第23話 3つの派閥
教室を出た私は、後ろをついて来る佐藤と南に構うことなく、下駄箱に向かった。
当然、その時点で2人は私の目的地が職員室じゃないことに気が付いたはず。
それでも黙って着いて来るってことは、職員室に行くのが得策じゃないことを理解してるのかな?
本当に職員室に行って、田中先生から変な疑念を持たれるのは避けたい。
それが私の考え。
佐藤はもちろん、公開処刑の件で注目を浴びてるし、私も私で、変な噂の的になってしまってる。
そんな2人が一緒に、何の用事もないのに職員室辺りにいるのを見られたら、変に思われるかもしれない。
考えすぎかな?
ともかく、そんなリスクを冒すよりも、さっさと学校から出てしまった方が、何かと処理が簡単だよね。
念のため、背後に注意を向けながら教室を出たけど、誰かが尾行してくる気配は無かった。
これだったら、職員室に行った後、すぐに帰ったって言い訳もできる。
幸いなことに、1年2組の教室から正門を見ることはできないし。
なんなら、花楓に頼んで誰かの記憶を操作してもらうのも1案だ。
佐藤も南も、何も喋らない。
気まずい空気の中、淡々と靴を履き替えて正門に向かった私は、花楓たちの向かったスーパーを目指す。
正門からスーパーまでは、歩いて10分くらいだ。
もしかしたら、途中で段ボールを貰って引き返して来る花楓たちと遭遇するかもしれない。
なんてことを考えていると、背後から佐藤が声を掛けてきた。
「どういうつもり?」
「何が?」
「なんであんなことしたのか、って言ってんの」
「何でって、単に気に喰わなかったから」
「は?」
「だって、私達は頑張って文化祭の準備をしてるのに、あいつらは遊んでたわけでしょ? なんか気に喰わないから、おもちゃを取り上げただけ」
「っ!?」
間違っても、親切心じゃない。
仮にも、佐藤亜美は私と花楓の仲を裂いて、自分だけ助かろうとしてた女だしね。
友達でもなんでもない。
だから、本音を言えば自分の身を危険に曝してまで助けたいとは思えないんだけど。まぁ、花楓からの依頼でもあったし。
別に、アンタの為ってわけじゃないんだからね! ってところかな?
今回に関しては、言葉の意味そのままだけどね。
「ウチはおもちゃだって言いたいわけ?」
「実際おもちゃにされてたようなもんじゃん。それとも景品かな? 射的の」
「……あの、お、落ち着いてください」
ピリつく私と佐藤の間に割って入った南が、困ったような表情で私を見上げてくる。
声も身体も震わせながら、それでも割って入って来た彼女に、私は少し驚いてしまった。
てっきり、こういった揉め事には徹底して関わらないで、時間が過ぎるのを待つタイプだと思ってたから。
だけど、彼女は彼女なりに考えてるらしい。
そんな彼女の勇気を前に、私は一瞬、佐藤と視線を交わす。
目は鋭いけど、これ以上口げんかをするつもりは無くなったらしい。
取り敢えず、私も佐藤と言い合いをする気が失せたから、今度は質問をすることにした。
「なんで抵抗を諦めてたの?」
「あいつらに言い返しても意味なんかないから」
「あいつら、ねぇ……私にはよく分からないんだけど、どうしてあんなことがあったのに、祇園寺の取り巻き達は離れていかないわけ?」
前々から不思議に思ってたこと。
公開処刑っていう、祇園寺にとって不都合な事実が明るみになった事件があったのに、どうして彼の周りから人が遠ざからないのか。
彼の元彼女なら、何か知ってるかもしれないよね。
そんな私の思惑が当たったのか、佐藤は眉間にしわを寄せたかと思うと、ポツリと告げる。
「結構な人数が離れたはずだよ。だから、今もあいつの周りにいる奴らは、まだあそこに残ってるってだけ」
「まだ残ってる、か。なるほどね。その残ってる人たちは、よっぽど彼と仲が良かった人たちなの?」
「……本当に何も知らないんだ? クラスの事なのに」
「……それはまぁ、興味も無かったし」
呆れたと言いたげな目が、鋭く刺してくる。
佐藤のその視線だけなら、私も意に介さなかったかもしれないけど、今回は南の視線もセットだった。
彼女のそれは、呆れたというよりは驚きの方が強いみたいだけどね。
「それじゃあ、今クラスが3つに分断されてることも知らないわけ?」
「は? 3つに分断? どういう意味?」
「それ、マジで言ってる?」
その言い方は失礼じゃない?
って言いたいけど、佐藤の反応が普通なんだろうな。
言い返しても意味はないと判断した私は、大人しく佐藤の説明に耳を傾けた。
つまるところ、クラスメイト達は大きく分けて3つの派閥に分裂してるとのこと。
1つ目が、祇園寺派。
主要メンバーは、祇園寺をはじめとした男女8人。
そのメンバーの殆どが、いわゆる陽キャと呼ばれる生徒たちらしい。
元々は、佐藤もこの派閥に属してたんだろうけど、今はそうでも無いってことだ。
2つ目が、反祇園寺派。
これは祇園寺に反発している生徒を総称してるとのこと。
つまり、花楓と私も、この派閥に入ることになる。
他には、佐藤と吉田なんかが該当するらしい。
そして最後の3つ目が、その他生徒たち。
基本的に2つの派閥のどちらにも属していない生徒が、この派閥になるとのこと。
それは派閥って言うの?
とも思うけど、佐藤曰く、1年2組で一番大きな派閥らしい。
まぁ、言いたいことは分かるけどね。
その場の空気に流される人達って感じかな?
そういう意味では、南もこの派閥になるんだろうな。
公開処刑以後、元々影響力のあった祇園寺派と、反祇園寺派の対立が深まったことで、派閥の溝がより明確になったらしい。
どうでも良いけど、世の高校生の大半は、クラス内で起きてるこんなどうでも良いことを気にしながら生きてるワケ?
それは流石に窮屈過ぎないかな?
色々と思う所はあるけど、なんとなく、今のクラスの状況を知ることができた。
そういう意味では、佐藤に感謝しなくちゃだね。
と、佐藤の説明がひと段落したところで、私達はスーパーの駐車場に辿り着いた。
今の所、花楓たちとはすれ違ってない。
ってことは、まだスーパーの店員と交渉中かな?
そう思い、私がスマホを取り出したところで、不意に佐藤が口を開いた。
「じゃ、ウチはここで」
「ちょっと? 何言ってんの?」
花楓に電話を掛けようとしていた手を止めて、私は佐藤の腕を掴む。
怪訝そうな表情で私を見て来る佐藤。
そんな彼女に、私は躊躇うことなく告げた。
「今から段ボールを運ぶんだけど、手伝ってくれない? 人手が足りないんだよねぇ」
「なんでウチが……」




