プロローグ
「ほら、あそこにいるのが見えるか?」
お父さんが指を向ける水面の先には数羽の鴨がいる。
「銃を使えば狩猟なんて楽なのに...。」
最近6歳になった僕は、おもむろに呟く。
その言葉を聞いたお父さんは複雑そうな顔をした。その表情の理由はわからない。
「前から教えた通りに射抜いてみろ。」
お父さんにそう言われると、自分の身体より大きな弓を弾き絞り、狙いを先頭の鴨に合わせる。
「ヒュー、ヒュー...。」
「タンッ!」
「バサバサバサバサ!!!」
「当たった...。」
放った矢は、狙った鴨に命中して水面に浮かんでいる。
初めて自分で狩った獲物だ。
喜びのあまりはしゃいでいるとお父さんが指で口を塞いできた。
「息子の命の糧になっていただきありがとうございます。」
お父さんは水面から上がって、鴨を持ってくるとそう言った。狩った相手が人ではなくても命がある。それを奪った事を今、お父さんと鴨に教わったのだ。
「よくやった。トレッド、小さい獲物を仕留めるのは難しい。お前の努力の結果だ。」
厳しい父親からの純粋な賞賛は素直に嬉しい。
それからは鴨の血抜きを教えてもらい。その後、帰宅した。
ーーーー帰宅後
「トレッドは寝たかい?」
暖炉に当たりながら、妻に尋ねる。
「うん、貴方に褒められたのが嬉しかった様でずっと話してたわ。」
「そうだね...。最近、側にいられる時間が少なかったからな。」
「仕事...忙しいの?」
妻が心配そうな目で聞いてくる。今日の狩猟も久々に休暇が取れたから行くことになった。そのぐらい軍務は忙しない。
「いや、1ヶ月程度は休暇が取れたんだ。休暇の後はヴァナヘイムに赴かなければならない。」
「そう...。トレッドがまた悲しむわね...。」
皿を触りながら、妻が下を向く。すると急に何かを思いついたのか、顔を上げてニコニコしながらこっちを見てくる。
「貴方達、旅行に行ってきなさいな。」
何を言い出すかと思えば突発的な旅行の提案だった。
「旅行って言っても、宿泊先と場所は?首都なんて言わないよな...。」
「ちょうど貴方が帰ってくる3日前にアールに住んでる親戚から連絡がきてたのよ。遊びに来いって!これなら、旅行で行っても文句は言われないでしょう。」
ここからはトントン拍子にことが進んだ。一回やると決めたらやめない妻のことだ。こうなったら止められない。狩猟を行った日から2日経って、旅行に出立する日が訪れた...。