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40 圧倒的主人公の俺は数学とペンギンを見る。

 具体的に何パーセントと聞かれても。分子が一で分母が一万以外の答え方など俺にはわからない。もしかしなくても十一連の確定枠の計算を含めればいいのだろうか。


「……単純計算なら一万分の一よりも小さいくらい。星四以上確定枠含めたら」


 あの枠だと十パーセントくらいの確率で星五が出るような……出ないような。ここまで来ると暗算でやるには少し無理がある。


 計算式もわからないから、インターネットに転がっているツールを使えばいいのだろうか。


「一万分の一って具体的にどのくらいなの?」


「え?」


「いや……だから」


 ちょっと待て。もしかしなくても複雑な計算以前の問題だったりするやつなのか。いやいや、花咲さんは俺と同じ高校生のはずだ。


「そもそも計算式、わかってるよな? 百分率と歩合の変換とか……」


「……七十五割わかってるから」


「花咲さん。それ、ちょっとパーセント換算してみて」


「七十五パーセント?」


 駄目だ。小学校で習ったはずのことが出来ていない。正解は七百五十パーセント。とっくに限界突破していやがる。彼女の数学力とは反対に。


「その……非常に言いづらいのですがね、一割は十パーセントだったりするんデスヨー?」


「そっ、そのくらい知ってるからっ! もうっ、そろそろ水族館開くから行くよっ!」


 彼女は慌てた様子で空のトレイを持ち、フラッペのカップに付いている蓋を外している。俺も同じような動きをして、陽キャの根城から脱出する準備をする。


「へいへい。これは基礎からみっちりやらんといかんやつだな。夏休み、覚悟しとけよ?」


「お手柔らかに、お願いします……?」


「小学生レベルの問題解けなかったやつに容赦など要らん。六年間の総復習からやってもらうからな?」


「六年間って……小学校の?」


「そりゃそうだろ。逆になんだと思ったんだよ」


 肩を落としながら食器を返していく彼女。単位を落とすよりはずっと良いだろう。高校生としてのプライドがそれを許してくれるかどうかは未知数だけれど。


「えー」


「えー、じゃない。次のテストで平均の四分の三とってもらうからな?」


「平均の……九割?」


「七割五分だ」


 俺の喉から漏れる大きなため息。三を四で割るのはそこまで難易度が高かったのだろうか。いや、そんなはずはない。


 普通に考えると、式がわからなかったとかそっち系だったのだろう、多分。むしろそうであってほしい。




 壁掛け時計が指している時間は九時半。本来の待ち合わせ時間というやつだ。もともと集合する予定だった場所に、家族連れや色々と軽そうなカップルが数組ほどいる。


 もちろん陰キャには関係ないことだからスルーしていくけれど。チケットを二枚買って、水族館に入場する。受付のおばさま達にかーなーり暖かい目で見られたのは気のせいだと思いたい。


「こういう場所って一人で行くには敷居が高いんだよね」


「小学校の校外学習で行ったからそうでもないんだが……」


 ここに来たのはおよそ十年ぶり。あの時の水族館のスタッフの人の講演がつまらなかったのは覚えている。記憶が正しければ、回遊魚の特徴について聞かされ続けていたんだっけか。


「……ふーん、チバラギ県民」


「しれっと巻き込まれた栃木かわいそす」


「ならチバラキ」


 違う、そうじゃない。そういう問題じゃあないのだ。そもそも茨城県民は校外学習のために東京まで来ないはず。


「茨城の水族館……えっと、大洗に確かあったはずだが」


 真っ先に思い浮かんだのは、ローカルなテレビのCMで流れているとある施設。実際に行ったことは無いけれど、なぜか頭に残っている場所。


「大洗っ! ……あっ、ごめん」


「大洗がどうしたんだ? 親戚でも住んでたり?」


「いや、親戚とかが住んでるわけじゃないけど……」


 花咲さんが小声&早口でなにかを言っていたのはわかったのだが、あまりにも高速すぎてなにも聞き取ることが出来なかった。


 俺達二人と隣でふわふわしてる天使様はゲートを抜け、水族館へと入っていく。


 大きなマグロの水槽を見たり、行列を作って歩いているペンギンを見たり。あとは迷子になってる子どもを最寄りの案内所まで届けたり。


 天使様がクラゲがたくさんいる水槽に釘付けになってるのを放置したり。別に誰かに見えていたりするわけではないのだから、実害は無いはずだし。


「……なんか、水族館に男女二人で行くとかデートみたいだよね?」


 一通り展示を見終わったあと、ミュージアムショップの前で彼女はこんなことを言う。


 手を繋いだりはしなかった。キスなんて素振りすら見せていない。だが、二人で休日にお出かけしている時点で花咲さんにとってはデートだったのだろう。


「デートの定義が曖昧だからなんとも言えないんだけど、俺も同じようなこと思ってた」


「こんな日が永遠に続けば良いな……って思わない?」


「特別な日ってのは普通の日があるから楽しいって思えるんじゃないか?」


「そう……かもね。お腹も空いてきた所だし、そろそろお昼にしない?」


 数十秒の空白。そこに大きな意図も、意味すらもないのかもしれない。でも俺は、そこになにもないとは思えなかったんだ。

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[気になる点] 一人で行くには敷居が高いんだよね 敷居が高い 「不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくい」『大辞林第3版』より
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