですか!?」
「べっつにぃ~? ね、スーミィ」
「そうそう、青春してるんだなぁって、話してただけだから、気にしないで」
南がどれだけ否定しても、花楓の前じゃそんなものは通用しないからね。
って言うか、なんとなく山田がそんな雰囲気を出してる気はしてたけど、意外と南も満更じゃなさそうに見えるのは気のせいかな?
なんてことがあってからというもの、赤面したままの南をからかってたら、私達の教室に珍客がやって来た。
私がそれに気が付いたのは、見た事のある女子生徒の姿を目にしたから。
佐藤亜美。
そう言えば文化祭の間、全然姿を見ないと思ってたけど、彼女は彼女で回ってたらしい。
とはいえ、1人で回ってたわけじゃなさそう。
って言うのも、佐藤は1人の男子生徒と一緒に教室にやって来たんだ。
「ちょっと先輩……どうしてここに来る必要があるんですか? ウチ、早く別の出し物を見に行きたいんですけど」
「まぁまぁ、僕は亜美ちゃんのクラスの出し物に興味があるから。せっかくだから、見て行こうよ」
そう言って、爽やかなスマイルを南に向けた後、スタンプカードを差し出した男子生徒。
清潔感を漂わせるサラサラの髪型と、整った顔立ち、そしてキラキラとした目を持った彼のことを、私はどこかで見たことがある気がする。
彼のスマイルに動揺したのか、手を震わせながらスタンプを押した南に、佐藤が目を細める。
「こんにちは、ここが亜美ちゃんのクラスの出し物ですね、えっと、縁日か。楽しそうだ」
自分の背後で放たれてる佐藤の鋭い眼光に気づくことなく、男子生徒は教室に入ってきた。
そして、まっすぐに花楓の元に向かったかと思うと、再び爽やかな笑顔を彼女に向ける。
「やぁ、久しぶりですね、黒光花楓さん」
「大塚先輩。お久しぶりです。文化祭の準備と運営、お疲れ様です」
どうやら、花楓はこの男子生徒のことを知ってるらしい。
何で知ってるんだろう?
そんなことを考えた私は、ふと、彼の横顔を見て思い出した。
見たことがある。そう思ったのは当然だ。
だって、今日の文化祭の開会式で、私達一般生徒とは別に体育館の前に並んで立ってたんだから。
あそこにいたってことは、多分彼は生徒会役員ってことだよね。
そんな彼のことを花楓が知ってるのは納得できる。
だけど、彼が花楓のことを知ってるのはなんでだろう?
そんな私の疑問を知ってか知らずか、大塚先輩自身が、答えを告げてくれたのだった。
「ところで、黒光花楓さん。生徒会に入って欲しいって話、考えてくれましたか?」




