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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第2章 操り人形

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第14話 迷った末

「で、結局けっきょく何がどうなってるわけ?」

 薄暗うすぐら部室ぶしつの中できをもどした私は、いまだにしがみ付いて来ている花楓かえでに声を掛けた。

 すると、彼女は私のむねに顔をうずめたまま話し始める。


「ワタシがスーミィに……この部屋に居る全員に幻覚げんかくを見せてたんだ。ごめんね」

幻覚げんかく……今のが全部ぜんぶ?」

全部ぜんぶじゃないかな……スーミィは実際じっさい山田やまだ君からうで拘束こうそくされてたし、3人もうでせをさせられてた。でも、山田やまだ君からびてたくろい手と、おくにいたワタシの姿すがた幻覚げんかく

「そう……でも、なんで幻覚げんかくを見せたの?」

「本当はスーミィにまで見せるつもりは無かったんだよ? まさか入ってくると思ってなかったから。見せた理由については、前にも言ったとおり、感情かんじょう消費しょうひさせるため」


 そう言った花楓かえでは、私の背中せなかに回してた右手をふところもぐらせると、何かを取り出して、私の眼前がんぜんかかげた。

 人のむねに顔をうずめたまま、随分ずいぶん器用きようなことをして見せるなぁ。

 なんて、どうでもいい感想かんそういだきつつ、私は眼前がんぜんにある十字型じゅうじがたの物を観察かんさつする。

 木製もくせいに見えるその十字は、当たり前だけどシンプルで、ぎゃく特徴とくちょうらしい点が無い。

 だからこそ、私にはそれが何なのか良く分からなかった。


「これは?」

り手って言うのかな? あやつ人形にんぎょうあやつるためのコントローラーみたいなもの」

「どうしてそんなものを持ってるワケ?」

「これが、山田やまだ君のかかえてた感情かんじょうだから、かな」

「……は?」

「前にも見たでしょ? ちバサミ。あれは佐藤さとうさんの感情かんじょう具現化ぐげんかしたものだったんだよ」

「そういえばそんなこと言ってたっけ?」

「で、これを山田やまだ君から切りはなすことに成功せいこうしたから、当分の間は大丈夫だいじょうぶなハズ。まぁ、山田やまだ君には何かしらの影響えいきょうがあるかもだけど、今回の場合ばあいわる方向ほうこうには向かないんじゃないかな」

「切りはなしたって……心を読むだけじゃなくて、そんなことまでできるんだ?」

結構けっこう大変たいへんだけどね。切り離すためにはまず、感情かんじょうを表に引っ張り出してあげる必要があって、そのために、幻覚げんかくを見せてたんだけど、そこにスーミィが入って来ちゃったから、き込まざるをなくなったの。本当にゴメン。怖かったよね?」

「それは、まぁ……今も心臓しんぞう馬鹿ばかみたいにみゃく打ってるけど」

「うん。知ってる」

「ねぇ、ところでさ、いつまでそうやってるつもり? 流石さすがにそろそろあついんだけど」


 夏も終盤しゅうばんに差しかってるとはいっても、まだ9月に入って少ししかってない。

 そんな時期じきに、2人で密着みっちゃくしてきしめ合うのは、流石さすがあつさを感じずにはいられないよね。

 それは花楓かえで理解りかいしてるはずだけど、それでも彼女は私の胸元むなもとから動く素振そぶりを見せなかった。


「ちょっと? 聞いてる?」

「聞いてる、よ。でも、ごめんね。動けそうにないや……」

「はぁ? そんなこと言ってアンタ……ちょっと? どうしたの?」

 ただくっつきたいだけとか言わないでしょうね?

 とツッコむために、彼女のあたまつかんで顔を上げさせようとした私は、彼女のほおれて異常いじょうに気付く。


 あつい。

 フワフワとした感触かんしょくの彼女のほおが、まるで湿しめらせたカイロみたいに熱くなってる。

 それは私と密着みっちゃくしてたからなんてものじゃない。確実かくじつに、彼女の身体からだ発熱はつねつしてる。

 グッタリとしている花楓かえで体勢たいせいととのえ、膝枕ひざまくらをした私は、呼吸こきゅうあらげている彼女の顔をのぞき込んだ。


「ちょっと? 何でこんな高熱こうねつが出てるの!?」

「あはは……ワタシもまだまだダメだなぁ。バレないようにしようと思ってたのになぁ」

「そんなこと言ってる場合ばあい!? 急いで保健室ほけんしつに……」

「スーミィ、ゴメンだけど、保健室ほけんしつには連れてかないで」

「は!? そんな体調たいちょうで何を言ってんの?」

「気持ちはうれしいけど、でも、やっぱり保健室ほけんしつには行きたくないんだ……」

「……」


 だったらどうすれば良い?

 保健室ほけんしつに行きたくないって言う花楓かえでねがいは、普通ふつうなら無視むしする。

 だけど、彼女かのじょ状況じょうきょう普通ふつうじゃない。

 きっと、彼女かのじょなりの理由りゆうとか、そんなものがあるんじゃないかな?

 だとしたら、今私が彼女かのじょ事情じじょう無視むしするのはけるべきな気がする。

 だって、今この場で彼女の事情じじょうを知ってるのは、私だけなんだから。


「立って歩ける?」

「……ムリっぽい」

「分かった。ちょっと待ってて」


 言いながらポケットからスマホを取り出した私は、ネットでタクシーを検索けんさくして、すぐに電話をつなげた。

 数回すうかいコールがった後、女性の声が耳に入ってくる。

『はい、こちら』

「すみません、タクシーを一台お願いします! 大至急だいしきゅうで!」


 気味ぎみ現在地げんざいちげる私の気迫きはくに何かをさっしたのか、電話口でんわぐちの女性は迅速じんそくに車を手配てはいしてくれた。

 そんな電話を終えて、私は一度いちど花楓(かえで)上半身じょうはんしんを起こすと、彼女を背負せおい上げる。

「とりあえず、タクシーで家に向かおう。アンタ、住所じゅうしょ言えるよね?」

「うぅぅ……」

「……仕方ないなぁ」


 こんな状態じょうたい花楓かえでを一人で家に帰すのは少し心配しんぱいな気がする。

一旦いったん、私の家にれてくけど、それでいい?」

「うん……」

 背中せなかから聞こえて来たかすかな返事に、うなずき返した私は、ふと、部室の中に目をやる。

 いまだに目覚めざめない野球部員やきゅうぶいん達の姿が、そこにある。

 そんな彼らを見て、少しだけ罪悪感ざいあくかんいだきながらも、私は部室ぶしつを後にした。

 彼らには悪いけど、今は花楓かえでの方を優先ゆうせんしよう。

 なんてったって、友達だしね。


「ありがとう、スーミィ」

「そう言うのは体調たいちょうが戻ってから言ってよね。ところで、その熱は風邪薬かぜぐすりとかでなおるワケ?」

「いつもは寝ればなおるかな」

「いつもって……もしかして公開処刑こうかいしょけいの後もこうなってたの? いや、いいや。それも後日ごじつ聞くから。今は大人しく寝てて」

「うん」


 ねつびた彼女かのじょ背負せおいながら、私はタクシーを待つ。

 ほどなくして到着とうちゃくしたタクシーに乗り込んで、家に向かった私は、うなされてる花楓かえでをベッドに寝かせることにした。

 日もすっかりれ、両親りょうしんをなんとか説得せっとくした私が部屋に戻ると、まだ気怠けだるそうな花楓かえでが口を開く。

迷惑めいわくかけちゃった。ごめんね、スーミィ」

 そんな彼女かのじょがいつもより小さく見えた私は、まよったすえ返事へんじをした。

いよべつに。友達ともだちでしょ?」

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