第20話 花柄か水玉か
私達のクラス、1年2組は文化祭で射的などのミニゲームをすることになったらしい。
『など』の部分については、未定だって花楓が言ってた。
初めは射的だけだったけど、流石に少なすぎると生徒会から指摘があったとのこと。
まぁ確かに、教室全体を使ったお化け屋敷とか、クラス全員参加の演劇に混ざってたら、悪目立ちするかもね。
そんなこんなで、吉田の言ってた当番役を極力減らしたいっていう思惑は、想定通りとまではいかなかった。
それでも、かなり楽な部類だから、個人的にはありがたい。
「ちょっとスーミィ? ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。で、なんだっけ?」
「聞いてないじゃん!」
憤慨する花楓の両手には、花柄のテープと水玉模様のテープが握られてる。
今私達は、買い出し班としての役割を全うしてるところ。つまり、放課後の時間を使って、出し物に使う消耗品の買い物に来てるワケだ。
もちろん4人でね。
「どっちがウチのクラスに合ってると思う?」
「え? その2択なの?」
どうやら花楓の脳内はお花畑らしい。
そういう意味じゃ、花柄が正解なのかな?
私が適当にそんなことを考えていると、花楓がため息を溢す。
勝手に聞いておいて、失礼じゃない? って言うか、聞く必要あった?
「スーミィに聞いたワタシが馬鹿だったよ! それじゃあ、トモミンはどう思う?」
「ふぇ? わ、私、ですか? どっちかと言われたら、水玉の方……だと思います」
不意に声を掛けられて、手にしていたストライプ柄のテープを落としそうになったのは、南智美。
少し癖の入った長い黒髪を背中で束ねていて、柔らかさを感じさせる顔立ちの美少女だ。
性格はかなり引っ込み思案なのか、いつもオドオドしてる。
役割分担から1週間、彼女を見て分かったことがある。
それは、彼女の仕草は男子にとって破壊力があるってこと。
まぁ、小柄で大人しい彼女に、眼鏡の奥から綺麗な目で見られたら、動揺するよね。
そう思いながら、彼女の豊満な胸と彼女の隣に立ってる山田を見比べた私は、一人で静かに納得する。
「水玉かぁ……なるほど、風穴ってワケだね」
「どんな発想してるんだよ」
「そ、そんなつもりで言ったわけじゃないですよ!?」
水玉と答えた南をじっと見ながら、頷いた花楓。
もちろん山田は呆れた表情をしてるし、南は慌ててる。
うん、南が風穴なんてそんな物騒なことを考えるわけないから、きっと花楓の勝手な妄想なんだと思うことにしよう。
そうだよね?
「射的なんだから、弾痕があってもおかしくないでしょ? さすがはトモミンだね。スーミィも見習ってほしいよ」
「はいはい、どうでも良いから早く買って来てよ」
「は~い」
こんな感じで、適当に雑談をこなしながら要るものリストに沿って買い物を続けてる。
荷物持ちは山田だ。
買い物かごを持った花楓は、手にしていたテープを両方かごに入れた後、レジに向かった。
って、両方買うつもり?
どうでも良いと言った手前、指摘することもできないまま、私は花楓がレジ袋を山田に手渡すのを眺めた。
既に幾つもの袋を手にしてる山田。
これ以上の買い物は難しそうだと判断した私達は、そのまま一旦学校に戻る。
既にもぬけの空になってる教室に荷物を置いた私達は、そのまま解散した。
こんな日が、もう数日続いてる。
いつも教室に戻った時には誰も居なくて、本当に作業が進んでるのか疑問だけど、特別やる気があるワケじゃないから、放置するしかないよね。
それよりも、毎日のクラスの様子に大きな異変が無いことに、私は少し安堵してた。
かなり居心地の悪い空気が漂ってれば、誰かの感情が暴発してもおかしくない気がしたから。
でも、そんな素振りは無いし、花楓も何も言ってこない。
きっと、取り越し苦労に終わるに決まってる。
そんな楽観的なことを考えながら、ベッドにもぐりこんだ私は、今日も今日とて眠りに落ちる。それから2週間は特に何も起こらず、私達は学生生活を過ごしながら文化祭の準備を進める。
そして、その日がやって来た。日付は10月22日の木曜日。
いつも通り、朝目が醒めた私は、朝食を終えて身支度を整えた後、家を出たところでチャットが届いてることに気が付いたんだ。
差出人は……花楓。
そのことに気が付いた私は、少し嫌な予感を覚えながらも、チャットを開く。
『今日の放課後、できれば佐藤ちゃんを助けて欲しいな。できればで良いからね! あと、このチャットのことは、学校で話さないこと! それじゃ、また学校でね』
「どういう意味? 私が佐藤を助ける? って言うか、なんで学校でこのことを話しちゃいけないの?」
理由も目的も良く分からない。
だけど、何かが起きる事だけは読み取れる。
そんな不穏なチャットを何度も読み返しながらバスを待った私は、結局何も分からないまま、スマホの画面を消す。
多分、考えても意味はない。
花楓は私達の考えを完全に把握してるんだろうけど、私は何も分からないんだし。
「このチャットの内容に触れなきゃいいんだよね?」
近づいて来るバスを見ながらそう呟いた私は、教室についた後、どうやって花楓をからかおうか頭を巡らせる。
それくらいさせてもらわないと、対等とは言えないでしょ?
なんて、自分の中のちっぽけな憤りを鎮めた私は、気を引き締めて教室に向かった。




