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38 圧倒的主人公の俺は秘密の呪文をとなえる。

「ハンバーガーとかどうだ?」


 多分世界的に有名なハンバーガーのチェーン店のことだろう。どこにでもあるMだかWだかの看板のお店。二十四時間営業をしているファストフード店といえば、真っ先にあそこを思い出す。


「朝だと少しメニュー違うんだっけ。うーん、じゃあ……行こっか」


『ちょっと待って。このエリアには無いよ? お前はどこまで行くつもりなのさ。はぁ、先が思いやられるわけだ』


 天使様のありがたいのかありがたくないのかわからないアドバイス。……ちょっと待て、今なんて言った。


『心を読んでる前提で話するのやめてくれるかな? まぁ、そのままの意味さ。諦めて公園のベンチにでも座ってれば? ざっと三時間くらい』


「行くにしても場所調べないとだし……」


 彼女が俺を罠に嵌めようとしている確率自体はそこまで高くない。でも無いとも言えない状態。性格的に、俺達を数キロ単位で歩かせて喜ぶ奴じゃないのはわかるのだけれど。


「うん、そうしよっか」


 俺はポケットからスマホを取り出し、大先生を召喚する。ソシャゲを開きっぱなしで少し焦ったりもしたが、相手は花咲さんなのでそこまで心配することもないだろう。俺だってドン引きされるほどの廃課金とかではないのだし。


 大先生のサービスであるマップを開き、現在地を画面の中央に置く。あとは検索で店名を入れれば完了。


「あっ……」


 本当に無かった。全国に約三千店あるはずの某ハンバーガーショップが無かった。


「……もしかして」


 心配そうに聞いてくる花咲さん。きょとんとしたその姿も大変かわいらし……じゃなくて、どうにかしなければ。


「無かった。これから三時間どうする?」


 言ったところでどうにもならないのはわかっているけれど、提案しないことにはなにも進まない。


「……適当なファミレスとか、どうかな?」


 彼女はこう言ったけれど、俺にとってはこのお出かけは初デートのようなものなのだ。初っぱなからファミレスとか、完全に雰囲気ぶち壊しなのである。


「そこは……カフェ的な場所が良いと思うんだが。あの、通学路にもあるやつ」


 店によって営業時間が違うからちょっとギャンブル要素が絡んでしまうが、デートと言えばこっちの方がそれらしいだろう。


 当然だが俺にはお洒落なカフェに入る勇気などないし、入ったことなど人生で一度だってない。頑張れば入れないこともないけれど。いや、今日は頑張るけれど。


 改札を出て、しばらくコンクリートの道路を歩く。太陽のエネルギーによって温度が上がるなか、俺達の温度はそこまで上がってはくれない。


「なにか飲みたいものあったりするのか? あと一応トッピングとかも」


「アブラナシヤサイカラメマシニンニクスクナメーみたいな呪文を唱えないといけないんだよね……?」


「ちょっと待て、それはラーメンのトッピングの呪文だからな。間違ってもそれ言うなよ?」


 野菜てんこ盛りラーメンがカフェで出てくるのはちょっと見たいかもしれない。ムードとかスタイリッシュさとか全てをぶち壊す最強の一撃、俺は放ちたくないけれど。


「なら、グランデノンファットミルクノンホイップチョコチップバニラクリームフラペチーノ的なやつで合ってる?」


「なんでさらっと言えるん? 隠れて練習したりしてた?」


 とりあえずフラッペ的なカプチーノに色々やるための呪文なのはわかった。というか、アブラナシ|(以下略)よりも理解不能なのはどうしてだろう。


 リア充という種族はこれを難なく理解してしまうものなのだろうか。だとしたら根本的に脳の構造が違うということになる。


「流石にそんなことまではしてないけど……」


 赤信号。足が止まった瞬間に会話も止まり、気まずい空気が二人の間を流れていく。時折聞こえるエンジン音。


 アブラゼミの求愛の音が聞けるのはまだ先らしい。いつもの天使様以上に鬱陶しそうだから聞きたいとは思えないけれど。


「……」


「……」


『はぁ、やっぱりこうなったか。ここは学生らしくテストの話題でも振ってみれば?』


 天使様がわざわざ靴下まで脱いでから俺の背中をげしげしと蹴ってくる。俺は生足フェチじゃな……ごめんなさいなんでもごさいません。


「その……中間テストどうだった?」


 俺の得点は某教師のせいで知られてしまっているから、対価としてそっちの成績も出せ的な理論。自然かどうかは怪しいけれど、それしかネタがないから仕方がない。


「えっと……科目による落差がナイアガラ級だった」


 学年トップは一科目も無かったはず。上の方の人は答案返却の際に先生から一言貰えるのだが、彼女がそうであったという記憶はないし。


 つまりずば抜けて悪い科目がある。きっとそういうことだろう。


「その……文系と理系、どっちが苦手なん?」


「……理系が死んでる」


「あー……つまり進路は」


「消去法の文系になると思う。数学とか社会に出てから役に立つことある? いや、無いし。不定方程式とか微積解けたって将来に繋がらないでしょ?」


 二年生の末にある文理選択。俺の場合どっちにも行けるから選べないというか。もう少し個性のようなものが欲しいと思ってしまう。赤点という個性は嫌だけれど。


『ふんふん。やっぱり数が……おっと、邪魔しちゃったかな? まぁ、夏休みという時間があるわけだし? ちらっ』


「直接的な将来には繋がらないけど、間違いなく直近の成績には影響するよな。留年とか浪人とか。センター使うなら数学も出来ないとマズいみたいだし。その、俺で良ければ夏休みとか……」


 ヤバい。天使様が言っていた夏休みというワードをそのまま出力してしまった。変な勘違いをされなければ良いのだけれど。

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