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6 絶望的非リアの俺は己を猫と仮定する。

『んじゃっ、作戦会議と洒落込もうじゃないか!』


 母の激甘カレーをなんとか完食し、今は部屋に戻って勉強していることになっている。もちろん今の俺がそんなことをするはずが無いのだけれど。


「ああ、そうだな。あと気になったんだが、お洒落の洒とお酒の酒ってなんか似てると思わないか?」


『いや、もっと先に言うべきことあるっしょ。横棒を入れるとか入れないとかの問題じゃなくて』


 この天使の発言がことごとく下ネタに聞こえてしまうのはどうしてだろうか。本人というか本天使は俺の真後ろにいるから、その真意を読み取ることは出来そうにない。


 目の前にいたとしても、俺に彼女の顔を見ることは不可能なのだから。それで、サリエルが言っていた本題について。


「あぁ、そっちか。お前、本当に誰にも見えてないんだな」


『ふふん、天使ですから』


 多分このタイミングで、彼女は意味もなく胸を張っていることだろう。あるかないかは別として。


 もちろん俺はジェントルマンだから、見えている地雷を踏んだりはしない。ただ、見えていない地雷を踏みに行くだけ。


「その力、俺にも分けてくれないか?」


『女の子のお風呂を覗きにでも行くわけ? きゃーえっちー!』


 そしてこいつも何を言っているのだろう。普通ならアイドルに向けられるような黄色い声まで使って、俺をどうするつもりなんだ。


「違うし。なんか便利そうだなと思っただけだから」


『うーん、無理。可能か不可能かでいうと可能だけどね。詳しくは乙女の秘密的なサムシングだけど、ちょっとだけ教えてあげる』


「それってノーマルな男子高校生にも理解できるやつ?」


『……うーん、わからん。というかあたしも正確にはわかんないし。ただ、どこかの賢い天使が言うには、シュレディンガーだにゃー……だって』


「それってもしかしなくてもシュレディンガーの猫?」


『うーん、多分それだと思う。うろ覚えだけどさ』


 シュレディンガーの猫なら一応何回か聞いたことがある。物理の授業ではなく、何かのアニメかゲームで。


 箱の中に猫と一時間に一度毒ガスを発生させる装置を入れる。毒ガスは少し吸っただけでも死んでしまうような致死性の高いものである。


 猫を入れてから三十分後の箱の中身はどうなっているのかーというお話だったはず。三十分後に猫は生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。


「えっと、物事は観測されるまで確定しないってやつだっけ?」


『それそれ。天使は既に概念みたいなもんだから、常に誰かが何らかの形でて(・)る(・)のさ。迷惑なことにね』


「でも普通の人間はーってことか」


『そうそう。観測されなければ存在は確定しないとすると、箱の中のその人はどうなるかなーってやつ。最悪の場合、最初からいなかったことになるんだっけ』


 いわゆる神隠しの類いだね、と彼女は続ける。他者に観測されれば戻ってこれるし、されなければ以下略コースだそうだ。


『まっ、神様が君臨してなくてもこの世界は大丈夫そうだから、神様本人も普通の天使もうつし世に干渉してくることはほとんどないんだけどね』


「……お前は?」


『だっ、大天使ですし。ルールに縛られたりなんてしませんし?』


「イントネーションが疑問符の奴なんだがそれはどういうことなんだ。そこ詳しく」


『あれだよあれ。なんだっけ、しょーしこーれーかってやつだっけ。大天使たるあたしは、頑張ってそれを止めなきゃならないのさ。だって、なんかいろいろ大変じゃん』


 明らかに挙動がおかしい。動き自体を見ているわけではないが、声の出し方とかアクセントとかが既に日本語という枠を外れている。


 だが、こっちがそのノリに合わせる必要はどこにもないのだ。こういうのは、陰キャ特有の空気を読まないあれを使うに限る。


「そうだな。少子高齢化は歴とした社会問題だ。具体的な問題点を言ってしまうと、年金のゲット出来る額が減る。それもかなり。だがそれは俺に解決できるレベルの問題じゃあない」


 必殺・いきなり真面目になる奴。これをされた人は大体適当に相づちを打って話題を変えようとする。


 しかし俺は一つ失念していた。こいつ、普通に人間じゃねぇ。


『社会の問題はお前の問題っ! お前みたいに彼女の一人も作らずにのうのうとしてる奴が多いのが悪いんだっ!』


 返ってきたのはオーバーキル気味のカウンター。俺の残基は残りゼロ。


「なん……だと……? 取り消せよ……今の言葉っ! 彼女が欲しくても出来ない人だって世の中にはたくさんいるんだ!」


『それはただ怠けているだけなんじゃないの? 適当な異性に当たり続ければ、そのうち彼女の一人くらいはできるでしょ』


 それは男としてのプライドが許さない。というか、陰キャとしての矜持が許してくれないのだ。


 ……ただのコミュ障だなんて言ってはいけない。


「そんなの、愛も何もないじゃあないか。人間は強引に子孫を作るだけの装置じゃあ無いんだ。配偶者を作るにしても、俺には選ぶ権利があるはずだし、もちろん相手にもその権利は」


『……ってお偉い神様が言ってただけ。これはただの受け売りってやつ。残念だけどあたしはそこまでドライにはなれなくてさ』


 良くも悪くもこの天使様は人間にとても似ている気がする。それもそうか。あのフリー辞書が本当に正しければ、お仲間の悪い部分もたくさん見ているはずなのだし。


「なんか、済まん」


『いいのさ。じゃあ、これから本当の作戦会議を始めようじゃないか!』

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