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隣の席の花楓さんは、世界の全てを見透かして  作者: 内村一樹
第2章 操り人形

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第13話 消えた笑顔

 その黒いうでを見た瞬間しゅんかん、私は全身ぜんしんそうつのを感じた。

 無数むすうの小さなあなとか、大量たいりょうの虫とか、そういった物を見た時と似たような感覚かんかく

 説明せつめいむずしいけど、とにかく気持ちが悪い。


 そのうでから、強引ごういんに逃げようと藻掻もがいてみるけど、逃げられる気がしない。

 そうこうしていると、次から次に現れた同じ黒いうでが、私のうでかた、そしてこしにまでれ始める。

 ぞわぞわとした感触かんしょくが、れられた箇所かしょに広がって、私は思わず身をよじった。


「やめて!! はなして!!」

 そうさけんでみるけど、意味なんてなさそう。

 全力でうでを引き下ろそうとしても、身体からだれるうでから逃げようとしても、背後はいごりをいれてみても、何の意味もない。

 そうやって失敗しっぱいするたびに、私はジワジワとあせりを覚え始めた。

 それと同じだけ、恐怖きょうふ芽生めばえ始める。


 何かがおかしい。

 初めの内は、そんな漠然ばくぜんとした感覚かんかくだった。

 だけど、今の私はその感覚かんかくこたえに気づきつつある。


 人じゃない。


 このくろうでは、人間にんげんのそれじゃない。

 くろい見た目とか、気色きしょくの悪さとか、そういうコトじゃなくて、そもそもうでしかないんだ。


 それに気が付いてしまった私は、身体からだ強張こわばって行くのが分かった。

 ひざふるえて、今にもくずちてしまいそう。

 だけど、黒い手が私のうでを持ち上げたまま固定こていしてるから、たおれることは無い。


 だけどそれだけ。


 私は決して、このうでから逃げることはできないんだ。

 出来るのはただ、恐怖きょうふふるえることくらい。

 これからどうなるのかな?

 花楓かえではどうなった?

 こうなったのは山田やまだのせい?

 もしかして、このまま死んじゃうの?


 考えたくないけど、そんなわる想像そうぞうばっかりが、私の頭の中をくしてく。

 そうだ、花楓かえでは?

 花楓かえではどうなったの?

 彼女なら、この状況じょうきょう打開だかいできる方法ほうほうを知ってるんじゃ?

 完全かんぜんあきらめかけていた私は そんなかすかな希望きぼうに気がついて咄嗟とっさ背後はいごぬすみ見る。


 その瞬間しゅんかん、私の視界しかいくしたのは、笑顔の山田やまだの顔だった。


「え?」

「……」

 小さな声がれる。

 私を見つめてくる山田やまだ表情ひょうじょうには、笑顔えがおりつけられたままだ。

 まゆ一つ、ほおをピクリとも動かさない彼は、ゆっくりと私の右肩みぎかたに手を掛けると、強引ごういんに私の身体からだ回転かいてんさせた。

 むねほおとびらに押さえつけられていた体勢たいせいから、背中せなかとびらあずけるような体勢たいせいに向き直った形。


 真正面ましょうめんから、私の顔を見つめて来る山田やまだ

 そんな彼を見つめ返しながら、くちびるをキュッとむすんだ私に、彼が声を掛けてくる。


あそぼう」

「……ぇ?」


 抑揚よくようの全くない彼の言葉ことばに、私は小さな声しか返せない。

 下手へたに口を開けば、ふるえるあごがカチカチと音をらしてしまいそうで、私は歯を強く食いしばった。

 そんな私に、山田やまだが再び声を掛けてくる。


あそぼう」


 真っ直ぐに私の目をのぞき込んでくる彼の目。

 そんな目からのがれるために少し下に視線しせんを落とした私は、ゆかに横たわっている部員たちの姿を見てしまう。


 例の真っ黒な手が、部員たちの四肢ししや口元につかみかかってる。

 その様子ようすはまるで、彼らの身体からだ強引ごういんあやつっているように見えた。

『人を操りたいって願望』

 花楓から聞いたそんな話を思い出した私が、思わず息を呑んだ瞬間。


 私の耳を掠めるように、山田が腕を扉に突き立てた。


 ダンッという鈍い音が部室中に響き渡る。

 あまりに突然の出来事に、私が身を縮めていると、カチカチと歯を鳴らし始めた山田が、もう一度告げた。


あそぼう」

「……山田やまだ

あそぼう」

「わ、分かった、分かったから」

あそぼう」

「何してあそぶ? 付き合うから、さ、だから、放してくれる?」

あそぼう」


 声のふるえを必死ひっしおさえながら、目の前の山田やまだに声を掛けてみるけど、帰って来るのは同じ言葉ことば

 話が通じてるとは、到底とうてい思えない。


 恐怖きょうふよりも困惑こんわくまさり始めた私は、何か抜け出す糸口いとぐちが無いか視線しせんめぐらせてみた。

 だけど、見つけることができたのは絶望ぜつぼうだけ。


 私を拘束こうそくして、そして部員ぶいん達をあやつっている黒いうでは、山田の背中せなかからび出てきている。

 そして、そんな黒いうでつかまれた花楓かえでが、山田の背後はいご部室ぶしつの一番(おく)はりつけにされてた。


うそ……」

 意識いしきが無いのか、ぐったりと項垂うなだれてる花楓かえでの姿を見て、私は小さくつぶやく。

 すると、私の視線しせんに気が付いたらしい山田やまだが、笑顔えがおを浮かべたまま花楓かえでの方を振り返る。


 そして、私に確認かくにんするようにげた。


「あれであそぼう」

「え?」

 一瞬いっしゅん、彼の言っている言葉ことば意味いみが分からなかった。

 だけど、次の瞬間しゅんかんにはその意味を理解りかいせざるをなくなる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 何の前触まえぶれもなく、はりつけにされていた花楓かえでが、いたみにもだえるように大声おおごえを上げ始めたんだ。

 それもそのはず、彼女の右腕を黒いうでがギリギリとじり始めてる。


めて!! めて!!」

 あまりにもむご光景こうけいをやめさせようと叫んだけど、山田やまだは笑ったまま。

 さら事態じたい悪化あっかしていく。


 右腕みぎうでだけじゃなく、両足りょうあし左腕ひだりうでじられ始めた花楓かえでは、さら絶叫ぜっきょうした。

「へへへへへへへへッ」

めろ!! めろって言ってんの!! 花楓かえで!! 花楓かえで!!」


 目の前で笑い声をらす山田やまだに、私はえたぎるようないかりをおぼえる。

 だけど、そんな私のいかりは一瞬いっしゅんえ去ってしまった。

 なぜなら、笑い声をあげていたはずの山田やまだが、ゆっくりと私の方を振り返ったから。

 その顔に、笑顔えがおはない。

 まるで、私がいだいていたいかりが、彼にい取られてしまったみたいだ。


めろ? 何を? 教えてくれ。俺は何をやめたらいい? あそぶなってことか? なぁ、どうなんだ? あそんじゃいけないのか? ダメなのか!? なぁ!? どうしてダメなんだ!? なんで俺だけあそんじゃダメなんだ!? 教えろよ!? なんで俺だけなんだよ!? ふざけんな!! ふざけんな!!」

 私に対して明確めいかくに向けられた敵意てきい


 まるで心臓しんぞうつらぬきそうなするどさの視線しせんに、私は思わず目を閉じた。

 視界しかい暗闇くらやみおおわれても、山田やまだの言葉は止まらない。


 そうして、彼の声が耳元みみもとせまり始めたその時。

 急に、彼の声が途絶とだえた。


 一瞬いっしゅんにして、部室ぶしつの中に静寂せいじゃくおとずれる。

 私の両腕りょううで拘束こうそくけ、その場にくずおれた私は、ふるえる身体からだ自身じしんきしめながら、ゆっくりと目を開ける。

 直後ちょくご、フワッとしたあまかおりと栗色くりいろのショートボブが、私の感覚かんかくくした。


「スーミィ!! ごめん、ごめんね!! 大丈夫だいじょうぶだから! 全部ぜんぶ()わったから!!」

「……へ?」

 そう言いながら私の後頭部こうとうぶでるやさしい手つきは、間違まちがいなく花楓かえでだ。


 あらくなった呼吸こきゅうふるえる身体からだで、取りえず花楓かえできしめた私は、部室ぶしつの中の惨状さんじょう茫然ぼうぜんながめる。

 ゆかよこたわっている山田やまだと3人の部員達ぶいんたち。そのおくこまかくれてしまってる1本のほうき


 それらが何を意味いみしてるのか、今の私には分からない。

 ただ分かるのは、うでの中に花楓かえで無事ぶじだっていうコト。

 そんな事実じじつに、少しだけホッとした私は、改めて彼女を強く抱きしめた。

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