第24話 高揚感の源は
結果から言うと、その日以降の佐藤は、なし崩し的に買い出し班のメンバーとして扱われるようになった。
段ボールの収集とか、消耗品の買い出しとか、4人じゃ少し人手が足りないとも思ってたから、普通に助けられたと思う。
そんな私達に影響されたのか、教室で作業をするクラスメイト達にも変化が現れたみたい。
花楓に聞いたところだと、佐藤が買い出し班に吸収されてからというもの、祇園寺が鳴りを潜めたおかげで、作業が一気に進み始めたらしい。
それはつまり、クラスの気まずい雰囲気に飲まれることなく、ちゃんと文化祭を楽しみたいって考えてる生徒が居るってことだよね。
そういう意味では、3つ目の派閥が一番大きいって佐藤の言葉は、あながち間違いじゃなかったのかな。
1週間かけて、出し物を仕上げていった私達のクラスは、初めの遅れを取り戻し、無事準備を終えることができた。
そして文化祭当日の今日、まだ朝早くから教室に来てしまった私は、同じく早い時間に教室にやって来た南と2人で、ボーっとしてる。
買い出し班だった私達も、準備の終盤は買い物に行くよりも教室で作業を手伝うことが多かった。
おかげで、教室の壁に貼り付けられてる装飾類のうち、どれが私の作ったものか、ある程度見分けられるようになってる。
まぁ、そんなこと分かっても何の意味も無いんだけどね。
「大心池さんって、手先が器用ですよね……」
「そう? まぁ、細かい作業は好きだけど。そういう南さんの方が、多芸だと思うんだけど」
すっかり隣にいることが多くなった南智美。
彼女にそう言った私は、射的のコーナーに目を向けた。
文化祭に遊びに来る客の中には、幼い子もいる。
そんな子どもたちにも楽しんでもらえるようにと、私達の出し物の随所には、彼女が作った可愛らしい猫のキャラクターがあしらわれてる。
デザインもイラストも、全部南が手掛けたもの。
素直にすごいと思う。
って言うか、羨ましいんだけど。その才能、少しだけでも分けて貰えたら、編み物が上手くなれるんだろうな。
「私なんか全然……絵を描くようになったのも、家ですることないから、家事の合間に楽しんでただけなので」
「どんな理由だって、楽しめてたんならそれでいいと私は思うけどな。しかも、それで上手になったんでしょ? だとしたら、それは紛れもなく南さんの特技だよ」
「そ、そうでしょうか……」
「私が適当言ってるとでも?」
「そ、そんなつもりは!」
「冗談だって」
こうして南と2人で会話するようになるなんて、1か月前の私は想像もしなかったな。
そもそも、彼女のことを何も知らなかったし。
いやまぁ? 今も詳しく知ってるワケじゃないけど、少しだけ、彼女との話し方くらいは分かってきたかもしれない。
冗談だという私の言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす南。
そんな彼女に、私は1つ質問したくなった。
「そういえばさ、南さんにとって、祇園寺ってどんな奴に見えてるの?」
「え? 祇園寺君、ですか?」
不思議そうな表情で首を傾げる彼女に、私は頷いて返事をする。
「……あんまり話したことないので、良く知らないですけど、正直、ちょっと怖いです」
「どうして怖いの?」
「どうして……なんでしょうか。なんていうか、祇園寺君って、何をやらせても上手くこなしちゃう、凄い人って印象が強いんです」
「ふーん。そうなんだ? 私はそんな風に思ったことないけどなぁ」
「大心池さんも、私から見れば何でもこなしてしまいそうに見えますよ?」
「え? それじゃあ、私のことも怖いの?」
「……本音を言えば、少し怖かったです」
「へ~」
「で、でも、話してみたら怖くなかったですし! 思ってたよりも話しやすかったので、その……あ、何でもないです」
「なに? そこまで言うなら最後まで聞かせて欲しいんだけど?」
「そ、それは、恥ずかしいのでダメです」
「まぁいっか。で、何でもこなすのが、どうして怖いの?」
「……うまく言えてるのか分からないですけど、祇園寺君が出来ることを私が出来なかったら、なんて言われるんだろう、って。思っちゃうんです」
なるほど、南の言いたいことはなんとなく分かった。
怖いっていうより、南に自信が無さすぎるだけな気もするけど、祇園寺の特徴を現す一つの見方としては、面白いかもしれない。
そんなことを考えてると、不意に教室の扉を開けて山田が入って来た。
「2人とも早いな」
「おはようございます。山田君も早いですね」
「俺はまぁ、ちょっと走り込んで来ただけだから」
「文化祭当日の朝に走り込みって……もの好きにも程があるでしょ」
「いいだろ別に」
「悪いとは言ってない。むしろ褒めたつもりだけど」
「え? 褒めてたんですか?」
「南、大心池の感覚がズレてるだけだ。無視しといたほうが良いぞ」
肩から提げてた鞄を、教室の隅に置いた山田は、その辺にあった椅子に腰を下ろす。
そんな彼を睨んでた私は、1つ息を吐くとともに気を緩めて、口を開く。
「ところで、山田にとって祇園寺ってどんな生徒に見えてるの?」
「急になんだよ?」
「ちょっと気になっただけ。で、どうなの?」
「変な奴だなぁ……祇園寺か。まぁ、そうだな。バスケに関してはかなりストイックだって話なら聞いたことがある」
「そうなんだ?」
「らしい。聞いた話だけどな。でもま、確かに練習はしっかりこなしてるみたいだぞ?」
そう言った後、大きな欠伸をする山田の言葉を引き継ぐように、南が小さな口を開いた。
「そう言えば、夏休み前に、佐藤さんがいつも愚痴を言ってたのを覚えてます」
「愚痴?」
「はい、全然かまってくれないって」
「あぁ、なるほどね」
「案外、そういったすれ違いが原因で、あの2人は別れたのかもな」
まさに他人事と言わんばかりに、大きな背伸びをしながら呟く山田。
彼のその言葉に、なんて反応すればいいのか、少し悩んでたところで、廊下からパタパタという軽快な足音が響いて来る。
その足音だけで、私達3人は誰がこの教室に向かって来てるのか、察することができたらしい。
互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた後、全員で扉に視線を向ける。
直後、ガラガラッという扉の開く音と共に、花楓が姿を現した。
「おっはよ~う! ついに文化祭だね!! って、買い出し班しか集まって無いジャン!!」
「まだ朝早いですし……」
「そうだな。それに、佐藤は来てないぞ……って、そう言えばあいつは買い出し班ってわけでも無いのか」
「あ、山田君! 佐藤さんを除け者にするつもりなのかな!?」
「そう言うわけじゃないけど」
「山田君、チクられたくなかったら、私達3人にたこ焼きを奢ってください!」
「それくらいなら別に奢るけど」
「やったぁ! それじゃあ、その場で食べる分と、持ち帰り分として翌日の朝とお昼の分まで奢ってもらおうかな」
「奢るか!! って言うか、どんだけ食う気だよ!?」
「ふふふ……」
花楓が来るだけで、静かな教室が賑やかになっていく。
そんな3人を眺めながらも、私は今しがた2人から聞いた話を頭の中で整理してた。
そうすれば、花楓も内容を把握できるはずだし、きっと、それが何かの役に立つはずだから。
「スーミィ? 何を考えてるのかな?」
「別に? って言うか、花楓は相変わらず朝でもテンション高いよね」
「朝早くから教室で待機してるスーミィに言われたくないなぁ」
それを言われたら、ぐうの音も出ない……。
それからしばらく、4人で談笑していると、少しずつクラスメイト達が教室に顔を出し始めた。
それに合わせるように、学校全体が賑やかになっていく。
程なくして、校内放送で体育館に集められた私達は、開会式に参列した。
1か月間準備を進めて来た文化祭が、ついに開幕する。
高校で初めての文化祭。
際限なく湧き出して来る、この高揚感の源はどこなんだろう?
なんとなく花楓に視線を向けた私は、いつにも増してにこやかな彼女の表情に、答を見た気がしたのだった。




