7 絶望的非リアの俺は作戦会議(偽)をする。
そうして、本当の作戦会議は始まった。参加しているのが堕天使様と陰キャの俺だけだから不安以外の何もないのだけれど。
「で、俺に尋問でもするのか?」
『するけど何か?』
「まさか俺の身体に聞くとか……無いよな?」
『んっ? それが一番手っ取り早いからそうするつもりだけど』
一発目から嫌な予感が的中するとは。つまり今から俺はオーク的な何かに襲われて、見るに耐えない状態にされてしまうということなのだろうか。いわゆる「くっころ」というやつか。そういうのはゲームの中だけにして欲しい。
「お手柔らかに、お願いいたします」
『はぁ。あたしのことをなんだと思ってんのさ。お前のつまらない思い出話を根掘り葉掘り聞いて、そこから攻略手段を見つけるだけだし。本当に身体に聞くと思ってたわけ? このエロゲ主人公』
「だーれがエロゲ主人公だって?」
『お前以外いないっしょ。こっちはただでさえ憂鬱な話聞かされる立場なんだからさ、それくらい耐えてよ』
攻略手段という言い方。なんだかゲームの好感度みたいな臭いがプンプンしてくる。それよりも。
「誰の思い出話が耐え難いレベルでつまらないって?」
『もちろんお前の思い出のことだけど。どうせ楽しく陰キャライフ? っていうのを送っていたんでしょ。親以外の女の匂いが全く付いてないし。これまでの十六年間、ちゃんと青春してたわけ?』
「異性との交流だけが青春じゃないだろ!」
『同性の匂いも……全くしないんですけど? お前、ちゃんと青春してきたわけ?』
「ど、同性との交流だけが青春じゃない、だろ……?」
『それじゃ、誰とも関わってないって自分から認めてる気がするけど』
「うぐっ……」
俺の心にクリティカルヒット。酷い。酷いぞこの自称天使。性格がただの悪魔。
『はぁ。勉強したいだけなら通信教育か塾だけで十分。でもお前は普通科の高校に進学したじゃんか。つまりアオハルへの期待に胸を膨らませていたんじゃないか?』
……確かに。小学校にいた頃は中学生になったら彼女が出来ると思っていて、中学生の頃は高校生になれば無条件で恋人が隣にいるものだと思っていて。
そして今に至る、と。
ぼっちロードへと一直線、人との距離は平行線。誰かに近付こうと思えば近付けないわけじゃない。ただ、怖いだけ。
「拒絶されるのが怖いから話しかけられない」
拒絶されるのが、怖いだけ。
『当たる前から砕けるのを恐れるのか? かすってすらいないのに』
「そうだよ。アクセルを踏むのが怖い。そもそも俺にとってはキーを挿すのすら怖いんだ」
『アクセルをかける前に挿すのかぁ。お前、結構やんちゃだな』
普通のことを言っているつもりなのに、この堕天使様の脳内ではピンク色に変換されてしまっているらしい。こいつ、鍵を開ける代わりにどんな扉を開けたんだ。
天使様の下ネタに付き合わされながらも、俺は灰色の高校生活について語っていった。
「ほい、おしまい。これで満足か?」
『あたしはなにもやってないのになんか疲れたわけ。……よしっ、お風呂に入ろっか。異論は認めないし、これも訓練だと思えよなー』
「よしっ……じゃねーだろ。というか全くよくねーだろ」
あと、なにもしてないというのは嘘だ。数十年前の深夜番組でも出てこないような用語が、絶え間なく焼夷弾のように降り注いできたのだから。
そして最後に特大の爆弾を置いていきやがった。
「訓練という名目で混浴を強制する天使とか聞いたことないんだが。混浴ってどちらかというと淫魔のお仕事では? ゲームとかだと、そのままエッチなイベントが始まっちゃうやつ」
『サキュバスさんちゃうから! 大天使を悪魔と一緒にしないでよ!』
「いや、完全にお前は淫魔だ。さっきもド淫乱なワード連呼してたろ」
『なんのこと、というかどれのことかなー? 言ってくれないと分からないぞー』
「俺が言うのを躊躇うレベルのネタだったのだが……」
『えっ、言うのを躊躇うレベルの奴かぁ。あっ、あれか。ネットサーフィンしてたら偶然見つかっ――』
「それ以上言うなっ!」
『――はやっぱり人類には早かったのかい?』
あれを人類が正常に理解するには、あと百年くらいかかることだろう。ちなみに俺も実際の動画を見せられるまでは全くわからなかった。
見た後でもよくわかっていないけれど。
『えっと、一応弁解するけどさ。よくあることだよ?』
「よくあることで片付けないでくれ……。普通に反応に困る。二次元ならまだわかるけど」
『そんなことよりお風呂だよお風呂っ! ジパングにある伝説のざばーんってなるやつ早く早くっ!』
天使様は興味無さそうに俺の言葉をスルーする。
「えーっと、この後お前も一緒に風呂に入るってことで良いんだよな? あとで訴えたりお金取ったりしないよな?」
『言い出しっぺはあたしだよ? それにまぁ、なんとかなるし』
さっきまでボコボコに凹んでいた心は、あっという間に不安で埋められていったのであった。あの……俺、この後死なないよな?