第16話 それがウチの戦略
ウチにとって、学校は楽しい場所だった。
小学校から中学校まで、仲のいい子とつるんで、笑って過ごしてた覚えしかないから。
だから、高校生活も楽しくなるんだと思ってたのに、実際はそう上手く行かないってコトなんだろうね。
そうなった理由は、誰かに教えてもらうまでもなく、分かりきってる。
公開処刑なんて、ふざけた呼び方が定着してしまったあの日の出来事。
今となっては、ウチはあの時までの自分の考えにうんざりしちゃう。
裏切った男を信じようなんて、どうかしてる。
だけど、今こうしてウチがそう思えているのは、あの日を何事も無く終えることができたおかげ。
本当なら、多分ウチはとんでもないことをしでかして、学校に居られなくなってたはず。
それはただの推測とかじゃなくて、確かな実感を伴ったウチの感想。今でも、あの時考えてたことを想像するだけで、手が震えだすのが分かるくらい。
全てのきっかけは、差出人不明のチャットだった。
同じタイミングで、クラスメイト全員に送付されたそのチャットには、公開処刑に疑念を投げかけるような写真が貼られてた。
助けられた。
内心ホッとしたウチは、同時に大きな疑念を持ってしまった。
このチャットの差出人は、どうしてこの写真を撮ってたの?
公開処刑の翌日、ショックで学校を休んだウチは、1日中そのことについて考えた。
結論、ウチが思いつくような疑念を、他のクラスメイト達が思いつかないはずがない。
そう判断したウチは、学校に行きたくないっていう願望に負けることなく、登校した。
案の定、学校ではクラスメイト全員に送られたチャットと公開処刑についての噂が広まってて、好奇の視線が降り注いで来る。
そんな中、1週間かけて漏れ聞こえて来た噂を精査したウチは、その噂の中に興味深いものがあることを知る。
その噂の真偽を確かめたいけど、中々自分から動く勇気が出てこずに、今日まで時間が流れてしまった。
今日は、あの男の自宅謹慎が終わる日。
まだ人がまばらな教室の中、自分の席について指先に視線を落としてるウチは、視界の端の扉に意識を集中していた。
そうやって、あの2人が教室に来るのを待ってるんだ。
程なくして、目当ての2人が並んで教室に入ってくる様子を見たウチは、1つ大きな深呼吸をする。
「大丈夫。きっと、大丈夫だから」
誰にも聞かれないように小声で、そう呟いたウチは、ゆっくりと立ち上がると、席に座って談笑を始めてる黒光と大心池の元に歩み寄った。
そして、座ったままウチを見上げて来る2人に声を掛ける。
「ね、ねぇ、2人に聞きたいことがあるんだけど」
「およ? おはよう佐藤ちゃん。ワタシ達に聞きたいことって何かな?」
「……」
「ここじゃあれだから、あとで話したいなぁ、なんて……」
好奇心に満ちたキラキラとした目の黒光にそう言ったウチは、彼女の隣で黙ったまま鋭い視線を向けて来る大心池に小さく会釈した。
大心池がウチに冷たい目を向けてくるのは前からの話。絶対に嫌われてるな。まぁ、ウチもどちらかと言うと嫌いなタイプだけど。
気まずさから、ウチの手が自然と首元に上がって、髪の毛をいじりだす。
そんなウチに頷いて見せた黒光は、どこか楽しそうに口を開いた。
「ワタシは別に良いよ。スーミィも良いよね?」
「まぁ、別に構わないけど」
「おぉ、スーミィが意外と素直」
「余計なこと言わないでくれる?」
「良いジャン良いジャン。あ、そうだ。せっかくならさ、話しながら3人でお昼ご飯食べようよ」
「なんでそうなるワケ?」
「一緒に食事を摂ると、親睦を深めやすくなるらしいよ? だから」
「別に親睦を深める必要はなくない? 私、彼女からは嫌われてると思うんだけど」
「嫌い合う子が、関わりを経ることで少しずつ仲良しになっていくのって、良いよね。ワタシ、そう言うタイプのお話、スキなんだ」
「完全に部外者の発想じゃん、それ」
「そんなことないよ! 私はねぇ。う~ん、そうだ、恋のキューピッド役だから!!」
「恋じゃないし!!」
「ナイスツッコミだね、スーミィ」
このくだらないやり取りはいつまで聞かされるんだろう。
なんてことを考えてたウチの耳に、扉が開く音が飛び込んできた。
咄嗟に音のした方を見たウチは、教室にあの男が入って来るのを目の当たりにする。
一瞬、ウチの方を睨み付けて来た祇園寺壮馬を睨み返す。
明らかに空気の悪くなった教室の中で、祇園寺が席に座るのを待ったウチは、改めて黒光と大心池に声を掛けた。
「じゃ、そう言うことだから」
「うん。分かった。昼休みにワタシから声を掛けるね」
「うん」
短く応えてから踵を返したウチは、自分の席に戻る。
奴の席はウチの少し右後ろ。つまり、座ってしまえば視界に入ることは無い。
ずっと背後から見られてるというのも居心地悪いけど、視界に入り続けるよりは精神衛生上マシだ。
すっかりピリついてしまった教室の空気を無視したウチは、これからのことを考える。
まず初めにウチがするべきことは、仲間を作るコト。
祇園寺壮馬がやったことが公に出たとはいえ、ウチの立場が盤石ってわけじゃない。
だから、あの騒動の時に味方をしてくれた人物を引き入れるくらいしか、残された道はないワケで。
打算的な考え。それこそが、ウチの戦略。
不本意な面もあるけど、背に腹は代えられない。
時間をかけてでも、体勢を整え直す必要がある。
そんなことを考えながら、ウチは昼休みまで大人しくしていることにした。




