31 優越的モブの俺は勝負服に全てを賭ける。
ベッドの上の山。日本一低い天保山ほどではないが、東京の高校生とは思えないレベルで平らだったり。楯状火山ってこんな感じなのか。うん、いとむなし。
「……服がねぇ」
花咲さんとの待ち合わせは明日に迫っている。日曜日の九時に水族館の最寄り駅に集合というのが金曜日の内にLIMEで送られてきた。
小学校の校外学習で行ったことはあるから迷うことはないだろう。それよりも問題はこっち。
クローゼットに入っているのは、ジーンズが二、三本とダサいTシャツと単色のパーカーだけ。
こんな姿でデートに行けるか、いや行けないだろう。流石にダサ過ぎる。ダサいを通り越して社会的に死ぬ。マジで一生の恥。
『どこで買う? というかファッション系のお店入れる? 入れないからこうなったんだろうけどねー、ドンマイ』
天使様はこの始末だし。どうするのが正解なのか。ちなみに俺のお財布はシベリア並みだったりする。どんなに安い店でも全身コーデするには少し足りない気がする。
「金もねぇんだが……」
親指と人差し指で描かれる円形。片手版の埼玉ポーズではなく、マネーを指す記号。胸の高さまであげてから数回振って、そのまま手を広げる。
まぁ、すっからかんというわけだ。ある程度は銀行とかに貯金してあるけれど、大学の学費用だから手を付けるわけにはいかない。
『うへぇ。ならさ、服を借りられるような友達とか親戚は? 流石に、誰かいる……よね?』
「いねぇよ、そんな奴。いたらもっと華のある高校生活送ってたっつーの」
『薔薇の花? ガチムチ生徒会長に|(自主規制)』
「それ以上はアカン」
前々から思ってはいたが、この天使様、いろいろなカルチャーに染まりすぎではないだろうか。それに俺はノーマルだ。
ギャルゲー時空で男性に囲まれたって全く嬉しくもなんともない。それをギャルゲーと言うのかは普通に疑問であるけれど。
「俺は薔薇にも百合にも興味はねぇ。ただし人の趣味に口を出すつもりもさらさらねぇけど」
『お前……自室だとさ、とたんに口悪くなるよな。もしやデフォルトはこっちってわけ?』
天使様よ、コーディネート選びに協力するつもりが無いなら黙っていてくれ。俺はとても忙しいんだ。薔薇とか百合の話をしているようにしか見えないけれど。
『その視線、あたしに黙れと言いたいのか。もしくは似合う服を買えと。誰がパシリじゃ、誰が』
「……一緒に買いに行けばパシリじゃないだろ? そして先にパシリ宣言をしたのはそっちだ」
『他意はない他意はない。これは無自覚系のアレだ。とりあえず深呼吸して呼吸を整えるか。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー』
突然顔をそらした天使様。長い金髪が俺の顔を容赦なく襲ってくる。普通に痛い。刺してくる系統の痛み。拷問かなにかだったりするのだろうか。
あとラマーズ法はそこまで効果を期待出来ないとどこかで聞いたのだが。それにこんなシーンてするべきものでもないし。
『ふぅ。で、さっきはなんて?』
「パシリ宣言がどうとかってやつか?」
『その前の』
「いや、一緒に服を買いに行けば良くねって」
『聞き間違いじゃない、だと? えっ、もしかして、もしかしなくてもそれってデート的なサムシングだったり?』
「でえと? どこがデートなんだ?」
異性が二人きりでいつもと違うことをすればそれはデートである。どこかの誰かが言っていそうな台詞だ。天使様ではなく、もっとまともな倫理観を持っていそうな人が。
『はぁ。そんなんどうだって良いか。デートだろうがデートじゃ無かろうが行くぞ!』
「ちょっと待って、俺の着替えが終わってねぇっての!」
『お前はお着替えに一時間も二時間もかける女子か。最悪、制服着りゃなんとかなんだよ。まだ学生だからな。あと、買い物に行くだけだから着替えに迷うことなどないっ! 最悪パジャマでもイケるっ!!』
シャツとズボンとパーカーが比喩抜きで空を飛び、俺の顔面に衝突する。狙ったかのように全部赤。行動にブレーキをかけつつ、天使様に抗議の視線を送る。
『というわけで着ろ』
「ダサいからやだ」
『良いから着ろ』
「だが断る。俺は芸人じゃない」
『ならばあたしがお前を脱がす。久しぶりのお前のボディー、ぐへへぇ。きっちり堪能させてもらうからね。じゅるり』
「黙れ変態」
服を持って洗面所まで歩き、中に天使様がいないことを入念に確認してから鍵を閉める。ヘアピン一つで簡単に開くものではあるが、無いよりはずっとマシだろう。
『開けろー、見せろー。あとあたしは変態違うからー』
「人の裸体を見たいって言ってる時点で……な?」
『なぜ疑問符っ!』
俺は寝間着に手をかけ|(以下略)天使様に押し付けられた服を着るのであった。
特別整っているとも言えない平凡な顔が洗面所の鏡に映る。主人公などにはなれず、なにもしなければ景色に埋没してしまうような一般人。
「はぁ……」
『どうしたのさ。ため息つくと幸せが逃げちゃうんだぜ?』
「いや、別に。お前のファッションセンスが死んでんなーと思っただけ」
『ちょっ、それ酷くないっ! スペインのトマト祭りをイメージしたんだけど』
「トマト祭りはまだ先じゃね?」
『……もうっ、着替え終わったならささっとしもむら行くよ!』
「もっとマシな服に着替えてくるわ」
自室で着替えた後、俺は黙ったままリビングに行き、自転車の鍵と家の鍵をポケットに放り込む。今家には俺と天使様しかいない。
「おい天使」
『なんだ人間』
「ちょっと外の方を向いててくれないか?」
『別にお前のタンス貯金に興味なんて無いし、これに関しては全額あたしが出すから』
「なんで知ってるんだよ……」
『いや、天使ですから?』




