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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第3章 塔

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第18話 初心に帰る

 佐藤さとう花楓かえで、そして私の3人でかこんだ昼食ちゅうしょくの席は、それはもうひどいものだった。

 親睦しんぼくふかめるどころか、みぞふかまった気がするんだけど。

 まぁ、それもふくめて花楓かえでは知ってたはずだよね。


 多分たぶん佐藤さとう花楓かえで味方みかたに付けたかったんだろうな。

 たしかに、その考え自体じたいわるくないと私も思う。

 これから先、今のクラスでやっていくために、彼女には仲間なかま必要ひつようだ。

 でも、やり方がわるかったのと、相手あいてわるかったんだと思う。


「それはどういう意味かな?」

 すっかり私の部屋へや馴染なじみ始めている花楓かえでが、テーブルの向かいから笑みをげかけてくる。

「そのままの意味よ。って言うか、花楓かえでって勉強べんきょうする意味いみあるの? カンニングし放題ほうだいじゃん」

失礼しつれいな!! ワタシはこう見えて、そのへん真面目(まじめ)なんだからね?」

「こう見えてって、この場合ばあいは使わないと思うんだけど」

「そんな細かいことは良いんだよ! それより、ワタシは人に勉強べんきょうを教えるのが得意とくいなんだよ~。ほら、スーミィもその恩恵おんけいにあずからないかい? 今ならタダだよ? タダ!」

「あ~、たしかに。その人の分かって無い所が分かるんだもんね、それは分かりやすそう。普通ふつう恩恵おんけいにあずかりたいな」

予想よそうはんして素直すなおっ!! ま、まぁ、スーミィがそこまで言うなら、おしえてあげても良いけど」


 すこほこらし気に小さなむね花楓かえで

 そんな彼女の胸元むなもとを見た私は、ふと思った。

 ……そういう意味では、花楓かえでってエッチも上手うまそうだよね

「ちょっと!? 話が脱線だっせんしすぎじゃない!?」

きゅう大声おおごえ出さないでよ。ほら、集中しゅうちゅうしよう」

「むぅ……」


 顔をあからめ、納得なっとくいかない様子の花楓かえでを放っておき、私は勉強べんきょうに集中する。

 悪い成績せいせきを取って、両親りょうしん喧嘩けんかたねになんてなられたらこまるしね。

 テストまでのこりわずか、時間を無駄むだにはできない。


 そうして、放課後ほうかごとか休日まで花楓かえで一緒いっしょ勉強べんきょうをする中で、私は佐藤さとうがクラスの中で完全かんぜんき始めていることに気が付いていた。

 と言っても、それをどうこうしようなんて思わない。

 自分をおとしれようとしてきた人をこのんでたすけるほど、私もおろかじゃないんだ。

 そしてそれは佐藤さとう自身(じしん)もよく理解りかいしてるみたいで、あれ以来いらい花楓かえでや私に話しかけてくることは無かった。


 少しだけ懸念けねんのこるけど、当分とうぶん普通ふつう学校生活がっこうせいかつおくれそうで良かった。

 テスト期間中きかんちゅう騒動そうどうが起きるのはやめて欲しいしね。


 そんな私の願望がんぼうは、無事ぶじに聞きとどけられたらしく、3日間の中間ちゅうかんテストが始まる。

 豪語ごうごしていただけあって、花楓かえで勉強べんきょうおしえてもらった私は、それなりに手ごたえをかんじた。

 いや、もしかしたら私自身の才能さいのう開花かいかしただけかも。

 なんて言ったら、花楓かえでおこるのかな?


 そんな私の考えなんて無視むししてしまうほど、へとへとにつかれている様子の花楓かえでは、最後さいごのテストが終わってすぐに帰宅きたくして行ってしまった。

 まぁ、花楓かえでつかれるのも分かる。

 彼女からすると、つねあたまの中にながれて来るこころこえ意識的いしきてき無視むししながら、問題もんだいいてるわけだ。

 私なんかよりも数段すうだんつかれをかんじてるにちがいない。

 それでも、絶対ぜったいにカンニングしていないと言い切れるのが、彼女のすごい所かもなぁ。


 なんて思いながらかえ支度じたくをした私は、そそくさと教室きょうしつを出て帰宅きたくしている生徒せいとなみる。

 あたりを見渡みわたせば、つかれ切ったかおの生徒ばっかりだ。

 それでも、みんな共通きょうつうしてれやかな雰囲気ふんいきかんじるのは、今日がテスト最終日さいしゅうびだからだよね。

 私も今日は、はやく家に帰ってゆっくりしよう。


 そう思った直後ちょくご、ポーンッというかわいた音がどこからともなく聞こえてきた。

 定期的ていきてきなリズムをきざむその音は、グラウンドの方から聞こえて来るらしい。

 なんとなく、そのおとの方に目をやった私は、山田やまだおぼしき姿すがたを見つける。


 グラウンドの片隅かたすみにあるかべに向かって、一心不乱いっしんふらんにボールをげている山田やまだ

 テストがわったってのに、よく頑張がんばるなぁ。

 普通ふつう、今日くらいは休もうとか思わないのかな?

 ストイックな彼の姿すがたに、少し感心かんしんした私は、だけど、そうじゃないってことに気が付いた。


 山田やまだは今、普通ふつう状態じょうたいじゃないんだ。

 花楓かえでって言うイレギュラーにき込まれた結果けっか、彼はいくつかの感情かんじょうを切り取られてしまってる。

「……大丈夫だいじょうぶだよね」


 おもわずそうつぶやいた私は、一ついきき出した後、山田やまだのいるグラウンドの方に向かう。

 理由りゆう単純たんじゅんで、なんとなく、彼の様子ようすを見ておいた方が良い気がしたから。


 かべに当たるたびかわいた音をひびかせるボールを、山田やまだあざやかにキャッチする。

 そうしてふたたげるをかえした後、つかれたらしい山田やまだは、一度いちど投球とうきゅうをやめてあせぬぐい始めた。


 その時、チラッとこちらに目をやった山田やまだが、ようやく私の姿すがたに気が付く。

「……大心池おごろち?」

意外いがいだね、私の名前をおぼえてるんだ」

「いや、流石さすがおぼえてるだろ。クラスメイトだし」

「そんなもん? 私はあんまりクラスメイトの事知らないけど」

「知らないって……知ろうとしてないだけの間違まちがいだろ?」


 そう言ってふたたびボールをげだした山田やまだは3きゅうげた後、不意ふい投球とうきゅうを止めた。

「何か用か?」

「いいや、別に。こんな日でもストイックに自分をいじめてる人の生態せいたい興味きょうみいただけ」

「……へんやつだな」

「おたがい様でしょ」


 私の言葉をはなで笑った山田やまだは、肯定こうていするようにボールを投げた。

 直後、かべの小さな出っりに当たったボールが、変な方にねていく。

命中めいちゅうしたじゃん」

「これは命中めいちゅうって言わない」

「そうなんだ?」

「そうだろ」

「それ、楽しいの?」

「は?」

「一人で投げてて楽しいのかなぁって思ってさ」

「……まぁ、程々(ほどほど)に楽しいぞ」


 そう言った山田やまだころがったボールの元に歩みると、それをひろい上げた。

 そして、の中にあるボールを見つめたままだまり込む。

「どうかした?」

「……いや、大心池おごろちと話してると、なんか不思議ふしぎ感覚かんかくになるなぁって思って」

「ごめん、私、坊主ぼうす無理むりかも」

「そういう意味いみじゃない。なんていうか、つい最近さいきん、同じ感覚かんかくになったことがある気がするんだけど」


 ここまで話してはっきりしたけど、山田やまだはあのとき部室ぶしつきたことをほとんど覚えてないみたいだ。

 間違まちがいなく、花楓かえで仕業しわざだよね。

 だとしたら、あんまり記憶きおく刺激しげきするようなことはしない方が良いのかな?


 そろそろ退散たいさんしようかと思って、私がきびすを返そうとした時。

 山田やまだ不意ふいに声を掛けてきた。

「なぁ、大心池おごろち初心しょしんかえるって言葉ことばってるだろ? あれ、実感じっかんしたことあるか?」

「え? 初心しょしんかえる……まぁ、無いことは無いけど。どうして?」

「俺さ、最近さいきんよく野球やきゅうを始めたばかりの時を思い出すようになったんだ」

「そうなんだ?」

「それってさ、当たり前だけど、ヘタクソだった時期じきのはずだよな? でも、正直しょうじきに言えば、俺は今よりもヘタクソだった時期じきの方が楽しかったような気がする」

みんなそんなもんじゃない?」

「そうなのか? 俺はてっきり、上手じょうずになって活躍かつやくできるようになれば、もっともっとたのしくなるって思ってた」

「まぁ、中にはそう言う人もいるのかもね」

「そうだな……わるい。変な話して。忘れてくれ」


 そう言った山田やまだは、私の事なんて忘れたように、ボールをはじめた。

 そんなかれ姿すがたに、少しだけうらやましさをおぼえながら、私はその場を後にする。

 没頭ぼっとうする彼の邪魔じゃまをするのはもうし訳ない。

 そう思ったから。

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