第17話 いやな予感
部室での一件の後、一夜を共に(?)した私と花楓は、山田の様子を確認することもできないうちに、佐藤亜美に絡まれた。
絡まれたって言うのは、まぁ、私の偏見かもしれないけど。
話があるってことだから、今日は花楓と3人で昼食を摂ることになるらしい。
正直に言えば、気が乗らない。
そんな本音を口に出して抗議したつもりだけど、花楓の思い付きは止められないよね。
これ以上、心の中で愚痴をまき散らしてたら、子犬みたいな目で花楓がこっちを見てきそうだから、やめとこう。
いつも通り、教室に入って来た田中先生に意識を集中して、彼の話を聞く。
「さて、久しぶりに全員揃ったな。分かってると思うが、来週の水曜日から中間テストだ。もう1週間切ってるからな。色々あったとはいえ、気を緩めないように」
朝っぱらから気の重くなる話をしないで欲しい。
多分今なら、私もクラスメイト達の心を読める気がする。
「中間テストが終われば、10月末にある文化祭の準備が本格的に始まるからな。メリハリを大事にな」
そう結んだ田中先生は、受け持ちの授業が迫ってるのか、急ぐように教室を出て行った。
中間テストと文化祭か。
やっぱりちゃんと勉強しなくちゃだよね。
なんてことを考えていると、時間はあっという間に過ぎ去っていく。
気が付けば昼休みに突入するチャイムを耳にしていた私は、隣の席に目を向けた。
「行こっか!」
ルンルンと気分上々の花楓が、そう言って立ち上がる。
そのまま佐藤の方に駆けて行った彼女の背中を見ながら、私は財布とスマホを手に立ち上がった。
「友達とお昼ご飯だなんて、久しぶりだなぁ」
クラスで浮いてる花楓は、確かにいつも1人でご飯を食べてる気がする。
最近は私も隣の席で食べてたけど、それは確かに、一緒に食べたとは言わないよね。
なぜかムゥって頬を膨らませる花楓が、佐藤の腕を引っ張って連れて来た。
「売店でパンでも買う? それとも、学食に行く?」
「え? ウチは何でも……」
「学食に、レッツゴー!」
「ちょ、ちょっと、そんなに引っ張らなくても……」
花楓はいつもの調子みたい。
そんな彼女たちの後について教室を出ようとした私は、扉から見て一番奥の最前列の席で、山田が黙々とご飯を口にかき込んでるのを目にする。
あのあと、何事も無く目覚めたみたいだ。
怪我とかもなさそうで、取り敢えずは良かったと思っておこう。
と、そんな様子に少し安心しかけた私は、視界の端から注がれる鋭い視線に気づいた。
祇園寺壮馬。
雰囲気だけで視線の主が彼だと判断した私は、視線に気づいていないフリをしながら教室の扉を閉めた。
彼が学校に復帰したのは今日。
と言うことは、半日が過ぎた今、クラスに蔓延してる噂を耳にしていてもおかしくない。
それは、私と花楓が祇園寺を嵌めた黒幕だって言うもの。
いや、事実なんだけどさ。
なんで花楓はこれを放っておくんだろう?
そんなことをしたら、祇園寺が……って、いやそうか。花楓からすると、祇園寺も救う対象に入ってるってコトなのかな?
ワザと彼を煽って、感情を表に出させようとしてるってことなのかな?
そういう意味では、今こうして佐藤と接触してるのも頷ける気がする。
でも、なんか嫌な予感がするんだよねぇ。
なんていうか、祇園寺のさっきの視線は、普通のそれとは違う気がする。
似た感じなら、裁ちバサミと山田の黒い手にも感じたことがある。
と言うことは、次のターゲットは祇園寺ってこと?
後で花楓に聞こうと思った私は、列をなす生徒たちの最後尾に並んだ。
もちろん、すぐ目の前には花楓と佐藤が居る。
すっかり話し込んでる2人の間に、私は入って行けそうにない。
って言うか、佐藤がこんな普通に花楓と打ち解けるとは思ってなかったな。
「ところでさ、花楓って休みの日何してるの?」
「そうだなぁ~。買い物行ったり、ウィンドウショッピングしたり、あと、買い食いしたりしてるよ」
「買ってばっかりじゃん。ウケるんだけど」
「そうかな?」
「でも、そんなに買い物してたら、金欠になるんじゃない?」
「大丈夫だよ、ワタシ、バイトしてるから」
「え? マジ? 何してんの?」
「あ、良かったら紹介してあげようか? 何だったらスーミィも、一緒にバイトしようよ」
「え? 私は―――」
「え~、2人でやろうよ。3人だとほら、微妙に多いって言うかさ、バイト先にも悪いんじゃないかな~って、だから、ウチと花楓の2人が良いと思う」
唐突に話を振られて、私が一瞬答えに詰まった時。
隙を突くように佐藤が言葉を展開した。
全く真意を隠そうとしない発言。
私に対しての、邪魔だって言う意思表明。
ある意味、隠すつもりのない彼女の発言に私が感心していると、花楓がクスッと笑った。
「ふふふ……面白いなぁ~。そこで感心するんだもん」
「え?」
「ん? あぁ、ごめん、何でもないよ。で、なんだったっけ? あ、そうそう、私のバイト先の話だったね。まぁ、気楽に考えてみてよ」
佐藤の疑問符を雑に捌いた花楓は、続く言葉で『とあるスポーツ用具店』の名前を告げた。
その瞬間、佐藤の顔が一気に引き攣ったのを私は見て取る。
「ん? どうかしたの? 佐藤さん」
「い、いや、何でもない」
「あぁ~! そうだ。ごめぇ~ん、忘れてた! そう言えば、ワタシのバイト先に元カレさんと一緒に来てたことあったよねぇ。実はワタシ陰から見てたんだぁ……ってことは、流石に働きづらいよねぇ。ごめん、無かったことにした方が良いかな?」
「う、うん」
非常に気まずそうな表情の佐藤が、そそくさと券売機で料理を選んで、先に進んでいく。
そんな彼女の隙を突いて、私の方を振り向いた花楓が、ウインクと共に親指を突き上げてきた。
「いや、鬼畜なの?」
「酷いなぁ。かたき討ちをしてあげたのに」
「別に死んでないから。って言うか、あれじゃ話聞けないじゃん」
明らかにテンションが落ちてしまった佐藤の後に続いて、親子丼を受け取りに向かった私達。
先に席に座ってる佐藤の元に向かう途中、不意に私の方を向いた花楓が、悪戯っぽく告げた。
「何言ってるの? 聞く必要ないジャン?」
あ、そうか。




