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34 優越的モブの俺はチョコミントを布教する。

『あたしはその辺のスーパーマーケットのやつでも全然大丈夫だよ? 具体的には……』


「それ以上言うな、どうせ高いやつだろ」


『あちゃー、バレちったかー』


 太陽の光が少し眩しい。まだ夏は本番を迎えていないはずなのだが、もやし系陰キャの白い肌を焦がすには十分すぎるのである。


 そういえば日焼け止め塗るの忘れていたかもしれない。この年で皮膚トラブルの心配なんてしたくなかった。もっとポジティブに考えなければ。


 ポジティブ……ポジティブ……考えれば考えるほどわからなくなってくる。ならば視点を変えてみよう。


 暑い所で食べると美味しいアイス。これがもっと美味しいものだったら暑さもダルさもどこかに消えるに違いない。そして美味しいアイスと言えば俺の中ではアレしかない。


「まっ、今日くらいはいいか」


『じゃああそこ行きたい! ブルーシー……』


「遠い、却下」


『ぶーぶー、じゃあさじゃあさ!』


 めちゃくちゃ食いついてくる天使様。別にそこまで遠くではないから行ってもいいとは思っている。しっかりとお財布に交渉しないと駄目だけれど。


「……それなら近くにあるからいいか。服も買って貰っちゃったわけだし」


 済まない、俺の良心よ。必要出費だと諦めてくれたまえ。洋服を買うことを考えれば、フードコートのアイスなんてお安いものだ。


『うぇーい。じゃあレモンシャーベット食べたい。お前はどうするわけ?』


 こんな日だから爽やかなものを食べたくなるのは仕方ないだろう。爽やかさの極限、つまり口の中が一番スカッとする味と言ったら()()しかない。


「チョコミン……」


『歯みがき粉食べるの?』


「あ?」


 敵だ。チョコミントを歯みがき粉扱いする奴は大体敵だ。ミントというスタート地点は同じかもしれないが、完全に別物だろう。


 身近なもので例えるならば、うどんとピザが同じと言っているようなもの。誰がどう考えたってそれはおかしいと感じるはずだ。


『だから歯みがき粉だって。もしかして聞こえなかった?』


「喧嘩売ってんのか?」


『あたしは事実を述べただけだし』


 これは、あれだ。こいつには後でたっぷりとチョコミントの良さを知ってもらわなければならない的なイベントだ。


「チョコミントはミントの味がする。ここまでは共通認識ということでオーケー?」


『ミントは歯みがき粉の味である。よってチョコミントは歯みがき粉である。きゅーいーでぃー、証明完了ってわけさ』


 こいつはもっと演繹法について勉強した方がいいと思う。特に三段論法について。俺も最近授業で少し触れた程度ではあるが、天使様の理論がおかしいことくらいはわかる。


 まず、ミントが歯みがき粉味なのではなく歯みがき粉がミント味というところから。ここの時点で前提条件が狂っている。つまり矛盾が生じているということだ。


「……おい天使」


『なんだ人間。あたしの(スーパー)完璧な論理のどこがおかしいっていうのさ』


「面倒だから言いたくねぇ」


『ならチョコミントは歯みがき粉で決定だなっ! 異論は一応認めるけどさ』


「認めるのかよ。まずな、ミントとチョコの組み合わせから……」


 こんな風に二人で歩く道。生温い風が頬を撫で、天使様の長い金髪が時折腕に当たる。正直に言おう。ここまで近付く必要はあるのだろうか、いやない。


 単純に鬱陶しいだけだ。ただでさえ暑いのだから、これ以上暑くなることだけはしないで欲しいのに。


『……あのさっ、熱中症ってゆっくり言ってみてよ』


 持たされたビニールの袋はがさがさと音をたて、近くの道路にはたくさんの車が走っている。そこらじゅうにある信号が一気に青に変わり、人々は一斉にアクセルを踏んでいく。


「断る」


 熱中症。ゆっくり言うと、ねぇチューしよう? に聞こえる罠。俺がそんな単純なものを踏んでしまうはずもなく。


『暑さで思考能力が下がったことにしてから、ちょっと襲っちゃおうかなって思ったのに』


 天使様に代わりに踏ませることもせず。俺の日常は平穏そのもの。なにも起こしたくないからなにも起こらない。


 ネットでの情報収集以外では自発的に動かないから、安寧の日々が崩れることもない。天使様が来るまではそうだったのだ。


「なんとなく予想出来てたけど。それ、ネットで聞いたことある手口だし。既成事実ってやつだろ。俺にキスなんてものをして何が面白いんだよ」


『なぁんだ、知ってたんじゃん。ならこれ以上あたしに言わせんなし、ばかっ』


「あーはい、そうですか」


 彼女がここに、というか俺の所に来てからいろいろなものが変わっていった。まだおじいちゃんでもなんでもないのに思い出に浸るとか、最近の俺はどうかしていやがる。


『でさ、アイスは普通にレギュラーのシングルにするわけ?』


「ぶっちゃけダブルで頼んだ方が安上がりなんだけどな」


『そうしたら無条件で同じアイスをつつくわけだ。チョコミントが混ざらなければそれでもいいんだけどね』


 安く済ませるか、それとも健全な方を選ぶか。うんうんと唸っている内にいつの間にか目的地のショッピングモールにたどり着く。


『フードコートはここの三階だっけ? まぁ、案内板見れば一発でわかるけどさ』


「ちょっ、まだ何も決まってねぇんだけどっ!」


『思いきってトリプルを二つ頼めば全部解決っ! 天才的発想っ!!』


「……それ、なんも解決してねぇから」

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