第19話 役割分担
テスト最終日の金曜日を終え、当分勉強するつもりのない私は、週末を使って出かける予定を入れてた。
って言っても、1人だけどね。
まず初めに向かったのは、電車で一駅離れたところにある大きな商業施設。
ここには私の行きつけの美容院があるんだ。
まずは、しばらくの間行ってなかったせいで伸びてしまってた髪の毛を整えてもらおう。
この際、奇抜な髪形にしてもらおうか、なんて冒険心が私にあるワケがない。
いつも通りの落ち着きのある髪形に満足した後は、本屋と裁縫具店に向かった。
趣味の編み物に関する品々を幾つか購入して、そのまま帰路につく。
うん。かなり充実した一日だよね。
まだ昼過ぎだけど、そんなことは関係ない。
そんな充実した土曜日を過ごした後、日曜日は家で体を休め、早くも月曜日を迎える。
休日で身体の疲れを取ったはずなのに、月曜日が一週間で一番やる気が出ないのは不思議だよね。
とまぁ、毎週のように繰り返し味わってるダウナーな気分を、泡立った洗顔料と一緒に洗い流した私は、制服に着替えて学校に向かう。
こうしてると、私の世界は学校と家くらいしかないのかなって思っちゃう。
そう考えれば、土曜日のお出かけは宇宙旅行かな?
そんなわけないか。
「おはようスーミィ! 今日も……あれ? 髪切った?」
「そうだよきったよ、どうしてわかったのー」
「見れば分かるよっ!!」
見ればって何を? 心?
「むぅ……」
どうやら図星だったらしい。
悔しそうな顔の花楓に小さな笑みをお見舞いした私は、ふと、教室の奥にある山田の席に目を向ける。
まだ教室には来てないみたいだね。
まぁ、金曜日の様子だと大丈夫そうだったから、心配する必要はないのかな。
「あれれ~? スーミィ、どこを見てるのかなぁ?」
「ん? 山田の席だけど」
「それ、言っちゃうんだね。まぁ、良いけど。でもそっかぁ、金曜日にそんなことが……」
何も言わなくても、花楓は私と山田の間で交わされた会話について把握したみたい。
こうして伝えなくても伝わるのは、案外便利かもしれないなぁ。
「まぁね。そう言えば、金曜日は体調悪そうだったけど、大丈夫だったの?」
「うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」
いつものように満面の笑みを浮かべる花楓は、本当に元気そう。
ちょっと元気すぎる気もするけど、悪いことじゃないよね。多分。
ホームルームが始まるまで花楓と他愛もない話をしていると、クラスメイトが少しずつ揃い始める。
そんな中で最後の最後に教室にやって来た山田が、席に着いたのとほぼ同時に、田中先生が教室に入ってきた。
それからはいつも通り、授業と昼休みが滞りなく進んでいく。
そして、一日の最後にやってくるホームルームの時間。
いつも通り先生から事務連絡があるのかと思ってたけど、時期が時期だけに、そう言うわけにもいかないらしい。
「というワケで、この後ホームルームの時間を使って、クラスの出し物を話し合ってください。決まったら私に報告に来るように」
そう結んだ田中先生が教室を出た後、私達のクラスに沈黙が走る。
時間ってのは早いもので、明後日には9月が終わって、木曜日から10月に入るんだ。
前にも先生が言ってたけど、10月の末には文化祭があるワケで、その出し物を考えなくちゃいけない。
と言っても、そんな大規模な文化祭じゃないらしいから、適当に済ませても良いのかもしれないね。
って言うか、適当の方が良いと私は思う。
なぜなら、今の私達のクラスには最悪な空気が流れてるから。
ここ1週間くらい、私を含めたクラスメイト達は全員、中間テストの勉強に集中してた。
それはある種、この空気の悪さから目を逸らす口実にもなってたのかもしれない。
逆に言えば、その間、この空気の悪さは変化することなく留まり続けてたってことだよね。
淀んだ空気が留まり続ければ、当然だけど臭いみたいなものが染みつくワケで、その悪臭が私達の悪習に変わっていく。
先生が出て行ってから、誰一人として言葉を発さない。
まして、クラスの出し物を決める司会に名乗り出る人なんて、居るわけがない。
今すぐに立ち上がって、教室から逃げ出したいけど、そんなことをしようものなら、文化祭の準備を全て押し付けられる可能性もある。
ここはただひたすら、状況が動くのを待つのが良さそうだなぁ。
長期戦を覚悟した私が、なるべく音を立てないように両手のストレッチをしようとしたその瞬間。
唐突に一人の生徒が立ち上がった。
以前、佐藤とひと悶着あった吉田だ。
彼女はおもむろに黒板まで歩いて出ると、チョークを手に取って何かを書き始める。
「射的?」
誰かがボソッと呟いた。
吉田が黒板に書いた言葉を、読み上げたらしい。
そんな声に反応するように、吉田が口を開く。
「私は射的を提案します。理由は、当日の対応が楽だからです。クラスの出し物の当番で、ずっと教室に居なきゃいけないのは嫌だし」
あっけらかんと言ってのける吉田。
多分本気でそう思ってるんだろうなぁと思えるほど、彼女の目は冷めきってるように見えた。
そんな彼女の提案に、チラホラと賛同の声が上がり始める。
多分、誰も本気で考えてない。
まぁ、私もその中の一人だけどさ。
このまま微妙な空気のまま時間が進んでいくことだけは避けたい。
そう考えた私は、「賛同者は挙手を」と求められた声に、すかさず手を上げて応えた。
何を考えてるのか、花楓も大人しく手を上げてる。
なんとなく、彼女なら『もっと楽しいことをしようよ!』的なことを言うのかと思ってたけど、そんなつもりは無いらしい。
そうして少しずつでき始めた流れに任せるように、私達は全員の役割分担までやってしまった。
【買い出し班】大心池須美(班長)、黒光花楓、南智美、山田哲平
「どうしてこうなったの……?」
「どうしてって、スーミィ全然反対しなかったじゃん。提案はもちろんワタシ。どう? 面白いでしょ?」
「……」
流れに身を任せて、適当に済ませてしまおう。
そんなことを考えて話し合いに全然参加しなかったのが悪かったみたい。
申し訳程度に書かれてる(班長)という文字に苦笑いしか出てこない。
「よろしくな」
そう声を掛けて来る山田と、その隣でおどおどしている小柄な眼鏡の女子生徒、そして満面の笑みを浮かべてる花楓を見て、私は深いため息を吐いたのだった。




