39 圧倒的主人公の俺は確率の計算をする。
「夏休みに……?」
「いやー、適当に集まって勉強会でもしようカナーと思いまして。はい、俺の願望ですすみません」
ここは誤魔化すことなく正直に言ってしまおう。やらしいことをしようとしているわけではないのだし。天使様のせいでいかがわしいムードにされる可能性は無くもないけれど。
「なんだ、そんなことなら私は構わないよ。赤点フィーバーで留年とかしたくないし。そろそろ単位が危ないやつだし……」
俺からすれば構わないわけがない。前半もそうだが、特に後半部分。学生としてあるまじきワード。
「……数学が赤点っ!?」
「ちょっ、大声で言わないで」
確かに大音量で言うようなことではなかった。朝の早い時間だからか、歩道には俺達以外誰も歩いていない。だとしても嫌なものは嫌だろう。
「ごめん……」
「多分誰も聞いてなかったし、今回のこれは不問にしますよっと。……着いたね。ラッキー、ちゃんと開いてる」
開店時間は七時頃だったらしく、店員以外の人がほとんどいない。今なら席も選び放題。ケーキ二つとカスタムではないドリンクを持って、窓際の隣り合った場所を占領する。
「つかぬことをお聞きしますが……」
リュックを肩から下ろし、膝の上に乗せる。汚してしまったら大変だが、ここはなにもこぼさないという前提で。いや、むしろ絶対にやらかすという確証も無いのだけれど。
「なに?」
「花咲さんはこういう場所に通いなれていたりします?」
「初めてだけど?」
「世の中のじぇーけーは全員シャレオツな場所でフラペチーノ飲みながら写真撮ってるものだと思ってました、すみません」
「それを言ったら私だって世界の男子は全員女性を顔とバストの大きさで選ぶものだと思ってた。ほら、なんか欲望に忠実そうなイメージってやつ」
めちゃくちゃな偏見だ。俺も人のことは言えないけれど。女子高生に対してSNS映えしか気にしてない的なことを言ってしまったのだし。
「……俺は見た目よりも中身とかの方が重要って思うかな」
こっちは間違いなく偽ることのない本音。といっても全ての男子高生の意見を代弁しているわけではないし、こう考えているのは実は俺だけという可能性もある。
「見た目よりも……中身?」
ヤバい。地雷踏んだかもしれない。せっかく着飾ってきたのに、人は見た目よりも中身的な発言をされたら誰だって怒るものだろう。
「あっ、その……そうだけどそうじゃないっつーか」
『花咲ちゃんのご機嫌をなんとかしたいのかい? それなら服装を褒めると良いと思うぜ? 服を褒められて喜ばない女子は……いなくはないけど多分少数派だし』
「えっと……今日のその服、すごく似合ってると思う」
「……今、露骨に話題そらした。別に機嫌損ねたとかじゃないから変に気を遣わなくていいよ。正直に言っちゃうと、私も見た目だけで脳みそ空っぽな人達のこと、あまり好ましく思ってないわけだし」
「……」
見た目だけで中身を伴わない人。スクールカーストの上位に位置している人。頭の中で繰り広げられる連想ゲームは、止まることを知らず。
思考の糸は数ヶ月前の記憶を手繰り寄せ、それらが全てがパズルのピースのように組み上がっていく。
なにも出来なかった昼休み、気付いたらいなくなっていた花咲さん。彼女の場所を我が物顔で占領していた人。悪意のこもった言葉。
「なんか……ごめん」
やった人が悪いのはだれにでもわかる。だが、思い出させて苦しめてしまったのなら俺も同罪だ。条件反射で口から出てきたのは謝罪の言葉。
「大丈夫。私がそういう人達に良く思われてないのは知ってるから。フラペチーノ、早く飲まないとどろどろになっちゃうよ?」
「やっべ。謎のカプチーノが出来上がる所だった」
ストローに口をつけ、カップの中身を全力で吸い込んでいく。アイスの時から俺はなにも学んでいないのだろう。
頭をピアノ線で引き裂かれるような痛み。二日連続で同じようなことをやるとか、俺は馬鹿なのだろうか。いや、そうに違いない。
『はぁ……アイスクリーム頭痛に苦しめられる高校生って。運動部とかの熱血系だったらまだわかるけどさ。脳みそ筋肉だし』
天使様がしゃべったあと、しばらく無言の状態が続く。花咲さんに天使様の声は聞こえていないはずだから、正確には俺がカプチーノの話をした辺りからだろう。
この状態で約三時間は辛すぎる。どうせやることもやれることも無いのだからという理由だけで、俺はソシャゲの周回クエストを回り始めるのであった。
数時間後。
「ふ……ふはは、ふははははっ! 出た、本日二枚目の星五出たよ。これ明日交通事故かなにかで俺死ぬんじゃね?」
「あはは……って、え? 本日二回目?」
愛想笑いから一気に疑問へと変わっていく表情。そんなところもかわいい……じゃなくて。ちょっとうるさいひとりごとのつもりだったのに、乗ってくるとは思っていなかった。
「うん、そだけど」
会話の準備もなにも出来ていない。天使様のお陰である程度のコミュニケーションはとれるようになったが、リアルタイムで会話するにはまだ少し足りない。
「運良すぎない?」
「一パーセントの確率が一日に二回出ただけだからゼロではないんだな、これが。もちろん死ぬほど低いけど」
「……えっと、具体的に何パーセントくらい?」




